[サイプラススペシャル]149 アルミ鋳造技術で培ったブレーキをグローバルに提供 二輪車・四輪車の総合ブレーキシステムメーカー

長野県上田市

日信工業

オートバイに乗る方は、ブレーキ部品に刻まれた「NISSIN」の文字に馴染みがあるだろう。上田市の日信工業は、二輪車だけではなく四輪車の分野でもブレーキ製造を柱にグローバルに活躍している企業だ。ABS(アンチロックブレーキシステム)を国内で初めて製品化したほか、VSAと呼ばれる横滑り防止装置も製造している。長年培ったアルミ鋳造技術をブレーキ製造に生かす取り組みを続けている。

四輪車・二輪車ブレーキが主力製品

コア技術はアルミ鋳造加工

nissinkogyo03.jpg

日信工業は1953年、宮下貞雄氏が創業した。当時本社は東京都中央区にあったが、1961年工場のある上田市に本社を移転した。ベースとなっているのは、アルミの鋳造加工技術。二輪車・四輪車のブレーキをはじめ、アルミ加工技術を生かした部品の軽量化・強度化で発展を続けている。1997年には東証二部にも上場した(現在は東証一部上場)。国内外の社員数が8000人以上、売上高も1647億円(2010年度)を超えるグローバル企業だ。

国内外とも高いシェアを誇るブレーキ部門

日信工業は主力製品であるブレーキが売上の約7割を占める、まさにブレーキの総合メーカー。四輪部門は一社を除く国内全メーカーと取引しているほか、二輪車では国内全メーカーに採用されている。四輪車・二輪車とも1台分全てのブレーキを提案できることが強みだ。車にとって重要な「止まる」という要素を担うブレーキ部門。絶対的な信頼性が求められる中で、顧客ニーズに応えることで国際的に高いシェアを得ている。

nissinkogyo05.jpg

ABSの開発メーカー

現在は珍しくなくなったABSだが、これを国内で初めて開発したのも日信工業だ。1982年に国内で初めて乗用車に搭載された。また部品の小型軽量化も進めていて、当時10kgあったABSも現在は1.5kgとコンパクトになっている。このような新たな分野の開発も、日信工業の発展に大きく貢献してきた。

nissinkogyo06.jpg

アルミ鋳造技術を生かしたブレーキ製造

様々な加工技術で作られるブレーキ

nissinkogyo04.jpg

工場でのアルミ鋳造には、様々なノウハウが生かされている。まず「鬆(す)」と呼ばれる内部欠陥を無くすために、傾斜させて下から固める指向性凝固と呼ばれる工法を採用している。また今までは焼入れと焼戻しという2工程で行なわれていたものを、焼入れだけの1工程で可能にする加工法で効率を高めた。同じ部品も左右のハンドルの違いで作り分けるなど、部品ラインナップも世界中のメーカーと取引している企業ならではだ。


nissinkogyo07.jpg

アルミ加工技術による軽量化

アルミの鋳造技術は、ブレーキ以外の分野でも生かされている。例えば四輪車の車軸のサスペンションに取り付けられているナックルという部品。それまでは鋳鉄製のものしかなかったが、日信工業がアルミ製の部品を開発したことによって約40%も軽量化に成功した。現在は後輪部分のみに使用されているが、前輪部分もアルミ製に出来れば更なる軽量化が実現できる。燃費の向上ひいてはCO2排出削減に貢献する開発として注目されている。


nissinkogyo09.jpg

VSA(横滑り防止装置)を更に進化発展

ABSに続いて日信工業が開発したのが、VSAと呼ばれる横滑り防止装置。横滑りの際左右に大きく振られる動きを抑制するものだ。アメリカ合衆国では今年9月から全ての新車に採用することが義務づけられる見通しで、新たな柱となる可能性の高い製品だ。

世界中のブレーキを支えるグローバル企業

世界中を飛び回る社長

nissinkogyo08.jpg

社長の大河原栄次氏は53歳。本田技研工業の出身で、中国の現地工場やホンダエンジニアリングの社長を経て、今年6月に就任したばかり。「新しい開発に繋がるような活躍できる人材を育てていきたい」と語る大河原社長。海外にある自社工場や研究所にも足を運ぶため、本社での勤務は他の役員や取引先とコミュニケーションを取る貴重な時間。取材当日は役員を集めて、東京モーターショーの出展に関する熱のこもった打合せが行なわれていた。

グローバル企業としての地域貢献

nissinkogyo10.jpg

国内をはじめ、世界各地に工場を持つ日信工業。国内以外では、北米・アジア・ヨーロッパ・南米に、12の工場と4つの研究所がある。また地元企業が海外進出する際のサポートも行うなど、グローバル企業の立場を生かした地域貢献も行なっている。本社のある上田の地で製品に付加価値をつけて、それを海外で生産することで現在の実績を築いてきた。

常に新しいものを生み出す姿勢を貫く

グローバル企業の宿命として、大規模な世界企業と戦わなければならない立場にある日信工業。その競争に勝ち抜くために常に心がけているのは「いかにして新しいものを生み出していくか」という姿勢。ABSやVSAに続く製品を研究、現在は近年増加する低燃費タイヤの制動能力の向上などをテーマに開発に取り組んでいる。進化し続けるクルマ社会の「環境」と「安心」をテーマに、日信工業は「ブレーキシステム技術」と「アルミ軽量化技術」を駆使し、挑戦を続けている。

nissinkogyo11.jpg

【取材日:2011年10月17日】

企業データ

日信工業株式会社
長野県上田市国分840 TEL:0268-24-3111
http://www.nissinkogyo.co.jp/