編集部より

人在りて人在(人ありてじんざい)

信州吉野電機

「技術はきれい 信州吉野電機」という電柱の看板を、一つ一つ、目で追いながら会社の入り口に立ちました。

「機械金型を管理しているのは人、その人を管理するのも人、その管理職を見るのが会社のトップ。品質が悪いってことは社長の品質が悪い、経営の品質が悪いってことだよ」。スタートから、きびしい言葉をいただきました。でも、社長の目は少年のよう、楽しそうでした。

「コレがわが社の技術ですってものはないよ。ウチにあるのは品質技術だけ」

信州吉野電機の技術は「不良品を出さないものづくり」。地球に優しいものづくり「技術はきれい」です。不良品を出さないための管理ソフトは全部社内で開発されました。一人一人がやっていることをプログラムして製品を管理する、不良品を出さない技術は「人」が作り出した技術です。

4月に入社したA君が社長のパソコンを持って部屋に入ってきました。「おい、出ねえぞ」「社長、USBはいっていませんよ」「おっ、そうか、なあんだ」何気ない二人の会話に、思わず笑みがこぼれます。続いて呼ばれたBさんには「好きなこといっていいぞ」と社長の一言。Cさんは学生時代の工場見学に訪れ、働いている人が皆生き生きしていたことが、入社動機とか。その思いは入社してからも「変わりません」BさんもCさんもまっすぐです。「お前たち良い相手みつけろよ」「えーっ」若い力が伸びています。

「社員を育てるのは社長の仕事」楽しい時間をいただきました。

(2008年8月 6日)

ナンバー1を3つ持て

多摩川精機

「県内に本社があるものづくり企業を、優秀な企業を、知らなさすぎる」

これが、萩本会長との出会いでした。お誘いを受け、飯田市の本社をお訪ねしました。

天竜川を挟んだ対岸には創業者の生まれ故郷の泰阜村が臨めるという丘の中腹、懐かしさを覚える平屋作りの建物群が、本社第一工場です。国際宇宙ステーションの実験棟である「きぼう」にも使われているという多摩川の技術が生まれた工場は、創業時のままのガラスがはいった木製の窓枠、スリッパの下の廊下も木製、なだらかな斜面に沿って続く建物から建物への渡り廊下は黒光りしています。「常に挑戦しつづける多摩川精機」というキャッチフレーズを静かに受け止め、磨かれた構内です。

萩本会長は薄いブルーの作業着で、案内してくださいました。「ここはちょっと見せられません」という一角を示されながら、また、従業員の方と手を上げて挨拶されながら、その足の速いこと。多摩川精機への愛情はストレート。そして、最後は歴史館。丁寧に説明していただきました。多摩川のオンリーワンの技術が並びます。数々の製品は「ナンバーワンを3つ持て」という鼎の理論の証。忘れられない人々の足跡が、そして、今があります。「自分の目で見なければだめ」。本当にここに来て、この地に多摩川精機があることを見せていただきました。

「奢る者久しからず、だから、宣伝はしないよ」会長はおっしゃいます。

「ものづくりは部下にノウハウを伝えることが大切」。伝えることは難しいですね。

でも、それも挑戦。「奢り」ではなく「誇り」が人を育てている多摩川精機です。

(2008年8月 6日)

走りながら、センスを育てる

ダイナテック

「2008年度版 元気なモノ作り中小企業300社」に選ばれたダイナテックです。月曜日の朝礼では社の基本理念が唱和されるそうです。

「すべての社員が生き生きと仕事に取り組み、誰にも真似のできないことに挑戦する意欲を養い、世界に通用する技術と品質と価格を実現して、顧客とともに新しい価値を創造し、成長し続ける会社を目指しております」

05年に稼動した天津工場でも唱和するのだとか。企業の「元気」が生まれます。

「単純に働くのではなく、自分は何のために働いているのか。そこがわかっていないと、仕事の負荷がかかって結局は辞めていく。その道筋を付けていくのが経営者の役割」

常に「何のために」を問うている社長の経営への強い意志が、伝わってきます。

「メーカーが言うことを理解し、形に変えていく社員を育てたい」 「時間はかけられない。ヒントを理解し、スピーディーに解決するために必要なのはセンスだ」 「何のために仕事をするのか。顧客が満足しないかぎり、次の仕事は来ない。下請け感覚ではなく、やる気」

加速していくもの作りの姿がみえてきます。

「ものづくりの場所は、最適地を求めていく。3〜4年前は考えられなかったグローバリズム、ボーダーレスが、ようやくやってきたという気がします。当たり前の感覚で上海や天津にいきますから」

大切なのは「企業価値」「世界がわが社の舞台だという感覚」。トップの技術力を維持していくスピードと力強さ、ここに「元気なモノつくり」の理由があります。

強い日差しをさえぎる木陰の中に、先代が祭られたというお稲荷さんがあります。「いづれは京都の伏見神社に鳥居を奉納したい」笑顔で送っていただきました。

(2008年7月24日)

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