[コラム]ものづくりの視点

vol.12大きな数・小さな数
信州大学工学部教授、信州大学地域共同研究(CRC)センター長(工学博士)
三浦 義正

数の単位を身近に感じよう

  前回はデジタルとアナログの話でしたが、HDD(ハードディスクドライブ)でギガバイトとかナノテクノロジという言葉を良く耳にされると思います。今回は身の回りで使われる大きな数字や小さな数字について整理してみましょう。漢字文化圏の我が国では4桁ごとに万、億、兆等といいますが、ギガは10億、それ対応してナノは10億分の1となります。下の表では大きな数字の漢字での呼び方は多少聞きなれた文字が並んでいると思いますが、小さな方のよび方は殆どなじみがありませんね。

 西欧の近代科学はアラビア数字を基に発展しましたが、こちらは3桁毎に、大きい数字の方ではk(キロ)、M(メガ)、G(ギガ)、T(テラ)等、小数点以下ではm(ミリ)、(マイクロ)、n(ナノ)、p(ピコ)等とよび、小数点以下の0の数が3個ずつ増えていきます。これらのよび方に慣れますと、数の大きさがすぐ分かるようになります。西洋かぶれしているわけではありませんが、早い時期からこのような数字の扱いに慣れ親しむことが必要ではないでしょうか。 

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このように、桁数の多い数字を一々書くのは大変ですので、3ナノメートル (3 nm) とか100ギガバイト (100 GB) 等と桁数の単位を上手に利用する訳です。もっと専門的には、10の肩に桁数を表す数字を書く指数表示があります。ギガのことは109、ナノのことは10-9、と表します。ナノテクは遠い存在ではありません。長野県内でも0.8 nm±0.1 nm等という仕様でものづくりをしている企業もあるのです。

 1000人が夫々1 GBのハードディスクを持っていると、全体でいくらの記憶容量になるだろうか、といった計算は、103人 × 109 B = 1012 B、したがって1 TBとすぐ求められます。指数表示では3 + 9 = 12 と掛け算が右肩の数値の足し算になりますので簡単に結果を求めることができます。今では珍しくなりましたが計算尺という道具がありました。掛け算、割り算を足し算や引き算で実現する便利な道具です。

 最近では、ピコ、フェムト、あるいはテラ、ペタ、エクサという数値をしばしば耳にするようになりました。大きな数も小さな数も怖がらずに親しみましょう。

 

 

【掲載日:2008年11月 4日】

三浦 義正

信州大学工学部教授、信州大学地域共同研究(CRC)センター長(工学博士)
昭和19年生まれ。富士通(株)において研究室長、研究部長、ストレージ事業本部技師長等を経て、平成15年より信州大学工学部教授。平成17年よりCRCー長として地域連携、産学官連携推進に従事。専門分野は磁気記録技術、HDD等情報記憶装置技術。

vol.11ものづくりは“ツール”
LLCプロセスフォーカス代表
森本 五百樹

良いものづくりは、まず道具から。

 ~包丁一本晒しに巻いて~と歌にありますが、日本料理を作るに、包丁一本だけではどうも足りないようです。

素材の良さをそのまま生かし、色や形の美しさを保つためには、それぞれの素材と調理法にあった包丁を使いこなす必要があります。また、ここに日本料理の特色があるんですね。良いものづくりは、まず道具からというわけです。

 料理人がつかう包丁の9割は、大阪、堺の刃物だそうです。600年の歴史をもち、京料理や江戸前料理を支えてきた堺の包丁は、今もその生命を脈々と保っています。ここまでその寿命を永らえているものづくりの秘訣は何でしょうか。

 それは、「料理人にいい料理を作ってほしい」、たったその思いだけだそうです。お刺身包丁といっても、どんな魚に使うのか、薄作りなのかどうなのか、料理人の体格や考え方、いろいろ聞いて注文を受けて作り始める。すごいですね。でもそんな包丁で作った料理を食べられたら、また幸せというものです。

明治の時代、芝浦製作所(今の東芝)に、長崎から小林作太郎という一人の見習工が入社してきました。大変な努力家で、学校も出ていないのですが、創意工夫を重ね、最後はそこの取締役にまで出世しました。

そんな彼が自宅に作っていたもの。それは自分の工作室です。彼は、会社で使う工具を一人自宅で改良し、いい道具にして、そしていい製品を作る。昔の人の執念というか、集中心というか、すさまじいものを感じますね。

いい道具を作ること、そしてそれを使っていい製品を作る。昔から変わらないものづくりの原点です。

 

 

【掲載日:2008年10月29日】

森本 五百樹

LLCプロセスフォーカス代表
長野市出身 1946年生まれ ㈱東芝、GE東芝タービンコンポーネンツ、北芝電機勤務を経て 2007年 LLCプロセスフォーカス設立し、プロセスアナリシスとビジネスアナリシスをツールに経営改善をコンサルテイング並びにIT支援を行なっている。

vol.10ものづくりは“音”
LLCプロセスフォーカス代表
森本 五百樹

ものづくりの“音”には心と心の対話がある

稲穂が垂れ、お米の収穫の季節になりました。これから、おいしい日本酒が長野でもつくられることでしょう。今から来年できる新酒の味が楽しみになります。

さて、日本酒をつくる工程は、かなり複雑で長いのですが、その中でもポイントは、仕込んだお酒の発酵熟成具合を確認しつつ、どのタイミングで、それを完了させるかといいます。このタイミングの良しあしがお酒のすっきり度や飲み心地を決めると聞きました。

問題は、この熟成具合を何で知るかです。何でしょうか。
発酵の状態を眼で見る、色を見る、糖度や酸度を測定する・・・・・、いずれも違います。音なんだそうです。冬、しんしんと凍るような夜。杜氏が仕込み樽の脇で、静かに音を聞く。醗酵してくる音が、プツプツ、ブツブツと激しく耳に響く。その音の具合を感じ取って、冷水を注入して発酵を止めるかどうか、判断する。なんだか、お酒と杜氏がおしゃべりをしているような気がしませんか。

何年か前のNHK「プロジェクトX」で、「千年の秘技 たたら製鉄復活の炎」が放映されました(2005/3/29)。ご覧になった方も多いと思いますが、そこでも音が出てきます。

3日3晩、不眠で、砂鉄を炉の中に入れていく。その回数1000回。激しい炎をあげて鉄は燃え盛る。やがて、ふいごの風の音の中に、ジージーというかすかな音色が響いてくる。これが鉄の産声なんだ。たたら鉄は、普通より約300度低い温度でゆっくり溶かし出される。3昼夜かけて鉄の子供が生まれてくる。その名も「玉鋼(たまはがね)」という。

ものづくりは、つくる人と、つくられるものとの、心と心を通わせた対話があるようだ。人間は、太古の昔から道具を作ってきましたが、その原点は実に詩的であり、情念的ですね。そして、そこにものづくりの哲学を見る思いがします。

【追記】
プロジェクトXで放映された「たたら鉄の復活」を実際に担当した島根県の製鉄会社の方(私どもの仲間です)が、11月12日に善光寺バレー研究成果報告会2008(国立長野高専地域共同テクノセンター)で「古代たたら製鉄」について特別講演されます。興味のある方はぜひご聴講ください。

 

 

【掲載日:2008年10月22日】

森本 五百樹

LLCプロセスフォーカス代表
長野市出身 1946年生まれ ㈱東芝、GE東芝タービンコンポーネンツ、北芝電機勤務を経て 2007年 LLCプロセスフォーカス設立し、プロセスアナリシスとビジネスアナリシスをツールに経営改善をコンサルテイング並びにIT支援を行なっている。