[コラム]ものづくりの視点

vol.102産業のライフサイクル・・・ 成長と成熟
山岸國耿

 以前から、このコラムの中で、「産業の新陳代謝」や「産業のライフサイクル」等の言葉を使ってきました。
 企業が、厳しい競争の中で勝ち続けるためには、その時代の変化と業種や消費者動向を適格迅速に把握し、現在の自社の成長段階や今後の事業展開の方向を検討することが重要だ。・・・と考えてきました。

 そこで企業における製品や業種がどのような段階を踏み、成長し成熟化していくか、その一面を考えてみました。
 まず、オートバイを例に取ってみましょう。
オートバイが世に出た当時を思い起こしてみると、二輪車で自動で自由に動き回れる車が開発されました。この開発された時期は「機能重視、開発期」と言えましょう。 ついで他の企業も多数参入してきて、より安い自動二輪車が求められる「価格重視、成長期」となりました。
 ついで、若者向けや女性向け等のカラーや多機能、高性能な二輪車などに移っていきます。このような時期は「デザイン・高性能重視、成熟期」と言えましょう。ここまで来ると、企業経営の観点からみると、利幅が大変薄くなり撤退する企業も出てきます。 製造業の多くが、一面このような道筋をたどって成熟化していきます。

 一方、商業・サービス業等では、参入が比較的容易な場合が多く、初期から他の企業も参入してきます。
 しかし成長後期となりますと、同業者が多数となり、利幅が薄く、経営も厳しくなってきます。そこで同業組合を作って、横の連携を図り商取引の協定などを結ぶ段階となり、よく"民民規制"あるいは、"官民規制"と言われるような例もみられるようになってきます。
 私共の身の回りにも、医師会やJA等有力な団体から小さな団体まで各種の同業組合があり、このような状況は良くみかけます。

 このように、開発期は競争企業も少なく、利幅もありますが、成長後期となりますと、コストダウン等による経営努力の割には利益が出ません。

 従って、常に製品のライフサイクルや業種の新しい動きに細心の注意を払うことが必要です。5年後、10年後の事業の姿をイメージしつつ、商機を逸せずリスクを取って、技術開発や新しい業態への挑戦など、勇気を持って取組むことが重要となります。

 長野県テクノ財団の市川理事長が新年のご挨拶で、「既定路線に甘んじることなく、それぞれが秀でた技術を持ち、自立した"百名山"となれば、地域経済はより強くなる。」と述べられています。
 長野県には、電機、自動車、精密などの企業が多数立地していますが、これらの現在の発展段階をみますと、多くが成長後期となっており、県全体でも今後に向けて新しい分野への取り組みが大きな課題となっています。
 行政機関や各種指導団体は、これらの状況を十分把握して将来的展望にたち適切に対応していくことが必要でしょう。

【掲載日:2012年1月16日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。
長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年5月に公益財団法人 HIOKI奨学・緑化基金の監事に就任。
平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任。

vol.101モノづくり「百名山」へ
財団法人長野県テクノ財団 理事長
市川浩一郎

120104_1.jpg  復興への槌音の中で新たな年が明けました。あの日の震災は、戦後築き上げた暮らしや経済のシステムにも大きな影響を及ぼしています。深い傷跡と悲しみを残す日本にとって本年は、再生復興への道筋を確かなものとする大切な年になろうかと思っています。

 さて、人類社会の未来予想図には、様々な課題もあります。増加し続ける世界人口、高齢化社会を迎える先進諸国、地球規模の環境問題...、私はこうした課題の中にこそ成長のヒントがあると考えています。

 例えば医療や福祉の現場、エネルギーや環境保全、災害への対応やサプライチェーンマネジメントなど、それぞれの分野にある「課題解決」を目指すことで新たなるイノベーション=「次世代の核」が生み出されるように思うのです。

