[サイプラススペシャル]64 小さな羽根(フィン)で未来に飛翔 世界に認められたプレス金型工法

長野県上伊那郡箕輪町

中村製作所

「時代の風」を捉えることができるか?
全世界で大ヒットのiPodに「メイドイン信州」

 全世界で大ヒットしたiPodやiPod miniには、「メイドイン信州」が搭載されていた。中村製作所で作られたハードディスクの基台だ。独自に開発した世界初のプレス金型工法は、それまで不可能だった低コスト・高品質を可能にした。
 しかし、携帯型音楽プレーヤーの主流は、ハードディスクからフラッシュメモリに移行し、仕事は激減。追い討ちをかけるようにリーマンショックが襲ってきた。 世界トップクラスの技術力をどう活かしていくのか?ITやクルマに続く成長産業を捉えることができるのか?中村製作所は、小さな「羽根」に未来をかける。

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「技術革新」と「世界同時不況」のダブルパンチ

誰もが知っているiPodに、中村製作所

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 誰もが知っている、特徴的な白いボディに、白黒の液晶画面とタッチ式の丸いボタン。世界に衝撃を与えた初代iPodは、最大1万曲の記憶容量を誇り、全世界で大ヒットした。
 しかし、この記憶装置に中村製作所のプレス加工技術が使われていたことは、あまり知られていない。

 中村製作所は1997年ごろから、他社に先駆けいち早くハードディスク市場にプレス加工で挑戦。世界で初めて、超小型電子記憶装置用の基台のプレス製造・実用化に成功した。
 「もともと開発志向の土壌があり、よそでは出来ない技術を構築していくことを得意としていた」と、開発部長の八釼(やつるぎ)住夫。iPodでの採用は、中村製作所の技術が世界に認められた証しでもあった。


2つの大波にのまれた「ものづくり」

 iPodタッチ、iPodナノ、iPhone・・・音楽プレーヤーの枠を超えて進化を続けるiPod。記憶装置もハードディスから、より小型で駆動部分がないフラッシュメモリに変わった。
 当然ハードディスクの需要は減り、中村製作所の仕事は激減。さらにサブプライムローン、リーマンショックにより、製造業全体が大きく沈み込んだ。

 「一時は、前年比で生産が半分に落ち込んだ。まだまだ予断を許さない。」八釼部長が気を引き締めるように、2005年に25億円だった売上げは、2009年は15億円と激減。世界に誇る技術力を有する'信州企業'にも、「技術革新」と「世界同時不況」という2つの大きな波が直撃した。

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高い技術力を成長産業へ

放熱で「時代の風」を捉えろ!

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 いかに時代の風をとらえることができるか?
 逆風のなか、中村製作所はひとつの航路をとった。それが「放熱」だ。

 美しい曲線。ウエーブした極薄の金属が、幾重にも連なる精密部品。
規則正しく並ぶ羽根(フィン)こそ、中村製作所の高い技術力が結集した『放熱板』だ。
 「LED(発光ダイオード)やEV(電気自動車)は、必ず熱の問題が出てくる。だからこそ放熱板は成長が期待できる分野です」と、八釼部長は語る。

 精密プレス部品加工の中村製作所は、薄いフィンを複数並べ、電子機器などの熱を効率的に逃がせる放熱板を開発し、初の自社ブランド品として商品化。机上に置かれた手のひらサイズの小さな部品こそ、同社が未来への飛躍をたくした「羽根」だった。

「LED元年」到来 熱との戦いが始まった

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 2009年は「LED元年」と呼ばれる。
 低消費電力であることが注目され、急速に普及し始めたLED電球。電気代は白熱電球の約8分の1、寿命は10年以上・・・だが、メーカーの悩みの種は、LEDが発生する熱だった。LEDが発生する熱が製品寿命に影響を及ぼす。
 市販されているLED電球の筐体(きょうたい)部分には、幾重にも彫りこまれた溝がある。この溝こそ、放熱効率を重視した冷却フィンだ。

 「とくに業務用LEDでは、流れる電流も大きく熱も発生しやすい。LED基板をフィンと一体成形できれば、温度上昇を抑えられるだけでなく、軽量化による材料費の低減や、基板に放熱板を接着する手間も省けるため、コスト削減が可能です。」
 八釼部長は笑顔で「もちろん、地球にも優しい」と付け加えた。

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「どこにも負けない」世界が認めたプレス技術を結集

金属を"粘土"と思え!?

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 最も薄い放熱板は、0.05mmのフィンが0.05mm間隔で並べられる。肉眼では羽根があることを確認できないほどのサイズ。ミクロン単位の加工も、すべてプレス成形というから驚きだ。
 そもそも大型機械の上下運動で、金属の部品を打ち抜くプレス加工。どうやって極小の羽根を作り上げているのだろうか?その秘密を八釼部長はこう説明した。
 「金属を金属だと思うと、加工も難しい。金属を'粘土'だと思って金型を設計するんです」。

「素材と会話する」プレス加工

 金属を粘土と思え・・・「すべては設計思想です。」八釼部長はニコリとした。
 「金属を抜いたり折り曲げたりするだけでなく、絞りや冷間鍛造など、ウチにはどこにも負けない17の技術があります。」17の特殊技術をすべて活かして作られたのが、小さなフィンだ。
 八釼部長が「技術ではどこにも負けない」と豪語するプレスのワザは「金属と会話して」作り上げられたという。「ムリな加工をすれば『素材が泣いているぞ』って言います。素材を痛めつけるな、やさしくつくれ、という発想から金型を設計していきます。」

小さな羽根で、新たな時代へ

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 成長分野への資源配分は、「企業の生命線」となる重要な課題だ。
 「LEDも、EV(電気自動車)も、つまりは電子部品の集まり。とくにEVに搭載されるたくさんのチップを冷やすためには、水冷が必要になる。液体と接する面積を増やし、効率的に放熱できることができるうちのフィンは、成長分野と考えています。」

 3年後には放熱板だけで売上24億円を目指すという中村製作所のフィン(羽根)は、文字通り技術力で未来に羽ばたく翼となるだろう。

【取材日:2010年2月26日】

企業データ

中村製作所株式会社 長野県上伊那郡箕輪町三日町493-1(伊那工場) TEL:0265-79-3880
http://www.nakamuramfg.co.jp/