[サイプラススペシャル]11 『真空蒸着』で世界へ 表面加工一筋60年

長野県松本市

ダイナテック

創業60余年 表面処理を極める
ダイナミックな発想でIT機器の進化を支える

携帯電話には様々な最新技術が詰まっている。
金属のような質感で人気の「メタリックカラー」もその一つだ。プラスチックの表面に単に金属膜をつけると電波干渉を受け、誤作動の原因になってしまう。見た目の「美しさ」だけではない高度な表面加工を実現する技術、それが長野県松本市の「ダイナテック」が誇る「真空蒸着」だ。世界中の人々が手にするケータイに松本発のテクノロジーが生きている。

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あなたの輝くケータイに、松本発の技術

北アルプスを望み、特産のスイカ畑が広がるのどかな風景。ここダイナテックの工場で作られた製品が世界中の携帯電話に組み込まれている。

「その携帯にも使われています。カメラの周りの部分と真ん中のボタン。金属のように見えるのはウチの技術なんですよ」取材に訪れた私たちの携帯を指差し、代表取締役社長・中嶋裕二氏はほほえんだ。

ダイナテックは創業60年余、表面加工を専門としてきた企業だ。
プラスチックなのに金属と見紛う質感は、実際に金属の薄い膜で覆うことによってもたらされる。しかし、プラスチックの表面に金属を付着させるのはたやすいことではない。それを実現したのがダイナテックの「真空蒸着」の技術だ。
同社は、この「真空蒸着」によって世界に大きく羽ばたこうとしている。

カッコいいだけじゃない。IT機器の進化を支える「真空蒸着」

「外観と機能、この双方の追求が当社の成長を支えています」中嶋社長が語るように、ダイナテックの「真空蒸着」が世界のケータイ業界から注目されるのは、デザイン性だけではなく、優れた機能をあわせ持つからだ。
携帯電話は、小さなボディの中に通話機能はもちろん、インターネット、テレビ、電子マネーなど様々な機能が詰め込まれている。多機能・小型化に伴って発生する電波ノイズや熱などの問題、これらの解決にダイナテックのコーティング技術が大きな役割を果たしている。

「真空蒸着」は静電気や電波障害に対応した加工技術でもある。それはボディや表面の部品だけでなく、内部パーツにも活用され、IT機器の「薄型・小型・高密度」化を可能にした。

鮮やかなケータイのパーツ。プラスチックとは思えない輝きを放つ。これも「真空蒸着」によるもの。

「背伸びして、新しいことに挑戦する」中嶋裕二社長は、世界を視野に入れた業務拡大を狙う。

外部だけでなく、ケータイ内部にも真空蒸着が応用される。

革新的技術「真空蒸着」

環境にもやさしい!?「真空蒸着」

「蒸着」とは、金属や酸化物を蒸発させ付着させる技術だ。
仕上がりはメッキに似ているが、その手法と性能はメッキをはるかに凌ぐ。
メッキが溶液の中で金属やその他の膜を作るのに対して「真空蒸着」は溶液を使わない。

溶液を使わないメリットとして「環境にやさしく」「コーティングする素材の幅が広がる」という点があげられる。
「プラスチックへのメッキは以前、溶液の中で表面をエッチングし、特殊な薬品と反応させて行っていました。デリケートな薬品を使うため水処理の問題が出てくる。それを思案していたところ、ドイツで新しい表面処理の技術が開発されたので、さっそくライセンスを取得しました」と中嶋社長。 新しい技術を直ちに取り入れる積極性が実を結んだ。

「真空」はスゴイ!

私たちが案内された工場のクリーンルーム。ここでは携帯電話の外装のほか、液晶や内部の部品のコーティングが行われていた。

「外から見ても分からないと思いますが、中は真空状態。空気を全部抜き、そこで金属にレーザーを当てて気化させています。レーザーがあたる部分は金属が溶けるぐらいだから何千度という高温。でも真空だから、プラスチックの部品は60度ぐらいです。」
空気があると対流によって素材まで高熱になり、プラスチックは溶けてしまう。ところが、真空状態では熱が伝わりにくいため、プラスチック部品に影響を与えないで、効率よく確実に金属を付着させることができる。また、溶液を使わないので精巧な細工をほどこすことができ、部品の表面に複雑な機能が付け加えられる。さらに製造ラインの自動化も容易だ。

