[サイプラススペシャル]109 圧力計測のリーディングカンパニー 一芸を極めて世界に挑戦

長野県上田市

長野計器

社屋の入り口に並び立つ国旗掲揚ポール。掲揚されているのは韓国、中国、ドイツ、アメリカ合衆国の国旗。日本の国旗と長野計器株式会社の社旗を真ん中に、冬空にはためく。圧力計測のリーディングカンパニーとして世界を舞台に挑戦を続ける長野計器。県内の生産拠点の一つ、主力となる圧力センサを製造する丸子電子機器工場を訪ねた。

NKSは信頼のマーク

長野新幹線あさまのブレーキにも

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 「当社は、日本国内の電車の圧力計は、ほぼ100%を供給しています。もちろん長野新幹線あさまの圧力計も当社の製品です。」宮下茂社長のいきなりの言葉である。圧力計とはブレーキ圧の監視用双針圧力計のこと。更に「日本が落札した中国の上海鉄道、ここに納める車両にも当社の圧力計や、圧力センサなどが使われると思いますよ。」

 長野計器は圧力計測器メーカーですと説明されても、日々目にするものの中にその製品を見つけることは難しい。しかし、鉄道車両の様々な場面で使われている圧力計、ブレーキシリンダーや空気バネ、電車の扉の開閉監視や制御用の圧力センサを製造し、圧力スイッチに使われている技術も提供していると聞くと、とたんに会社全体が身近になる。

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 丸子電子機器工場の広い敷地の入り口に置かれたかつて別所線を走っていた通称「丸窓電車」、ここにもブレーキ圧監視用として長野計器の双針圧力計が使用されており、この車輌は長野計器の歴史の象徴、単なる地域のモニュメント以上の意味を持つ。

生産拠点は上田市

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 長野計器は、1948年(昭和23年)に(株)東京計器製作所から分離独立、本社工場を小諸市に置く長野計器製作所として設立された。その後本社は上田市に、更に1976年には東京大田区に移転。2005年に東京証券取引所市場第二部に上場、2007年に東京証券取引所市場第一部銘柄に指定され、今や地域社会のみならず国際社会にも貢献する企業だ。

 しかし、国内の生産拠点は上田市。設立以来使われているNKS(NAGANO KEIKI SEISAKUSHO)のマークを付けた製品は、60年以上にわたって、ここ長野県から日本全国そして世界に出荷されている。

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圧力技術に専念して

 長野計器の事業分野は、圧力計・圧力センサ・計測制御機器と大きく3つに分けられる。「当社のものづくりの特徴は、圧力計測技術に経営資源を集中していること。圧力計測技術一筋の専業メーカーだということです。」宮下社長はまっすぐに語る。鉄道車両を例にとっても、ニッチな事業分野だが、まさに社会の重要インフラ、常に正しく動作し安全が担保されなければならない。圧力技術一筋という信頼が際立つ。

 社業の発展は、事業分野を拡大することよりも、ユーザーニーズに応えた効率のいい研究開発を進めて圧力計測技術をより深化させること。この姿勢こそが長野計器の技術を高め、製品への信頼を作り上げてきた原動力だ。「圧力技術を極めることが、長野計器の使命です。」宮下社長の強い意志、NKSのマークはそのシンボルでもある。

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圧力変化を検出する

スタートはブルドン管

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 丸子電子機器工場から車で10分ほど離れた場所に、長野計器テクニカル・ソリューションズ・センターがある。2階は研究開発部門だが、1階は圧力計や最先端の圧力センサ、さらに国内外の関連企業に関する製品の展示スペースとなっている。この一角に、高さ30センチほどの鉄の台と鎚が展示されていた。これはブルドン管式圧力計のブルドン管を手で成形するために使われた道具であり、長野計器の圧力計製造技術もここからスタートした。
 機械式圧力計は、現在新幹線や各種プラントをはじめ、身近なところでは蓄圧式の家庭用消火器などにも使用されている。機械式圧力計の国内シェアは約60%を占めるが、その製品は上田市内にある上田計測機器工場で生産されている。

