[コラム]ものづくりの視点

vol.94諸制度の「国際大競争時代」
山岸國耿

ITもその一役を担うか・・・・

 先般来、「5重苦」や「6重苦」との言葉が、新聞紙上などによく見られるようになりました。これらは、我が国の円高や、高い法人税、貿易自由化の遅れ・・・などの企業を巡る経済環境のことを指しています。諸外国の企業との厳しい競争状態にある自動車、電機などの外需型企業からは、悲鳴が聞こえてきます。加えて最近の電力不足もその一つに数えられています。

 先日の日経新聞紙上で法政大学の小峰教授が、「震災からの復興には経済成長が、決定的に重要だ。」と言われています。言うまでもなく、経済が益々グローバル化してきている現在一国のみでの繁栄はありえず、企業の国際競争力を、更に一段と強くすることが必要と言えましょう。

 その一つとして最適な経営環境を作ることが、企業が国際競争を勝ち抜くためにも又外国企業を呼込むためにも、そして雇用を確保する上からも肝要となってきています。

 その一例が、教育制度。企業のためということのみではなく、将来ある子供たちのため、数十年後の我が国を考えた時、諸外国に負けない教育環境や制度が必要と思いますが、果たしてどうなのか。学齢を1歳早くから始めている国、英語教育を重点的に進めている韓国、世界大学ランキングで低位にある日本の大学・・・などをみた時、目先の改革でなく将来を見据えた教育制度の抜本的改革が、必要であろうかと思います。

 更に、税制、あるいは弁護士、薬剤師など各種の士・師制度、金融制度や雇用制度など、国のあらゆる分野の「制度や規制のありよう」が、諸外国との競争となってきています。

 一方、よくインターネットやツィッタ-に象徴されるITが、その変革の大きな力となるだろうと言われています。
 先般の中国高速新幹線の脱線事故問題やエジプトなど中東諸国での政変、イギリスの暴動事件などでネットが、大きな関わりを持ってきています。

 更に、先日の日経新聞によりますと、米国グーグルのエリック・シュミット会長が、「デジタル社会となって情報の自由な交流が始まると、従来の国境による国家の権威は徐々に衰退していくだろう。」との趣旨のことを述べておられます。

 以前から世界各国の諸制度がITによって変革を迫られるだろう、諸権威が溶解するだろう。・・と言われていますが、その先に国家までもが変革を迫られる状況となってきています。

 政治体制等がある程度成熟してきている我が国では、ITにはまだ他国程の大きな影響力は見られませんし、それぞれの制度は歴史があり社会に根付いています。又それぞれには多数の関係者がいますので、一挙に変更することはできませんが、我が国でもネット人口が広がるにつれてITが改革への大きな力となっていくのではないでしょうか。更に英語などの言葉の障壁が低くなれば、海外情報が瞬時に把握されて、我が国の状況と比較され、改革を促す力になるものと思います。
 諸制度の再設計は当然政治の責務の一つですが、ITもその一旦を担っていくでしょう。

 何れにしろ、「諸制度の国家間競争」が一段と激しくなり、遅れればギリシャのように信用不安が広まり市場からの撤退や、上げて儲け下げて儲けるファンドなどの巨額の投機資金に"すき"を狙われて、有無を言わせない「市場の暴力」にさらされることとなりましょう。

 一企業のみでなく、国全体が変化に厳しく対応せざるを得なくなり、今後益々諸制度の国際的な大競争時代になるのではないでしょうか。

【掲載日:2011年8月26日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。
長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年5月に公益財団法人 HIOKI奨学・緑化基金の監事に就任。
平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任。