「真空蒸着」のメリットをフルに生かし、高度な用途に用いているのが同社の強みで、加えて「徹底した品質管理」も大きなセールスポイントになっている。

真空蒸着の「釜」。作業は全てクリーンルーム内で行われる。

液晶画面用真空蒸着の装置。数値を入力すると自動で作業がはじまる。

液晶画面に施された真空蒸着。この表面処理により反射を防ぐ。


60年育てたコア技術で世界へ

創業以来「表面加工一筋」

美しく加工する「デザイン性」、電磁波などを防止する「機能性」、そして徹底した「品質管理」。これらはいずれも、「表面加工一筋60余年」という同社の歴史の中で育まれてきた。
創業は1946年。
高級置き時計などにニッケルやクロームなどのメッキをする小規模な事業からスタートし、時計メーカーからの受注をきっかけに業務を拡大する。
1960年代、置き時計から磁気ディスク部門へと大きく業態を変える。見た目の美しさが求められる「装飾メッキ」から、素材に新たな機能を加える「機能メッキ」という領域に踏み出し、見事に成功を収めたのだ。

「同じ分野を続けていると、どんどん安い業者が出てきて価格競争になるんです」同社はそれまでの装飾メッキを一切止め、磁気ディスク関連の機能メッキの道に突き進む。この経営判断とタイミングも大きな成功要因だった。

「真空蒸着」で世界へジャンプ!

「装飾メッキ」がホップ、「機能メッキ」でステップ、そして「真空蒸着」との出会いでダイナテックは大きくジャンプする。

磁気ディスク関連の表面処理からノートパソコンへと事業を拡大。一方、金属からプラスチックの表面処理へと技術の幅も広げた。「真空蒸着」を知り、ライセンスを取得したのは正にこの時だ。
「情報産業」の蓄積があったため、新興のケータイ市場にも容易に参入でき、いっそう高度化する品質管理にも十分対応できた。
様々なタイミングを巧みに捉えて、ダイナテックは世界企業へと飛躍する。

「新規事業を考える時は、こうやって背伸びをして、手が届きそうなところを『えいっ』とつかんで登る。そうすると、ひとつ上の位置に立つことができ、そこには新しい景色が広がっている。新しい分野も見えてくるんです」立ち上がり、身振り豊かに説明する中嶋社長。
時計から、情報機器、そして携帯電話へ。
「真空蒸着」に目を付けたアンテナの高さ、それを積極的に取り込んだチャレンジ精神、新分野での活用する応用力、「表面加工一筋」の揺るがぬ歩みが、同社に卓越した強さをもたらしている。

「世界の工場」中国進出で世界のマーケットへ

「ものづくりには『最適地』があるんです。携帯電話が使われるのは日本だけじゃありません。世界中の人々にとって日常品になりつつある。日本だけで作っていてはだめだと思ったんです」中嶋社長の言う「最適地」とは、今、この時点では「世界の工場」=中国に他ならない。

ダイナテックは2005年の天津に続き、今年(2008年)、深圳にも生産工場を展開する。これまで多くのメーカーが、安価な労働力を求めて中国に進出しているが、ダイナテックの中国戦略は、それらの企業と一線を画す。

同社の中国工場は、いわば「世界への扉」だ。材料や人材が集めやすいだけでなく、世界の携帯メーカーの工場集積地に生産拠点を構えることは、新たな取引の開拓につながる。

「グローバルな視点でビジネスを見る必要があります。日本では飽和状態の携帯電話も、世界ではまだまだこれからの成長産業。確かに北欧や韓国、台湾メーカーが大きなシェアを占め、日本のメーカーは苦戦しています。でも、レンズやセンサーをはじめ部品の多くは日本製です」
中国工場を足がかりに、世界のメーカーに販路を広げ、成長を続けるダイナッテック。
松本で生まれ進化した技術が今、中国へ、そして世界へと向かう。

中国の天津工場(上)と、深圳工場(下)※ダイナテックの資料より。

情報機器分野への道を拓いた、磁気ディスク関連の表面加工。

筆者のケータイにもダイナテックの技術が使われていた。(レンズ周辺部分)


【取材日:2008年9月2日】

企業データ

ダイナテック株式会社
長野県松本市大字和田5511-5 TEL.0263-47-6456
http://www.dynatec-vp.com