[コラム]ものづくりの視点

vol.118強力「触」地域 ~県外からみた長野県2~
長野県テクノ財団 メディカル産業支援センター
由佐 史江

 先の寄稿で、松本市から頂戴した「博物館パスポート」について触れました。この「博物館パスポート」を利用しながら、松本市内の色々な美術館、博物館を訪問させていただいています。今回は、「松本市立考古博物館」「四賀化石館」を訪れた際、感じたことについて述べたく思います。

 県外出身、と記してきましたが、私は奈良県の出身です。それなりに考古学について知識を得る機会には充実した県で育ったつもり、なのですが、その立場から「松本市立考古博物館」の展示スタイルには、新鮮さを覚えました。

 「展示品」はショーケースの向こう側にあるもの。大事な「宝物」として、息を殺して「見るもの」だと思ってきました。「展示品に触れる、なんてことはあり得ない」というのが、私の中では常識でした。

 それが「松本市立考古博物館」では、「ご自由に!触って!触って!」と、触れることを推奨、かなり身近に展示されています。触ってはダメらしいものも、展示品と自分の間にガラスの仕切りなんてないので、ギリギリまで近づけますし、真上から覗き込むことだってできます。(縄文土器の内側が、あんなにスムーズに整えられている、とは知りませんでした。縄文時代の技術の高さ、繊細さが、よくわかったように思います。)

 「四賀化石館」も同じく、触ることができました。見た目ではわからない重量感、凹凸などを肌で感じることができて、非常に楽しかったです。

 展示品を「見ること」と、解説文を「読むこと」という視覚からの情報で納得するべきところに、「触ること(触覚)」が素直に付加されたスタイル。この「松本市立考古学博物館」「四賀化石館」での経験から、「手で触ることが大事」という信州気質が垣間見えたような気がしました。そこには、「百聞は一見にしかず」を超えて「百見は一触にしかず」という素地があるように思います。

 「触らないとわかった気がしない」という角度で捉えると、なんとなく「頑固な信州人」の顔が、私の脳裏に浮かび上がりもしますが、この「手の感覚が大事」ということも、「ものづくり」の精神が育ってきた土台の一つなのではないでしょうか。

 今は「触」に対して、大きく揺れ動いている時代です。実物を触らずにネットを通して買い物が出来る社会となり、「セカンドライフ」という言葉も、日常のものとなってきました。しかし、その一方で、「実物に触れる」ということの重要性が失われたわけではありません。「触」から離れるからこそ、「触」の重要さを認識できる、という傾向もあるかと思います。

 メディカル産業支援センターからも、海外の展示会への出展を支援する事業を展開しておりますが、例えばドイツのデュッセルドルフで開かれる世界最大の医療機器関連見本市MEDICA(COMPAMED併設)へは、昨年度で約130,600人の来場があった、と報告されています。デュッセルドルフ市の人口は約60万人。デュッセルドルフ市内のホテルでは許容できないぐらいの人間が、ドッと押しよせ、一気に人口密度が上がったかのような状況が想像できます。展示会の目的はそれぞれですので、簡単には言えませんが、それでも「実物あります!」という呼びかけに、これだけたくさんの人が世界中から反応するわけです。

 グローバル化に伴い、「自己表現」が適切にできているのかどうか、問われる時代です。その上で「触」の変化にどう対応するべきなのか、ということも大事なポイントのように思えます。常識的なこと、自然なこと、というのは、当事者にはその優れた点がなかなか見えないものですが、そこを掘り下げると、他者にとってはものすごいヒントとなるものが隠されているかもしれません。

 無意識のうちに「触」に対し高い理解のある信州から、何か発信できることがあるのではないか。信州の「ものづくり」の現場を見学しながら、そんなことを感じています。

【掲載日:2013年3月15日】

由佐 史江

長野県テクノ財団 メディカル産業支援センター

メディ・ネットコーディネータ(公益財団法人長野県テクノ財団メディカル産業支援センター)
自然科学博士。医療系出版会社出身。バイオ系ベンチャーでの研究経験あり。平成23年度より現職。