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 一方、丸子電子機器工場の主力製品は圧力センサである。圧力センサや圧力センサを組み込んだ製品の製造だけではなく、その生産設備もこの工場で作られている。基本となる原理そのものが確立されている圧力計と違い、圧力センサは、圧力の変化を隔膜(=ダイアフラム)で検出し、電気信号として出力する装置。1970年代から始まった開発だが、ダイアフラムは、シリコンやステンレスや、セラミックなど、使う環境と検知する圧力の違いで材質や精度は異なる。

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 特に、車載用の圧力センサは半導体歪(ひずみ)ゲージ式という素子で、直径が12.7ミリから、2.5ミリの大きさのものまで独自開発だ。車載用の圧力センサの製造は、徹底した自動化ラインで行われている。無人で24時間フル稼動、月間250万個まで生産可能という。また、この自動化ラインは多品種少量生産にも対応していて、そこに続く検査部門では人による緻密な作業が続く。製品を作り上げる技術の高さと精度を確保する技能とのバランスがとれた生産工程だ。

広がる用途には「スーパークリーンルーム」も

 圧力センサの用途は、車両関連・ショベルカーなどの建設機械や産業機械だけではない。工業プラントをはじめ、建築物の歪を記録する最大値記憶センサや、半導体、空調設備用などにも性能や品質が高く評価され数多く採用されている。更に、最先端のロケット、航空機、グリーンイノベーション関連の水処理、原子力発電の分野にもその用途が広がっており、気体・液体を問わず、圧力による「変化」を検知し電気信号で出力するというニーズ。更にそれを制御する装置や検査機器へのニーズや要求は確実に高度になっている。

 宮下社長は「ユーザーニーズによる開発が、結果として今日の長野計器の技術力、製品群になった。」と語る。実際、長野計器の圧力センサと計測制御の製品は、半導体、医療福祉、食品分野にまで及び、ユーザーニーズに応えるために、元東北大学大見教授と研究開発した「クラス10」(1立方メートルの空気中に0.1ミクロン以上の微粒子が10個以下)のスーパークリーンルーム-半導体や医薬品製造に求められる清浄度が管理されている-も、設備されている。

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世界スタンダードを担う「技術立社」

舞台は世界、多種多様な業界のニーズに応える技術

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 宮下社長は「経済の成長により、パワーバランスが先進国から新興国に移りつつある今日、日本の技術力を企業や国がいかに引き出すかが、これからの日本の経済を左右する」と大きな視野でものづくりを語る。
 長野計器のグローバルな戦略も、2006年に世界の3大圧力計メーカーの一つである米国のアッシュクロフト社を子会社化したことで「世界スタンダードを担う」姿勢がより鮮明になった。アッシュクロフト社をパートナーとしたことを飛躍の核にし「コアとなる部品は日本でずっと作る、アッセンブリーは供給地で対応する」研究開発型の企業として大きな飛躍をはかる。
 「圧力技術を極めていく自信はある。」

一芸を極めて世界に挑戦

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 宮下社長の夢は、成長が見込まれる車部品、飛行機関連部品、原子力発電所などのプラントで使われる圧力センサの部品だけはなく、ナノメートル(10億分の1メートル)の世界にも広がる。
 血管の中にナノメートルサイズの圧力を感知する圧力センサを埋め込むことができれば、予防医学に大いに貢献する。同じく医療分野で、赤ちゃんの寝息や呼吸の極微圧を検知する新生児用の無呼吸モニター装置は、実用の段階に入っている。様々な産業分野で極微圧から超高圧を検知する長野計器の圧力センサ素子の重要度が一段と増している。

 世界スタンダードの製品がここ上田から発信されている。長野県のものづくりの力を世界に認めさせる、まさに「リーディングカンパニー」である。

【取材日:2011年1月17日】

企業データ

長野計器株式会社 丸子電子機器工場
長野県上田市御岳堂2480 TEL:0268-42-7530
http://www.naganokeiki.co.jp/