[コラム]ものづくりの視点

vol.101モノづくり「百名山」へ
財団法人長野県テクノ財団 理事長
市川浩一郎

120104_1.jpg  復興への槌音の中で新たな年が明けました。あの日の震災は、戦後築き上げた暮らしや経済のシステムにも大きな影響を及ぼしています。深い傷跡と悲しみを残す日本にとって本年は、再生復興への道筋を確かなものとする大切な年になろうかと思っています。

 さて、人類社会の未来予想図には、様々な課題もあります。増加し続ける世界人口、高齢化社会を迎える先進諸国、地球規模の環境問題...、私はこうした課題の中にこそ成長のヒントがあると考えています。

 例えば医療や福祉の現場、エネルギーや環境保全、災害への対応やサプライチェーンマネジメントなど、それぞれの分野にある「課題解決」を目指すことで新たなるイノベーション=「次世代の核」が生み出されるように思うのです。

 昨年、長野県の産学官金が連携して策定した「次世代産業の核となるスーパーモジュール供給拠点」構想が、国(文部科学省、経済産業省、農林水産省)から、地域イノベーション戦略推進地域(国際競争力強化地域)の一つとして選定されました。また、選定にあわせて文部科学省から採択を受けた戦略支援プログラムに基づき、メディカル産業育成のための信州大学の機能充実や、テクノ財団のメディカル産業支援センターの設置(松本合同庁舎)などが行われ、産学官金連携によるサポート活動がスタートしています。

 「メディカル」の世界市場規模は、医療機器だけでも25兆円と言われています。震災や円高の影響で停滞ぎみの地域経済でありますが、その市場の一角を担うだけでも経済効果は大きいものがありますし、雇用促進にも繋がるでしょう。そして何よりも、医療を必要としている方々の願いや希望に応えてゆく、それが本戦略の真髄であろうと思います。

 また、二期10年にわたり進めて参りました県内最大の産学官プロジェクト「信州スマートデバイスクラスター」構想がこの3月で終了いたします。延べ300社に及ぶ企業が参画、それぞれの技術に信州大学や東京理科大学、長野県工業技術総合センターなどの「ナノテクノロジー」を融合させて新たな技術や製品が産み出されてきました。こうした産学官連携の成果を地域産業に広く還元できるよう普及活動に取り組むのも重要な役目です。

 もとより長野県のモノづくり産業は多様であり、それぞれの企業は超精密加工技術などの得意技を持っています。その独自技術を活かして、メディカル分野のみならず環境・エネルギーなどのグリーンイノベーション、さらには航空宇宙分野にも果敢に挑戦していただけるようサポートして参る所存です。

既定路線に甘んじることなく、それぞれが秀でた技術を持ち、自立した「百名山」となれば、地域経済はより強くなるでしょう。

 長野県テクノ財団は本年4月から「公益財団」として再スタートいたします。これまで皆さまから頂戴しましたご厚情に心から感謝申し上げますとともに、今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

【掲載日:2012年1月 4日】

市川浩一郎

財団法人長野県テクノ財団 理事長
不二越機械工業株式会社代表取締役社長。2005年4月(財)長野県テクノ財団副理事長に就任、2011年4月から理事長。