[サイプラススペシャル]06 ケータイ「塗り」の革新者(イノベーター) 成熟産業ケータイ業界で急成長を遂げる「新世代の匠」

長野県安曇野市

島新精工

独自の「グラデーション塗装」がドコモの最新機種に採用
成熟産業ケータイ業界で急成長を遂げる「新世代の匠」

 島新精工を一言で表すなら、「新世代の匠(たくみ)」である。
 成熟産業である携帯電話業界は、いまや競争軸が機能からデザイン面に移りつつあり、メーカー各社は独自の形やカラーを求めてしのぎを削る。
 しれつな競争のもと、デザイナーの注文に完璧にこたえられる「塗りの技」を持つ企業が信州・安曇野にある。それが島新精工だ。
 島新精工の強さは、オーダーに忠実な表現力だけではない。メーカーやデザイナーに対して「逆提案」できる「デザイン力」こそ最大のセールスポイントだ。
 今あなたが手にしている光り輝くケータイも、安曇野で塗り上げられたものかも知れない。

現代の匠

デザイナーへ逆に提案できる高い技術力

 「まるで宝石のようですね…」その美しさに息をのんだ。
 深みのある色合い、絶妙なグラデーション。ガラスとも金属とも違う輝きと透明感。NTTドコモの最新機種N906iμである。
 この「塗り」こそ、世界でただ1社、島新精工にしかない「技」なのだ。
 なんとこのケータイ、表面だけでも5層に塗装が施されている。今やケータイの塗装は、自動車を超える品質を誇る。

自動車塗装を超える技術、「逆提案」のグラデーション

 ドコモの新機種に採用された「グラデーション塗装」、実はこれ、島新精工からの逆提案によるものなのだ。
 これまで、塗装会社の役割は、メーカーからの注文に忠実、正確にこたえることだった。しかし、島新精工は、メーカーやデザイナーに逆提案できる技術力とデザイン力を培った。「新世代の匠」と呼ばれるゆえんがここにある。

 以前にもグラデーションを用いたデザインはあったが、その多くはプリントやフィルムをはりつけたものだった。島新精工は独自の塗りの技術を開発して高め、より美しく自然なグラデーションを実現したのだ。

成熟マーケットで強みを発揮、圧倒的な「歩留まり率」

 島新精工の強さは、目に見えないところにもある。
 それは「量産でありながら均一」に仕上げる品質管理だ。同社の「歩留まり率」(原料使用量に対する製造品量の比率)は約94~95%と高い水準を維持している。

 品質管理へのこだわりは、工場内にもあった。
 「熟練の職人が、汗と塗料にまみれて働く」現場を想像していた私たちは、工場に案内され驚いた。そこは、マスク・帽子・ウエアで完全防備のクリーンルームだった。クリーン度クラス3000という、手術室や海の上よりほこりが少ない環境で塗装作業が進む。
 さらにすべての工程で、品質の国際規格であるISO9001を守ってメンテナンスや品質チェックが行われている。

 不良品の発生を抑えることは低コストに直結する。全社を貫く「品質管理」が、他社を圧倒する競争力をもたらしている。

若き革命児・二村常務。「仕事を請けたから、お前、やってみろ」という社長の一言から、まったく未経験の塗装事業を展開。技術も営業もゼロからの出発だったが、技術者としても経営者としても才能とカリスマ性を発揮した。

美しい光沢と質感を「塗装」で表現できたのは、島新精工の技術力の賜物である。世界にただ1社のオンリーワンの技術だ。

塗装装置は、コンピュータで制御。塗り方のプログラムは「コーチング」と呼ばれ、完全な企業秘密。二村常務はこのマシンを自由自在に操ることで、新しい塗装技術を生み出した。

あらたな技術と独創性で業界をリードする革命児

「塗り」の革命児・二村常務

 「イメージ通りに、この塗装ロボットを動かすことができます。世界中のどこに、このロボットを持っていっても、寸分狂わず、私の思い描いたように塗装することができるんです」未発表ケータイを試作する塗装ロボットの前で、常務取締役の二村哲哉氏はちょっと照れ臭そうに、しかし自信に満ちた眼差しで私たちに語ってくれた。
 経営者でありながら、デザイナーとして逆提案を行い、そして世界を相手に営業を行う二村常務。「彼こそ島新精工の圧倒的な『知的財産』です」と井上修二管理部長もたたえる。

