[コラム]ものづくりの視点

vol.77「12²+1」(12の二乗プラス1)
財団法人長野県テクノ財団 事務局長
林 宏行

DTF欧州販路開拓ミッションより③

 ミラノ市内からバスで北西へ向う。海抜ゼロのベネチアはもとより、イタリア北部はアルプスを望むところまで緩やかな丘が続く。街を抜けハイウエイを1時間ほど走ると視察先の「Quanta System」社はあった。周辺は、工場やオフィスが区画を分けているが、5分ほど歩けばゴルフ場もある。快晴、2月上旬とは思えない穏やかな陽射しに、コートはバスに置いてきた。
 オフィスの正面は、全面がミラー硝子となっていて、冬の空を映して碧い。その空に大きく「Quanta.System」と赤いゴシックの文字が浮かぶ。そして、オフィスに入るといきなり「12²  +1」という文字がデザインされた赤いポスターが目に飛び込んだ。12×12=144、+1=145??...その不思議な計算式の意味など聞く間もなく会議室に案内され、プレゼンテーションの準備が始まった。
 見渡すと、製造現場とは思えぬほどの美しい内装に目を奪われる。通路や部屋のドアノブ、窓枠などにまでそれぞれ独自のデザインが施してあった。ことに曲線や白に黒、赤の色使い、輝きを放つ金属の使い方が巧みだ。ユニフォームは支給されていないという従業員は皆オシャレで相対的に若々しく見えた。
 さて、開放的でスタイリッシュなテーブルに着いた研究開発マネージャーのフェラーリオ(Fablo Ferrario)氏は先ず、背にした大きな液晶画面に「DNA Laser Technology」という文字を映しながら、1985年の創業以来、レーザー一筋に魂を注いできたことがQuanta社の真髄だと強調した。
 研究者であった彼の父(現社長)は、レーザーこそがこれからのイノベーションの中心となると信じ、他に目もくれず取り組んできたという。以来、一代でこのポジションを築くことになるが、驚くことに今も25%もの成長を見込むそうだ。確かにレーザーの活用分野は、産業、軍需から医療、そして美容へと拡がっている。
 しかし課題もある。それは、急成長を続けるQuanta社であっても、大半がOEM生産に依存せざるを得ないということだ。製造されたレーザー装置は、それぞれの国で許認可を持つ既存の医療メーカーに名を付され販売される。ある意味ではリスク排除の側面も否めないが、医療分野における規制のハードルと医療現場の閉鎖性、新規参入の難しさを物語ってもいるようでもあった。
 開発担当のアレキサンドラ(Alessandro)を横におき、社の技術の先進性を熱く語る若きフェラーリオ。幾たびも口にした「DNA」という言葉には、その技術とともに、彼の父に対する思いと誇りを強く感じた。
 そして処はオフィスに程近いゴルフ場のレストラン。私はテーブルにつくと、通訳の栗林かおるさん(高島産業(株))を介しながら、横に座ったフェラーリオに「12²  +1」の意味を聞いてみた。そして彼は、アレキサンドラと顔を見合わせながらこう言った。
 それはイメージ。「12」はPresident(プレジデント)の刻んできた「時」を、「2乗」は「未来」を、「+1」とは「プラスα」...つまり「人間性」とでもいうか、計算によって得られないひとつの「オマケ」というか...つまり、イメージ、デザインなんだ...。
 そういえばイタリアの風土もデザインも、「計算」では得られない、人間的なエネルギーの現れのように感じた。笑顔で応える若い二人に、何ごとにも直ぐに計算しようとしてしまう私たちの頭の硬さをちょっぴり恥ずかしく、そして、ひとマネではない、人間味のある何か一つを加えることが今の日本には必要なのかもしれないとおぼろげに思った。フェラーリオおすすめのパスタと粉チーズを待ちながら...。

110307_01.jpg(DTF研究会欧州販路開拓ミッション9日目。ミラノより)

【掲載日:2011年3月 7日】

林 宏行

財団法人長野県テクノ財団 事務局長
1963年下伊那郡喬木村生まれ。長野県商工部振興課、総務部地方課、市町村TL(課長)、下伊那地方事務所地域政策課長などを経て、2010年4月から現職。http://www.tech.or.jp/