[コラム]ものづくりの視点

vol.70成功の鍵は、生産技術か製品技術か
山岸國耿

高い土地、高い人件費でなぜ安くできるのか・・・・

 先日ある会社の社長さんから、「下請け仕事の話が神奈川県の大手の会社からあったが、受注を逃してしまった。東京の会社に持っていかれた。受注単価が東京方面のほうがずっと安くできる。」とのお話をお聞きいたしました。
 又、以前ある建築会社の社長さんから、「今回自社の社屋を建築したいと考え、自社で建築した時の見積もりをし、更に東京の建築会社にも、見積もりを頼んだところ、自社で建築するよりもかなり安くできることがわかり、結局この会社に建築を依頼した・・・」とのこと。
 「下請け仕事など、受注単価が東京圏や名古屋圏方面が安い、長野県のほうが地価も人件費も安いのに受注単価が高い」との話を時々聞きました。理由の一つに、東京圏等は、同業者の数が格段に多く、競争が大変激しいことがあげられています。結局その競争が、物を安く作る技術を向上させているといえましょう。

 さて製造業には、新商品を開発し、生産し販売するという一連の工程が有ります。
 これらの中で、生産する技術は文字どおり"生産技術"といい、なかでも激烈な競争で、商品を"より高品質で、より安く、より短期間"で生産する技術が最も必要とされています。トヨタ生産方式などに見られるような「かわいた雑巾を更に絞る」といわれるコストダウン技術等が、その一例といえましょう。
 一方、生産技術以外の 商品を開発し販売する工程の技術のことを"製品技術"と言っています。主に客が買いたい商品、求める商品を開発する技術と、これらを販売する技術を指しています。
 "How to Make"どう作るかは生産技術、"What to Make"何を作るかは製品技術と言っています。

 県内の製造業の大部分は、前にも述べましたが「部品型企業」といわれる生産技術主体の下請け的企業です。一面 分野によっては、東京方面や名古屋方面と比較した場合、同業者間の競争が少なく受注単価が高いとも言われ、生産技術の向上が大きな課題となっています。昨今は、競争相手企業が国内のみならず、東アジア一帯にも広がっており、大変厳しい環境にあるといえましょう。

 県内にはこれらの工程全部を持ち、商品の値段を自社で決めることがでる自社商品を持つ、いわゆる「製品型企業」も電機や農業機械メーカなどにあります。その多くが、大企業にはできないニッチ(すき間)な市場に狙いを定めた企業です。生産技術も当然必要ですが、これら企業の場合キーテクノロジーは、むしろ製品技術にあり、今後技術開発力や販売力の向上が急務です。

 いずれにしても、自治体等の政策当局にとっては、企業誘致を一層進めることによって集積を図ると共に、企業にとっては、それぞれのタイプによってその成功の鍵(KFS)となる技術は異なりますので、必要とされる技術に的確にねらいを定めた技術力の向上が求められましょう。

【掲載日:2011年1月11日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任