[サイプラススペシャル]108 お客様のウォンツを追求するものづくり 搬送システムを通じて豊かな社会作りに貢献

長野県立科町

ナガオカ製作所

 2011年1月19日から21日までの3日間、東京ビックサイトでエレクトロニクス製造・実装技術展「インターネプコン・ジャパン」が開催された。世界19カ国からエレクトロニクス関連メーカー1149社が出展、3日間の来場者はおおよそ10万人。この分野ではアジア最大規模、開催回数も40回を数える。

 この技術展に出展すること20年という企業が長野県立科町にある。社員数50名、平屋の本社工場入り口には地元蓼科高校の生徒が作ってくれたという木彫りの扁額がかかる。刻まれた文字は『ナガオカ製作所』、長岡社長(65歳)の笑顔が待っていた。

下請けからメーカーへ

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「ローダ」「アンローダ」といえばナガオカ

 ナガオカ製作所の主力製品は、プリント基板組立用搬送装置である。基板に様々な部品を実装する生産ラインに組み込まれる装置で、ラック内に収容されている基板を1枚ずつ自動で次の工程に送り出す装置(ローダ)と前工程から送られてきた基板を1枚ずつ自動でラック内に収納する装置(アンローダ)が中心だ。

 一口に基板搬送装置といっても、基板そのものの大きさや搬送の高さ、ラインの流れを踏まえて要求される仕様はカストマイズも多く、いわばオーダーメイドの1品1様の製品である。オーダーがあると、「まずお客様の現場へ出向き、ラインを研究、そして仕様の打ち合わせ」から始まる。複雑で手間がかかる工程に、参入した大手メーカーも次々と撤退していく中で、長岡社長は「小さな業界で"もれ水"を受けて取り組んできた」とこの40年近くを振り返る。

 しかし、今では、国内で搬送装置といえば必ずナガオカ製作所の名前がでる。「プロではなくガソリンの匂いが好きな素人だからこそやってこれた。」という長岡社長、ものづくりへの自信が伝わってきた。


きっかけは「ワンマンコンベア」

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 ナガオカ製作所の創業は1972年、米と養蚕が主な産業の立科町で電気部品の組立内職工場としてスタートした。養蚕の衰退とともに、手の空いた農家のおばちゃんたちを集めた工場で、テープレコーダーやラジカセの基板を作った。しかし、"職業意識が高いとはいえない"おばちゃんたちでは効率は悪く、品質も不安定。これを設備で補おうと、長岡社長は自分一人で出来る自己完結型の装置を考案した。その名も「ワンマンコンベア」。ワンマンコンベアでは、一人で1から10まで責任を持って製品をつくりあげる。この考え方はナガオカ製作所のものづくり原点になったという。

 自社の成果に力を得て、「ワンマンコンベア」の製造・販売を始めた。1980年には発明協会から発明賞も受賞、もっと売りやすい製品をということで、プリント基板の搬送装置の開発に入る。「どんなに小さなものでも自分の名前で売れるものを作りたい。」プリント基板組立の下請けから手を引き、強い思いでメーカーへの一歩を踏み出した。

粘り強く辛抱強く12年

 しかし、メーカーへの道は厳しかったという。ワンマンコンベアの営業やメンテナンスを抱えながら、搬送装置の研究開発が続いた。搬送装置メーカーとしてのナガオカ製作所の名前は誰も知らない。大手メーカーより、高性能で価格は半分に押さえてもナガオカにはなかなか声がかからない。市場に認められるまで、粘り強いものづくりが12年も続いた。

認知されたきっかけの一つが、業界最大の技術展「インターネプコン」への出展である。"小っちゃな田舎の町工場(まちこうば)"が、思い切って世界規模の展示会で自社製品を披露したのだ。「12万人が来場する技術展、1000人はナガオカのブースに寄ってくれ、そのうち3分の一が情報を提供してくれるのです。」長岡社長は「ものすごく時間とお金がかかるが、この出展は欠かせません。現場の生の声は必要な情報です。」と語る。20年の出展実績は、粘り強いものづくりとともに今日のナガオカ製作所の強さになっている。世界各地の現場の声が「お客様に喜んでいただく」製品に結びつく。

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フットワークの良いものづくり

食事の間に手直しができる!!

