[コラム]ものづくりの視点

vol.98縦割り現象
山岸國耿

 先日、ある大手証券会社に勤務している20才代の知人が、訪ねてきました。「実は会社を辞めた。まだ再就職先は決まっていない。」とのこと。「大企業に勤務しており将来を大いに嘱望されていたのに、残念だ」と言ったところ、「会社の都合もあって・・・」とのことでした。

 最近大手の銀行グループでも、人員削減の動きがありました。更に電機関係の大手企業からも、業績の悪化による同様の話を聞きます。

 私の若いころ倒産とか、首切りと言えば、まず中小企業でした。大企業に就職すれば、退職まで安泰だ。 ・・・と決まっているようなものでした。大企業を頂点とし中堅企業、中企業、そして多数の小企業とピラミットのように企業構造を描いた時、大企業グループに倒産が少なく、中小企業グループに倒産が多いという状況を指して、このピラミットを上と下とに横に切ったような「横割り現象」であった。・・と言えましょうか。

 しかし、最近では大企業でも終身雇用を保障されない厳しい時代となってきています。
 中小企業のみならず、大企業でも実質的に人員整理をする企業も多くみられ、大企業でも中小企業でもそれぞれが、健全な会社とそうでない会社とに分かれる構造となって、ピラミットを縦に切ったような「縦割り現象」となってきています。

 森は、古い木を倒木しなければ新しい木が育たない。・・・との、「倒木更新」という言葉があります。地域の雇用等に大きな貢献をしている企業の倒産は、影響も大きく大変残念なことですが、一面リスクを取って利潤をあげている現在の株式会社制度は、倒産も想定していると言えましょう。

 技術革新や消費者動向の変化、グローバル化などによって、産業の新陳代謝は益々短サイクル化してきています。海外企業の動向にも全く目を離せません。一瞬の判断のミスから商機を失うと、大企業といえども短期間に経営自体に大きなダメージを受ける時代となりました。更に今後、市場からの強制退場を迫られる事例が多くなる、厳しい経済環境が予想されます。
 今回は、良く知る優秀な知人の退職から、経済環境の大変な厳しさを肌身で感じた次第です。

【掲載日:2011年11月30日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。
長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年5月に公益財団法人 HIOKI奨学・緑化基金の監事に就任。
平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任。