 昨年、長野県の産学官金が連携して策定した「次世代産業の核となるスーパーモジュール供給拠点」構想が、国(文部科学省、経済産業省、農林水産省)から、地域イノベーション戦略推進地域(国際競争力強化地域)の一つとして選定されました。また、選定にあわせて文部科学省から採択を受けた戦略支援プログラムに基づき、メディカル産業育成のための信州大学の機能充実や、テクノ財団のメディカル産業支援センターの設置(松本合同庁舎)などが行われ、産学官金連携によるサポート活動がスタートしています。

 「メディカル」の世界市場規模は、医療機器だけでも25兆円と言われています。震災や円高の影響で停滞ぎみの地域経済でありますが、その市場の一角を担うだけでも経済効果は大きいものがありますし、雇用促進にも繋がるでしょう。そして何よりも、医療を必要としている方々の願いや希望に応えてゆく、それが本戦略の真髄であろうと思います。

 また、二期10年にわたり進めて参りました県内最大の産学官プロジェクト「信州スマートデバイスクラスター」構想がこの3月で終了いたします。延べ300社に及ぶ企業が参画、それぞれの技術に信州大学や東京理科大学、長野県工業技術総合センターなどの「ナノテクノロジー」を融合させて新たな技術や製品が産み出されてきました。こうした産学官連携の成果を地域産業に広く還元できるよう普及活動に取り組むのも重要な役目です。

 もとより長野県のモノづくり産業は多様であり、それぞれの企業は超精密加工技術などの得意技を持っています。その独自技術を活かして、メディカル分野のみならず環境・エネルギーなどのグリーンイノベーション、さらには航空宇宙分野にも果敢に挑戦していただけるようサポートして参る所存です。

既定路線に甘んじることなく、それぞれが秀でた技術を持ち、自立した「百名山」となれば、地域経済はより強くなるでしょう。

 長野県テクノ財団は本年4月から「公益財団」として再スタートいたします。これまで皆さまから頂戴しましたご厚情に心から感謝申し上げますとともに、今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

【掲載日:2012年1月 4日】

市川浩一郎

財団法人長野県テクノ財団 理事長
不二越機械工業株式会社代表取締役社長。2005年4月(財)長野県テクノ財団副理事長に就任、2011年4月から理事長。

vol.100「てくてくナノテク旅」岡山編
財団法人長野県テクノ財団 事務局次長
古平 浩

 後楽園(日本三名園)、きび団子、そして最近ではB級(ご当地)グルメでの街おこしが話題の「岡山」は、瀬戸内海を臨む風向明媚で温暖な土地である。

 その岡山で今、地域イノベーション戦略支援プログラムで産み出されたナノテクノロジーによる「人工関節」の研究開発が進められている。岡山市内の企業と信州大学医学部との連携によるこの産学官プロジェクトは、信州発メディカルイノベーションの先行事例としても大きな期待が寄せられている。

 ところで、岡山駅に降り立つとまず目に飛び込んでくるのが、頻繁(最多で3分間隔)に発車していく路面電車の姿だ。中でもLRT(軽量軌道交通)の岡山電気軌道9200形路面、愛称「MOMO」のスタイリッシュな姿に見惚れてしまった。「MOMO」とは、「桃太郎」と岡山の名産「モモ」から名付けられたそうだ。

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 そして昨年10月から「MOMO2」がお目見えした。路面から僅か30cmというLRV(超低床車両)は「次世代型路面電車」として注目されているが、内装の床、イス等はMOMOと同様に天然木を使用。古典とモダンのコラボレーションが美しく、車窓に現れる街にも、わくわくドキドキしてくるから不思議だ。

MOMO1は人と街を楽しくする。

MOMO2は人と街を美しくする。

 これが、MOMOのデザインを手がけた工業デザイナーの水戸岡鋭治氏(岡山県出身)のコンセプトだそうだ。

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【掲載日:2011年12月27日】

古平 浩

財団法人長野県テクノ財団 事務局次長
1969年長野市生まれ。東北大学大学院文学研究科修了、博士(文学)。しなの鉄道㈱、長野県NPO活動推進課、小川村建設経済課勤務などを経て2011年4月より長野県テクノ財団事務局次長。東北大学文学研究科専門研究員、長野電鉄活性化協議会学識委員。