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 「開発設計から製造メンテナンスまでの一貫体制」モノづくりの特徴としてよく耳にする言葉だが、ナガオカ製作所の工場では、本当にネジ1本から作る。搬送装置の中身だけではなく筐体も作る。工場は板金、切削、旋盤、溶接、塗装、焼付けなど、広くはないフロアだが、加工作業に必要な動線が確保され、大型で高性能の加工設備が配置されている。「機械操作は、一人で2台~3台出来ますよ。」幅広い年齢層の社員が和やかな雰囲気で作業を続けていた。

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 「めっき以外は社内で何でもできます。」「立ち会い検査にきたお客様の要望は、その場で対応します。このふたの角度をまっすぐにして欲しいといわれれば、食事の間にも直せます。お客様は、確認して安心して帰っていきます。」当たり前のように説明する社長、「ついでに言うと、その場で直した方がコストも安い。機械の稼働率も上がります。」
 内製化により蓄積されたノウハウ、加工全般何でもできる人と設備、製品の品質とともに「小回りがきく、フットワークの良いものづくり」は顧客満足度を高める。

作った装置に名前をつける

 ナガオカ製作所のもう一つの大きな特徴は設計も一人、組立も一人で行うものづくりの方法だ。自己完結型のワンマンコンベアをつくりだしたナガオカ製作所の原点ともいえるやり方である。
 製品は大量生産ではなく、発注先の注文に沿った1品1様、設計から始まってすべてをまかされている責任とやりがいは、納入時には、製品に花子・太郎といった名前を付けるほどの愛着にかわる。「たくさん作るよりも、良い製品を1台完成させよう」という社長の思い通り、メイドインナガオカの「良い製品」が世に出て行く。この生産方式で1999年にはISO9001(品質マネジメントシステムの国際規格)を取得した。

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未来に向かって「お客様のウォンツを追求する」

中国でも生産するローダとアンローダ

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 ナガオカ製作所は2003年中国に進出した。ここでは屋台骨ともいうべきローダとアンローダを生産する。技術的にはほぼ完成されている製品なので、コストダウンをはかり、中国に進出した実装メーカーに装置を納めたり、逆輸入でこれまでよりも低価格で日本国内のメーカーに提供する。メイドインチャイナではあるが、NAGAOKAのマーク入りの製品、品質には自信がある。


もう一つの事業の柱に―「電動トライク」

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 ナガオカ製作所の工場入り口には出来たばかりの新製品があった。搬送装置のメンテナンスを担当するナガオカテクノサービスで製作した「電動トライク」は、今年の「インターネプコン・ジャパン」でも紹介された。ブレーキとサスペンションとタイヤ以外はすべて手作り。車輪は前に2つ後に1つ、電気で動く。

 試作品を前に、長岡社長は熱くものづくりの醍醐味を語る。「このバイクは40歳以上の人に乗って欲しい。人生の粋も甘いも知り尽くした年齢の人に一生の宝物として提供したい。乗る人の好みをデータ化してこのバイクを動かす。前の2つの車輪は横転を防ぎ横滑りもしません。」若い頃からバイクが大好きだという長岡社長がもう一つの事業の柱になればと楽しみながら開発を急ぐ製品だ。

生き残るためには「ウォンツ」を形に

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「1人の社員も解雇せずすみましたが、2009年の売り上げはリーマンショックで半減、社員にも苦労をかけました。」「生き残るためには、お客様が気づいていないニーズに先回りして仕事をすること。こう作って欲しいというニーズの更に先にある意識されないものを形に出来れば、ナガオカ製作所は見放されないはず」長岡社長はこれを「ウォンツ」と表現する。売り上げが戻った今も「ウォンツ」の追求は進む。

 搬送システムのノウハウを生かした基板のクリーニング装置や基板に管理情報を書き込むレーザー印字装置も「ウォンツ」の追求から開発された製品だ。これらの製品の国内シェアは既にトップクラスに育っているが、性能の向上や多機能化、コストダウンもと、ますます研究開発に力が入る。

 「わが社の経営理念は搬送システムを通じて豊かな社会作りに貢献することです。」繰り返し口にする長岡社長、ナガオカ製作所の"小っちゃな田舎の町工場(まちこうば)"にはモノづくりの原点があった。

【取材日:2011年1月14日】

企業データ

株式会社ナガオカ製作所
長野県北佐久郡立科町大字芦田1829 TEL:0267-56-1259
http://www.nagaokass.co.jp/