[コラム]ものづくりの視点

vol.50過剰品質、過剰機能の日本のものづくり
山岸國耿

強すぎる品質の呪縛をとけ

 先日、大手精密機械メーカーの社長さんの講演をお聞きする機会がありました。曰く、「わが社は一貫して、付加価値の高い高品質で高機能な製品作りに邁進してきた。その結果、いくつかの製品は世界シェアが一番になった。しかし最近では、中国等のメーカーに追いつかれシェアナンバーワンを次ぎ次ぎに失ってきている。特に問題なのは、いわゆるインドのタタ自動車の20万円自動車に象徴されるような、"桁違いの安価な製品を作る技術が、当社に無くなってきている"ことだ。将来のあり方について、長期戦略を練り直しているところだ。」とのお話がありました。

 日本の過剰品質を物語る話として、太平洋戦争中「ロシアの戦車の鋼鉄は、弾丸や地雷に対処し分厚く頑丈にできている。日本の戦車は、見たところが良くなるように、車体の底や隅々までやすりを架けて必要以上に磨いてある。ロシアの戦車は、外見などにまったく配慮せず、ただ戦闘に備えて堅固第一に作られている。」と聞きました。
 また、磁具を作っている県内企業を訪問した時、「幅5cm、長さ10cmの長方形の磁具の場合、消費者が使用する時は、寸法の正確性をそれ程必要としないけれども、当社では精度の高い長方形になるように製作している。しかし欧州の類似製品の精度は、消費者の求めるレベルに合わせて必要以上に高くはせずに、ラフにできている。」との話がありました。

 ものづくりに当たり、日本人のこのような、"精度も外見も心を込めて最高の製品を作る"、この精神が戦後の日本のものづくりを世界一にした・・・との意見が有ります。
 一方では、私のように高齢になりますと、携帯電話は電話機能程度しか使いませんので単機能で安価な製品が欲しいな・・と思っていますし、銀行のキャッシュカードを使用する時など、挿入方向を示す矢印をもっと大きくしてもらいたいな・・・とも思ってしまいます。

 先般、日本経済新聞社の経済教室の記事で、工学院大学の畑村洋太郎先生が、「日本のものづくりには、過剰機能の過剰品質なものを過剰な量を作るという3つの過剰がある。むしろ過剰を排し、顧客目線にあったものを適量作ることだ。"日本のものづくりにある強すぎる品質の呪縛を解け"」との記事がありました。
 将来を見据えた時、日本のものづくりにとって、示唆に富む大切な視点だと思いました。

【掲載日:2010年6月 4日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任