[コラム]ものづくりの視点

vol.10ものづくりは“音”
LLCプロセスフォーカス代表
森本 五百樹

ものづくりの“音”には心と心の対話がある

稲穂が垂れ、お米の収穫の季節になりました。これから、おいしい日本酒が長野でもつくられることでしょう。今から来年できる新酒の味が楽しみになります。

さて、日本酒をつくる工程は、かなり複雑で長いのですが、その中でもポイントは、仕込んだお酒の発酵熟成具合を確認しつつ、どのタイミングで、それを完了させるかといいます。このタイミングの良しあしがお酒のすっきり度や飲み心地を決めると聞きました。

問題は、この熟成具合を何で知るかです。何でしょうか。
発酵の状態を眼で見る、色を見る、糖度や酸度を測定する・・・・・、いずれも違います。音なんだそうです。冬、しんしんと凍るような夜。杜氏が仕込み樽の脇で、静かに音を聞く。醗酵してくる音が、プツプツ、ブツブツと激しく耳に響く。その音の具合を感じ取って、冷水を注入して発酵を止めるかどうか、判断する。なんだか、お酒と杜氏がおしゃべりをしているような気がしませんか。

何年か前のNHK「プロジェクトX」で、「千年の秘技 たたら製鉄復活の炎」が放映されました(2005/3/29)。ご覧になった方も多いと思いますが、そこでも音が出てきます。

3日3晩、不眠で、砂鉄を炉の中に入れていく。その回数1000回。激しい炎をあげて鉄は燃え盛る。やがて、ふいごの風の音の中に、ジージーというかすかな音色が響いてくる。これが鉄の産声なんだ。たたら鉄は、普通より約300度低い温度でゆっくり溶かし出される。3昼夜かけて鉄の子供が生まれてくる。その名も「玉鋼(たまはがね)」という。

ものづくりは、つくる人と、つくられるものとの、心と心を通わせた対話があるようだ。人間は、太古の昔から道具を作ってきましたが、その原点は実に詩的であり、情念的ですね。そして、そこにものづくりの哲学を見る思いがします。

【追記】
プロジェクトXで放映された「たたら鉄の復活」を実際に担当した島根県の製鉄会社の方(私どもの仲間です)が、11月12日に善光寺バレー研究成果報告会2008(国立長野高専地域共同テクノセンター)で「古代たたら製鉄」について特別講演されます。興味のある方はぜひご聴講ください。

 

 

【掲載日:2008年10月22日】

森本 五百樹

LLCプロセスフォーカス代表
長野市出身 1946年生まれ ㈱東芝、GE東芝タービンコンポーネンツ、北芝電機勤務を経て 2007年 LLCプロセスフォーカス設立し、プロセスアナリシスとビジネスアナリシスをツールに経営改善をコンサルテイング並びにIT支援を行なっている。