[コラム]ものづくりの視点

vol.13地域の優位性を確立しよう
信州大学工学部教授、信州大学地域共同研究(CRC)センター長(工学博士)
三浦 義正

変わることを恐れない社会に

 筆者は、信州大学地域共同研究センターという部署を預かっておりますので、今回は地域に関連する話題を考えてみます。

 地域イノベーションという言葉をしばしば聞かれるとこの頃かと思います。イノベーションとは何でしょうか。むかしは技術革新と訳されることが多かったのですが、技術に限らず非連続的な変革を創出する新しい組み合わせのことを指します。AあるいはBという良く知られた技術や方法であっても、AとBとを組み合わせたらそれまで考えもつかなかった新しい社会システムを生み出すことがあります。シュンペーターという学者が「新結合」と呼びましたが、これがイノベーションを唱えた最初といわれています。

  ですから、イノベーションは決して難しいものでもなければ学者でなければ創出できないものでもありません。にも係らず、かつて元気であった地域が競争力を失う一方で、イノベーション創出により競争力を獲得していく地域もあります。カリフォルニア大学のサクセニアン教授は(AnnaLee Saxenian)その理由を調べていますが、次の五つを要因に挙げています。

  (1)創造性・・・失敗を恐れない、敗者復活の路の有無
  (2)専門性・・・高度な知識、技術の有無
  (3)柔軟性・・・市場の動きを読み取るスキルの有無
  (4)流動性・・・人的資源に対する競争原理の有無
  (5)多様性・・・多様な人種・国籍を活用する環境の有無

 これを簡単そうだと見るか、難しそうだと見るかは人それぞれかも知れません。些細なミスを寄ってたかって責めたり、自分と意見の異なる人を排除してしまう社会、前例から抜け出せない組織など等、我々の周りには未だイノベーションを阻害する要因が多々見うけられるようです。イノベーションは、何遍も失敗して初めて生まれることが多いでしょう。チャレンジした人が少なくとも損をしない社会風土の形成が大事です。よく「大過なく過ごせばよい。」という風潮がありますね。これがイノベーションにとっての大敵です。
サブプライム問題のように、アメリカも決して良いことだけを世界に広げている訳では有りませんが、大統領選挙ではChange! がキーワードになっています。我々も変わることを恐れないようにしないといけませんね。

 信州は地理的には首都圏に近く、かつ大自然に恵まれています。私が教師だから言うわけでは有りません、信州の大学の力を強化(高度化)して、大学を教師や地域の多様な知識や意見を持つ人々が気楽に集える場(ハブ)にしたいと考えています。多様な人材を信州に呼び込むことが「信州から様々なイノベーションが創出される」基になりそうです。

 

 

【掲載日:2008年11月 5日】

三浦 義正

信州大学工学部教授、信州大学地域共同研究(CRC)センター長(工学博士)
昭和19年生まれ。富士通(株)において研究室長、研究部長、ストレージ事業本部技師長等を経て、平成15年より信州大学工学部教授。平成17年よりCRCー長として地域連携、産学官連携推進に従事。専門分野は磁気記録技術、HDD等情報記憶装置技術。