[サイプラススペシャル]04 マーケットを創造する開拓者 日本の「住み心地」を床から変えた

長野県駒ケ根市

泰成電機工業

首相官邸や六本木ヒルズでも採用される「乾式遮音二重床」を独自に開発 先行者コストリーダー戦略で全国シェア50%のトップメーカー

 「乾式遮音二重床」名前は難しいが、仕組みは簡単。特殊な支柱で二重にした床である。まさに「縁の下の力持ち」。
 防音・断熱性に優れた性能を発揮するだけでなく、歩いたときの優しい感覚を得ることが出来るこのシステムを開発し、世に広めたのが、駒ヶ根市の泰成電機工業である。新たに市場を作り、先行者メリットを生かしたシェア拡大の戦略で、現在全国シェア50%。さらなるコストダウンで世界を視野に見据える同社は、従業員一人あたりの売上が1億円以上のすごい企業なのだ。

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「住み心地」を根本から変えた縁の下の力持ち

 「あっ、気持ちいい。」
 初めてこの床の上を歩く誰もが感動するのではないだろうか。歩いて、飛び跳ね、その感触をさらに確かめる。やはり気持ちいい。「いい感じ」の床なのだ。泰成電機工業の「乾式遮音二重床システム」のすごさは三歩あるいてみるだけで実感できる。

阪神淡路大震災級の地震でもびくともしない構造体

 特殊な支持脚で床を二重構造にするこのシステム、仕組み自体は非常に単純である。
 しかし、細部にこの快適さを支える工夫が隠されている。
 例えば、支柱は中空パイプを使用することで、設置後内部に接着剤を注入し、床とがっちり固定することができるようになっている。接着剤固定を行うことで、阪神淡路大震災クラスの地震でもびくともしない構造体を実現した。また、ゴムは床上の振動を吸収し、階下に音を伝えない。さらに通気層を持つことで断熱効果も高く、床下の湿気なども確実に逃すことができる。
 ひとつひとつは小さな支柱だが、まさに「住み心地」を一新する縁の下の力持ちなのである。

「マーケットをつくる」始まりは既成概念を変える戦いだった

 泰成電機工業がつくりだすこの「乾式遮音二重床システム(商品名:万協フロアーシステム)」はマンション・個人住宅における二重構造床の分野で国内トップ、50%のシェアを誇る。

 なぜ同社のシステムが、これほどまで高いシェアを持つに至ったのか。

 その解のひとつは「新規市場の創造」である。
 それまで存在しなかったマーケットを自ら作り出し、ニーズを掘り起こすことで、商品を普及させたのだ。
 「床下に空気層があることは日本伝統の文化だった。ところが戦後、高度成長により増大したマンション・集合住宅はそうした通気層がない、コンクリートに直に床を張った『直貼り』構造になってしまった。当社はそこに着目した」

 創業者の平栗会長がこの製品を開発したのが1983年、本格生産し始めたが1988年。しかし、当初はほとんど売れなかった。
 普及のきっかけを作ったのは、住宅都市整備公団への粘り強い営業だった。同社の信念が、戦後作り上げられた集合・高層住宅の既成概念を突き崩したのだ。
 1990年に公団の認定を受け、公団住宅に採用されたことが大きなきっかけとなり、二重構造床のマーケットは一気に拡大していくことになる。

剛性が高く、きしみ音一つしないしっかりとした床であるにも関わらず、かかとを落とした時の不快な「突きあげ」を感じない。床全体が衝撃を吸収していることを両足で感じることができる。

支柱をはさむように、下部には防音・防振を受け持つゴムが、また上部は床パネルを支える台座が組み込まれる。支柱、ゴム、台座と一見すると非常にシンプルな構造。

「戦後の集合住宅で失われてしまった床下を取り戻し、人間が住む構造を取り戻す戦いでもあったのです」と語る丸山社長。
創業者の平栗会長は当時の公団の課長には「冗談じゃない」と一蹴されながらも、しかし、床下がいかに人間の生活にとって良いことかを粘り強く、辛抱強く提案を続け、最後には「分かった」と採用が決まった。

1秒単位、1円、1銭単位でモノづくりを考える。

 「新規市場の創造」だけでは、同社の成長を説明することはできない。

 この二重床システムは現在では多くのメーカーが参入する激戦の業界。しかし、そうした中で圧倒的なシェアを持ち、他の追随を許さない同社製品群。製品自体の性能の高さはもちろん、他社が真似できない生産システムによる「コスト競争力」を維持していることが現在も大きな武器となっているのだ。