デザインを可能にする「ティーチング」

 2006年6億円、2007年10億円、そして2008年には15億円。島新精工の売り上げの伸びは驚異的だ。飽和状態にあるケータイの国内市場で、なぜ同社の受注・生産量は増えているのか。
 「イメージ通りロボットを動かせる二村常務の『ティーチング技術』は群を抜いている」とは、井上管理部長の評だ。ティーチングとは、塗装ロボットに塗装工程を教える=プログラミングすることだ。同じ装置を持っていても、このティーチングがなければ、塗装ロボットの能力を引き出すことはできない。二村常務の「塗り」の技術追求=ティーチングが島新精工を支えている。

「知らない」コトが最大の武器になった

 島新精工は若い企業である。
 創業は1996年。社員5人、技術的にもまったくの素人からの出発だった。「業界最後発」の同社にとって、進むべき道は2つしかなかった。「安い仕事」か「非常に高度で困難な仕事」かである。二村常務はあえて後者を選んだ。
 「できるかできないか、よりも『やらねばならぬ』という気持ちでした。もうがむしゃらです。塗装についてはまったく知識がなかったですから」と語る二村常務は、当時25歳。
 「ゼロの状態」から自らを追い込み、独学で塗装技術を学んだ。
 「塗装技術はもともと専門外だったので、この塗装ロボットならこんなことができる、新開発の塗料ならこんな表現も可能だ、という(怖いもの知らずの)発想でした」
 既成概念にとらわれない発想こそ、イノベーション(技術革新)の原動力だ。

 転機は2003年。
 塗装マシンメーカーと塗料メーカーの情報をゼロから吸収した「強み」を生かせば、成熟したケータイ市場でも勝機があることを見極めた同社。
 東京ビックサイトでの展示会で積極的にアピールした技術が携帯メーカーに認められたその日が快進撃の始まりだった。

回転するケータイの筐体に、エアブラシで塗装が行われる。機械メーカ、塗料メーカ、そして島新精工の3社の歯車がかみ合ったことで、誰にも真似できない「塗り」の手法が生まれた。

作業は全てクリーンルーム内で行われる。小さなほこりも大敵。少しでも粗があれば不良品となってしまい、出荷できない。この後、厳しいチェックが行われる。

円盤状に並ぶ、ケータイの筐体。塗装→乾燥→塗装を繰り返し、5コート(5層塗り)を行うことで、独自のグラデーションなどが可能となった。


そして、世界へ

「デザイン力」と「営業力」

 「いまや携帯電話のニーズは『塗り』です。品質に対するシビアさが日増しに高まっています。ユーザーはよりカッコいいものを求めるし、デザイナーは妥協しない」と井上管理部長。そんな中で、同社はデザインの提案も積極的に進める。それを可能にしているのは「努力と蓄積」だ。世界的なデザイナー佐藤可士和の注文をこなすなど、これまでの仕事の中で「塗りの技」を高める努力を重ね、ついにデザイナーの一歩先をあゆめるまでになったのだ。
 卓越した技術に「デザイン力」と「営業力」を加え、島新精工は世界への扉をノックした。試作を進めるなど、二村常務の積極的な営業活動が続く。
 「ティーチング内容をメールで送れば、世界中どこでも高品質の製品を大量生産できる」海外でビジネス展開する準備が着々と進んでいる。

世界が注目する、安曇野の「塗りの技」

 「めざすは長野一、日本一、そして世界一」そう語る二村常務の目に自信がみなぎる。 最大6層までの塗装ができる同社の技術は、ケータイの分野だけでなく、「塗りの世界」の最先端にある。その「新世代の匠」に、パソコンやデジタル家電のメーカーも高い関心を示す。これらの業界でも「機能からデザインへ」と競争軸が移りつつあり、同社へのアプローチは自然な流れと言えるだろう。

 「ジャパニーズ・クール(カッコいい、日本)」安曇野で美しい塗りを施されたパソコンや薄型テレビが、世界中の目の肥えたユーザーに受け入れられる日も、そう遠くはない。

色とりどりのケータイはまるで宝石のよう。機能追及から、デザイン性重視に変わりつつあるケータイ市場のニーズにマッチしたことが成長要因。今後はケータイのみならず、新たな分野で島新精工の塗装技術が活用される日も近い。

創業メンバーのひとり、井上管理部長。創業当時から二村常務とともに、同社の成長を支えている。経営ボードを見ても、島新精工がいかに若く、文字通り「元気な企業」なのかがうかがえる。

最新ケータイにも使われる同社の技術。グラデーション塗装によって、今までにはなかった高級感をまとったケータイ。この機種は特にビジネスパーソンから大きな支持を得ている。


【取材日:2008年8月18日】

企業データ

島新精工株式会社
長野県安曇野市穂高北穂高2047-2 TEL.0263-81-0551
http://www.shimashin-seiko.co.jp/