[サイプラススペシャル]39 次の時代を「計る」企業へ 水道・ガスのメーターから

長野県松本市

東洋計器

生活に欠かせない水道・ガスを正確に計る「計器」
東洋一の専門工場規模を有する‘信州企業’

 北アルプスをのぞむ松本臨空工業団地内。総面積約39000平方メートルの敷地では、毎月10万個ものガス・水道メーターが生産される。東洋計器は、その名の通り、東洋一の計器(メーター)大規模専門工場を有する‘信州企業’だ。

'信州企業'飛躍の原点は「地道に続けたものづくり」

「不況に強い」メーター業界

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 ガスは10年、水道は8年と、定期的に更新が必要となるメーター業界は、不況に強いといわれる。東洋計器も主力のLPガス(液化石油ガス)の更新需要で増産が続き、2009年3月期の売上は145億円。2010年度はさらに増収を見込む。
 「売り上げ増」と聞けば、世界同時不況、とくに厳しい製造業において、他業者から羨ましく思われるだろう。しかし、東洋計器も努力なしに現在があるわけではない。他社に先駆けてすぐれた新製品を開発し、長野県に本社を構えながらも、全国47都道府県をカバーする販売網をいち早く確立した。
 つまり「ものづくりの基本」である、技術をつないで顧客への流れを作り、新たな商品で顧客を満足させるという製造業の経営を地道に続けているのだ。
 土田泰秀社長のインタビューから、東洋計器の本質を読み解く。

業界シェア上位を獲得

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 東洋計器の主力商品であるメーターは、需要は安定している反面、市場全体としての拡大は難しい。

 国の定めた高い基準を満たさなければならない国家検定品であるメーター製造は、更新時期にあわせ永続的な需要が期待できる。しかし、人口減少社会において、現在以上の世帯数増加がのぞめない以上、市場規模は限られてしまう。
 子どもたちが遊ぶ「イス取りゲーム」のように、徐々に少なくなっていくイスを獲得するため、同業者間でしのぎを削っている。

 東洋計器は、こうした厳しい同業者間との競合の中、着実にシェアを伸ばしている。現在の業界内でのポジションについて土田泰秀社長に尋ねると、驚きの答えが返ってきた。
「LPガスメーターの会社は全国に6社あります。十数年前、東洋計器は業界下位でしたが、現在は上位。シェアは1.7倍に拡大しました」。土田社長は「それでも1位の企業との差は、まだまだ全然埋まらない」と謙遜するが、主力の水道メーターも同様に、業界中堅から上位へと大きな成長を遂げている。

飛躍のカギは「付加価値」

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 なぜここまでの飛躍が可能だったのか?
 そのヒントは時代が求める「付加価値」にあった。

 生きるために欠かせない、水道とガス。毎日当たり前のように使っているが、しかし、これらの計測部分に注目する場面は少ない。「使用量を計る」機能は単純なメーターだが、取材を通してその進化には驚かされた。

 たとえば、ガスメーター。現在ほとんどの家庭で使用されている機器には「マイコン」と呼ばれる小型コンピューターが内蔵されているのはご存じだろうか?東洋計器はメーターにマイコンという「付加価値」を付けた。

マイコンメーターで「ガスは安全に」

 マイコンが付加されたことで、土田社長は「ガスは安全になった」と語る。

 「この二十数年の間に、実はガスは非常に安全なエネルギーになっています。ガスの事故は10分の1程度に激減しました。特に震度5以上の地震発生時には、自動的にガスをメーターの所で遮断しています。これは皆、マイコンメーターの普及によるものです。」マイコン機能により、ガス事故を防ぐことができるというのだ。

 「メーター内部にはマイコンのほか、センサーと遮断弁が入っていて、センサーで揺れを感じると、マイコンが即座に遮断弁を閉じる。さらに、通常使われるガスの量をマイコンが覚えていて、大量にガスが放出されたり、消し忘れがあったりした場合もマイコンが判断してガスを止めます。」

「新しい技術」で「新しいサービス」を創造

マイコンをいち早く開発

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 東洋計器のシェア拡大の第1歩となったのが、このマイコンメーターだった。

 「いち早くマイコン化を進めました」という土田社長の言葉通り、1985年、LPガス用マイコンメーターを日本で初めて開発したのは東洋計器だった。安全への時代ニーズをとらえた新商品によって、着実にシェア拡大した。

「ホップ、ステップ、ジャンプ」に例えるなら、マイコンメーターは「ホップ」。次の「ステップ」は「テレメーターシステム」つまり、通信機能の付加だった。
 「マイコンがつけられたことによって、メーターそのものが『どのくらい使ったか』というデーターが残るようになった。そこで、電話回線を利用してこのデーターを集めようと考えました。」

通信機能でメーターの新しいビジネス展開

 県花から名付けられた「りんどうシステム」。東洋計器が1986年に開発した、水道・ガスメーターの自動検針システムだ。

 現在、通信機能は一般電話回線からPHS等の無線回線へと進化し、「セキュリティーが厳しい都心のマンションや、山間地の住宅など1軒1軒の検針が困難な場所で使われる」という。「和歌山県・高野町(弘法大師が密教・真言宗を開いた山間地にある町)では、全てに『りんどう』の自動検針システムが使用されています。また、高齢化・一人暮らしが増える中で、24時間監視の『見守りサービス』も注目されている」。
 通信機能の付加により、検針業務の省力化だけでなく、新たなサービスを展開しているのだ。

次の時代を「計る」企業へ

「分けて」計る'ハイブリッド・カウンタ'