 コストを抑えたものづくりのDNAは、泰成電機工業という企業の成り立ちに起因する。
 同社は1962(昭和37)年7月創業。泰成電機工業という名前が示すとおり、もともとはカーステレオやスピーカーを製造する電機メーカーであり、昭和40年代初期には松下やパイオニアを抜いてシェア6割のナンバーワンという時期もあった。
 結果的にカーステレオ自体は単価の安い海外製品にシフトし、同社は絶妙なタイミングで撤退したわけだが、ここで泰成電機工業は2つの大きな財産を手に入れた。それが「資金」と「生産性追求のスピリット」である。
 商品寿命を超えても企業が存続する為には、売れ筋商品で得た資金を新規開発に充てる。スピーカー製造で培った音を制御する技術と、大手建築メーカーからの要望により、1980年からこの床システムの開発に着手した。
 ここで生かされたのが、スピーカー生産で培った生産性追求のスピリットである。

スピーカー製造から学んだモノづくり

 1秒単位でものづくりを考え、1円、一銭単位でものを考える。それこそが同社がスピーカー製造から学んだモノづくりのポイントであった。

 同社工場を訪れると、まず驚くのが鉄くずなどのゴミが極端に少ないことである。
 ネジを作る場合、切削とよばれる金属の棒を削ることで溝を掘るのが一般的である。この場合はもちろん、多くの削りカスがでる。しかし、この工場にはまったくその削りカスが無いのだ。
 この秘密は「鍛造」という製造方法にあった。鍛造とは鉄に圧力をかけることで、溝を刻むようにネジの型をつくる手法である。
 この鍛造という手法には2つの大きなメリットがあった。ひとつは、原材料を100%活用すること。そしてもうひとつは、時間の節約である。

資材と時間を極限まで活用する発想

 徹底した無駄の排除、極限まで効率を求めた製造方法。
 鍛造手法を用いることで、一瞬のうちにボルトのネジ切りが行われる、この特殊な加工技術は、他社では到底真似のできない方法だ。年間2500万本もの生産能力を持つこの工場はわずか数人のオペレータによって稼働している。丸山社長は「今の人数で3倍の生産も可能だ」と言う。

 そしてこのコスト意識が、建築業界における「コロンブスの卵」となった。
 もともと建築業界は1万円単位、一週間単位のある意味ラフな生産管理体制の業界であった。そこに製造業の単位で参入した泰成電機工業は、円単位、秒単位の新しいコストの概念を持ち込んだのだ。

普及させることを最大の目標とした同社は、この二重床システムの特許を解放。その結果、市場拡大は達成されたが、同時に多くのライバルとの価格競争を招く結果となった。

長野オリンピックでの選手村でも採用されたこのシステムは、今では六本木ヒルズや首相官邸などでも使用されている、まさに二重床構造のスタンダードなのだ。

コイル状に巻かれた鉄パイプが一切の切りくずを出さずにボルトに加工されていく工程は、まるで魔法を見ているようだ。資材と時間を極限まで活用する発想は、商品のコストダウンにつながる。


縁の下の力持ちから、新たなマーケットへ

ひとり1億円以上の売上。100億円への挑戦。

 コストを抑える為に大量生産を行う。大量生産を行う為に市場を広げる。市場が広がることで更にコストを下げる。コストリーダー戦略を成功させた同社は、現在従業員数わずか28人で 40億円以上を売り上げる企業へと成長した。
 ひとりの売上が1億円以上、さらに従業員を増やさずに売上100億円まで可能と豪語する、凄い企業である。その言葉の裏には、今後の日本での市場拡大と、そして世界戦略が見える。

究極の住宅を目指して

 乾式二重床構造システムで業界スタンダードを作り出した泰成電機工業。
 創業以来続くマーケットを作り出すスピリットは新たなる挑戦を始めている。

 それは、地球環境と共存する究極のエコ住宅である。

 一昨年、外断熱工法による大規模な模擬実験住宅を建設。信州大学工学部との産学連携によるこの研究プロジェクトでは、地球環境を配慮した未来の住宅づくりを視野に入れ、詳細な実証実験を、今この瞬間も継続しているのだ。「今まで大手の住宅メーカーでもこれほどのデータの蓄積は行っていない。どこもどのくらい快適なのかをデータで示すメーカーは無い」と、丸山社長は言う。

 この実験住宅では風力・太陽熱・地熱などのエコエネルギー、雨水の利用、建物の長寿命化など様々な角度から検証を続ける。
 近い将来、長野県駒ヶ根発のエコ住宅のスタンダードが生まれるかも知れない。

ひとつひとつのコストを極限まで下げることで、更なるシェア拡大を目指す。

同社の技術を支えるのが、「究極の住宅」への飽くなき探究心。まさに今この瞬間も、最先端の独自研究システムであらゆる住宅データの収集を進めている。

外見は全く普通のマンションと変わりないが、実は「データ収集用」。丸山社長は実際にここで家族と生活し、そのデータが未来の住まいづくりに生かされるのだ。(丸山社長と、技術担当・塩島さん)


【取材日:2008年7月16日】

企業データ

有限会社泰成電機工業
長野県駒ケ根市飯坂2-8-34 TEL.0265-83-1138
http://www.bankyo.co.jp/
 マンション、個人住宅、商業施設、体育館などの二重構造床システムで業界トップシェア50%を誇る。