[サイプラススペシャル]111 未来型モーター実用化へ スゴい!ベアリングレスモーター

長野県諏訪市

諏訪東京理科大学准教授 大島政英

宇宙や医療分野でも活躍が期待
「軸」の部分にスゴい秘密が!?

 「僕たちが研究しているのはモーター。すごいのはココです。」
諏訪東京理科大学の学生・小林俊資さんが指さしたのは、高速で回転するモーター。この回転する「軸」の部分にすごい秘密が隠されています。
 このモーターを研究しているのは、電子システム工学科・大島政英准教授。耐久性に優れ、宇宙や医療など「未来の成長分野」で活躍が期待される画期的なモーターです。 いったいどんな技術が隠されているのでしょう?

未来型モーター「ベアリングレスモーター」

一変して音が静かに!?

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 「では、いきます。」
 学生がスイッチを入れると、モーターの回転音がほとんど聞こえなくなりました。「回転数やパワーは変わっていないんですよ。」これが、諏訪東京理科大学電子システム工学科・大島政英准教授が研究するモーターです。

 普通のモーターの回転音が「ジー」という濁点混じりだとすると、大島先生の開発しているモーターは「スー」。文字で表すと濁点なしの清音。回転にともなう小さな震動も、激減しています。

ボールベアリグを使わない

 「ボールベアリングを用いない、ベアリングレスモーターと言います。」
 大島先生が研究を進めるのは、この「ベアリングレスモーター」という特殊なモーター。名前の通り、ベアリングを使わないモーターです。
 前述のモーターは、スイッチを入れると通常のモーターから、ベアリングレスに切り替わる仕組みだったのです。

 一般のモーターには、回転する「軸」の部分にボールベアリングが使われています。モーターが回るとき、軸受の部分はいくつもの小さな金属の玉がコロの役割を果たし、スムーズに動くようにしているのです。
 しかし、ボールベアリングを使用する限り、摩擦や摩耗によるエネルギーの損失は避けられません。少しずつ削れる粉じんの問題や、メンテナンスも必要です。
 これらの問題を解決したのが、未来型のモーター「ベアリングレスモーター」です。

メリットいっぱい「ベアリングレスモーター」

磁石の力で軸を浮かせる

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 なぜ、ボールベアリングがなくてもちゃんと動くのでしょうか?
 「磁石のチカラを利用しています。」と、大島先生。「磁気のチカラを使って、回転軸を宙に浮かせたまま、どこにも接触させないで高速回転が可能です。」
 リニアモーターカーが車体を浮かせているように、大島先生のベアリングレスモーターは軸を浮かせて回転させています。

 摩擦がないので高速回転が可能になり、パワーも大きくなります。摩擦がないので摩耗もなく、メンテナンスなしでも長持ちします。しかも、ボールベアリングを使わないので、騒音、振動を最小限に抑えることもできる、夢のようなモーターです。


制御がカギ

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 「震動が目標値以内だと、うれしい。」
 より震動を少なくするモーターの設計を担当する研究室の学生・輿康弘さん。パソコンモニターにはモーターの3D(立体)映像が映し出され、シミュレーション解析を行っています。

 磁石の吸引力と反発力で軸を正確に浮かせるため、細かい制御が必須です。「通常使われているモーターを、ベアリングレスモーターに置き換えるためには、回転数やモーターのチカラなど仕様を守ってつくらなくてはいけない」と、大島先生。
 電磁石のコイルの巻き方や、磁極の取り付ける角度や、電力の大きさなど、すべてのバランスを整えるために地道な研究が続きます。

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未来を造る「ベアリングレスモーター」

研究はいよいよ「実用化」段階へ

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 「基礎研究は終わり、実用化レベルに達しています。」
 20年以上ベアリングレスモーターの研究を続ける大島先生は、この分野のトップランナー。「リニアモーターカーが実用化される2020年半ばには、今使われているいくつかのモーターが、ベアリングレスモーターに置き換わっている...それを目指し、研究しています。」

 スイスのメーカーでは、すでにベアリングレスモーターが半導体製造装置用ポンプとして製品化されています。「ベアリングレスモーターの技術は、スイスと日本がけん引している」と大島先生は言います。

宇宙から人体まで 広がる可能性

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 東洋のスイスと呼ばれた、諏訪地域。美しい自然に囲まれ、きれいな水と空気を活かした時計製造や精密加工が盛んな地域です。現在、まさにこの2つの地域が、未来のモーターの発信拠点となろうとしているのです。
 「ベアリングレスモーター」は維持管理が容易なことから、宇宙空間から、原子炉内、人体などでの使用が期待されています。

 「一番の課題はコスト面と、大きさ。」今使われているモーターに置き換える実用化を目指し、大島先生は県内外のメーカーと共同研究を進めています。世界トップクラスの技術「ベアリングレスモーター」の実用化は、すぐそこまできています。

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【取材日:2011年1月31日】

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