[コラム]ものづくりの視点

vol.02長野県ものづくりのさらなる飛躍は「プラス思考」で
長野経済研究所 理事調査部長
平尾 勇

「プラス思考」の極意とは?

ドイツのある中小製造業を訪れたとき、案内してくれた機械卸商社の社長さんからこんな話を聞きました。

「一般的に、ドイツの中小製造業はプラス思考ですね。価格を積み上げて、その価格に見合う"製品の価値"を相手に提供する。たとえば、おつりを計算する場合、日本では100円-60円=40円と計算するのですが、ドイツでは60円+40円=100円というふうに、価格におつりを加えるという思考回路なんです」

その後ドイツの中小製造業を10数社回ってみると、おぼろげながらその意味するところが見えてくるような気がしました。

厳しい市場競争の中で、日本の中小製造業が利益を出すためにはおそらく、価格-コスト=利益という式が当てはまります。市場価格を前提として利益を出すためにはコストを引き下げるしかなく、コスト削減が至上命令となるわけです。一方、ドイツの場合はどうか?

コスト+利益=価格という式の中で、自分の意向に沿って価格を設定する傾向が強く、コストに利益を積み上げて事後的に価格を決める。相手もその「製品の価値」に満足して、その価格で購入する。つまり、プラス思考が結果的に高い利益率をもたらすことになるのです。

では、小さな市場で価格の設定者たりうる秘密はどこにあるのでしょうか?

訪れたドイツの中小製造業の説明を聞いていると「カスタマイズ(顧客仕様)」という言葉と「パートナーシップ(対等な関係)」という2つの言葉をよく耳にしました。相手の個別具体的なニーズに対応するということ、すなわち「顧客仕様」への対応によって新たな市場を作り出すことが可能になり、顧客と提供者は1対1の関係になります。

ここで問われるのは価格というよりも「製品の価値」そのものです。小さなマーケットで双方が必要性を認めて一つの製品を共有するとき、そこに「対等な関係」が形成されます。つまりこの2つの言葉は表裏の関係にあって、顧客仕様を追求することで対等な関係を作り出して、それによって価格設定者たりうる立場を確保できるのです。

「プラス思考」の極意とは何か?

価格をもって差別化するのでなく、たえず手間隙かけて品質を磨き上げた「製品の価値」をもって差別化することではないでしょうか。つまり、顧客仕様に柔軟に対応すること、そこに利益の源泉が隠されているという認識をもつことだと思うのです。すぐれた技術力を単にそれだけで勝負するのでなく、「カスタマイズ」することによって新しい市場を作り出し、そこでプラス思考による価格設定が可能になる...。

長野県のものづくり中小製造業の技術力はすでに折り紙つきです。そうであるならば、この技術力にさらに磨きをかけ、プラス思考の展開を図ることで、より力強く、よりグローバルに飛躍する中小製造業の姿が実現するに違いありません。製糸業の時代から息づくものづくりDNAは現在も脈々と引き継がれ、長野県におけるものづくりの潜在力は測り知れないほど大きいと思うからです。

【掲載日:2008年7月31日】

平尾 勇

長野経済研究所 理事調査部長
(株)富士総合研究所を経て、1991年八十二銀行入行。同年(財)長野経済研究所へ出向。 02年調査部長 05年から理事・調査部部長。専門は地域政策論。長野県経済を中心に産業構造分析、産業振興策、地域づくりに関する調査などを担当。
http://www.neri.or.jp/