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 「新しい技術」から「新しいサービス」が生まれたのは、通信機能だけでない。マイコンで「ホップ」、通信機能で「ステップ」したガスメーターは、さらに'ハイブリッド・カウンタ'で「ジャンプ」した。
 ハイブリッドとは、組合せの意。異なる種類のメーターを組み込んだ製品だ。

 「『分けて』測定ができるようにしたんです。一般的にガスの用途は『給湯』『暖房』『厨房』に分けられ、それぞれ使われ方に特徴があります。目的に応じて使用量が測定できれば、ユーザーは競合エネルギー(電気・灯油など)とコストや利便性を比較することができるし、『分けて』測定することで、それぞれで新しい料金設定をすることもできる」。

toyo-keiki08.jpg 2000年に独自開発した'ハイブリッド・カウンタ'によって「ガスという商品の競争力を高めることができる」と、土田社長は考える。ケータイに様々な料金メニューがあるように、ガスの場合も「日中、料理に使う場合は○○円。冬場の深夜暖房は○○円」といった新しい料金体系が可能になるのだ。

環境の時代を「計る」

 「分けて」測定する技術は、「環境の時代」にも即応する。
 「水道・ガスメーターは、単に使用料金を請求する道具に止まりません。CO2削減の具体策を考える上でも基礎データーを提示する役割も大きくなっていく」と、土田社長。

 東洋計器が、現在力を入れているのは「省エネ提案型事業」。メーター会社がなぜ省エネ提案なのか、不思議に思うかも知れない。しかし、土田社長はこう語る。「ガスや電気をうまく組み合わせれば、CO2はもちろん、家庭の光熱費削減も可能。そのためにはガス、水道、電気の使用量を一元管理するシステムが必要になる」。

 2009年に新設した「エコ事業部」には、「環境ビジネス室」と「太陽光発電設備販売課」を置いた。環境ビジネス室では病院や商業施設に'ハイブリッド・カウンタ'を発展させたエネルギー一元管理システムを用い、省エネ提案を行う。
 太陽光発電について社長は、「オール電化に比べ、ガスと太陽光の併用はCO2の削減に大きな効果がある。実は料金的にもお得になる場面が多い」という。

オール電化よりエコロジー

 エコ事業部全体の、初年度売り上げ目標は5億円。事業拡大戦略の背景にあるのは、「オール電化への危機感」だ。
 「行政からの補助金や、電気の買い取り価格が2倍になるなど、注目されている太陽光発電。ただ太陽光導入に合わせオール電化への切り替えが進んでいる」と土田社長。省エネ提案型のシステム販売は、オール電化の流れを食い止め、本業のガスメーターの需要を維持する狙いもある。

 「時代に応じて『計る』ものが変わるだけです」と土田社長は笑う。
 「もともと計器の目的は正確に料金を頂くことにあったが、これからは違う。『計る』ことで豊かな生活を提案していくことが大事になる」。

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先端技術で時代を計る

たゆまぬ努力で'技術の東計'

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 「今月の新技術」。本社工場に入るとすぐに、こう書かれた製品が展示されている。
「毎月新しいものを、ノルマにしている」という東洋計器。「毎回、画期的な新技術というわけにはいかないが、改善策だったり、新しい機能だったりが加えられている」という。こうした姿勢からも'技術の東計'が垣間見られる。

 こうした地道な努力で業界内の確固たる地位を確立した東洋計器。支えているのは「400人の社員の約1割」という研究所の開発部隊だ。
 「研究開発で大事なのは、『世の中の情報』に触れること。マイコンやテレメ(テレメーター=通信 システム内臓メーター)によって、これまでの機械工学や金属・材料工学などのハードに加え、電気・電子、通信工学などソフトも重要になっている」と、土田社長。
 最新の設備が導入された総合開発研究所では、水道部門、ガス部門の精鋭研究陣が一体となり、ハードとソフト両面から独自開発を続けている。

全国をカバーする営業所

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 さらに、土田社長は続ける。「面白い、と思える仕事をしていかなくてはいけない。開発だけでなく、営業所も同じ。同じ仕事をしているのでなく、新しい世界へと発展させている」。
 画期的な新技術開発の背景には、「47都道府県くまなくネットした」全国27の販売拠点の存在がある。1954年の東京出張所を皮切りに、60年代、70年代には大阪・名古屋・広島・仙台・札幌・福岡など大都市エリアをおさえると、さらに80年代に入ると北海道・釧路や、九州・鹿児島などへと拡大させていった。

「営業でも、ピンとくる」と土田社長が表現するように、販売・営業所で顧客から寄せられる情報が、提案型商品開発の原点となっていることは言うまでもない。

計ることの価値を高める

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 1905年、松本出身の桑澤松吉氏によって日本初の水道メーターが開発・量産された。この流れをくむ東洋計器は、以後100年以上にわたり「計る」ことを事業の核にしながら、水道からガスへ、さらにマイコン・通信の機能を付加、新たな測定機器の開発から省エネ提案ビジネスなどへと歩みを進めている。

 東洋計器の本社内には、はかりの展示室がある。江戸時代を中心に、中国やタイ・欧州など海外のものも含めた、古いはかり、マス、天秤や分銅、ものさしなど2000点以上の展示物を誇り「はかりに関しては、国内で2番目の規模」という。

 「これからどんな企業を目指すのか」という質問に、「計ることの価値を高めてゆきたい」と土田社長は答えた。

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企業データ

東洋計器株式会社
長野県松本市和田3967-10 TEL:0263-48-1121
http://www.toyo-keiki.co.jp/