[サイプラススペシャル]180 オンリーワンの技術を持つマルチエキスパート集団 衣料仕上げ機械専門メーカー

長野県諏訪郡原村

イツミ

ワイシャツのアイロンがけが苦手という人に、クリーニング店の店先に表示される1枚100円代のクリーニング料金は非常に魅力的だ。この価格を可能にしたのが、株式会社イツミのワイシャツプレス機だ。OEM生産のため、イツミの社名は“知る人ぞ知る”ブランド。積み重ねた歴史は50年余り、業務用衣料仕上げ汎用プレス製造では今や世界トップのメーカーである。

得意は業務用の衣料プレス機

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「衣料仕上げ機械のメーカー」といっても具体的な製品のイメージは持ちにくい。しかし、コインランドリーに置かれた洗濯機や乾燥機、クリーニング店で使用される大型の洗浄・消毒・乾燥機器さらにプレス機というと、誰でも一度は目にしているだろう。イツミの製品の種類はカタログに掲載しているものだけでも200種類以上、中でも中心となる業務用衣料プレス機では300種類以上の製品を手がけるという。その技術力で、市場はアジアはもとより、アメリカ、そしてヨーロッパと世界に広がっている。

すべて社内で造ります

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昨年、社長に就任した五味淳氏(42歳)は3代目、八ヶ岳の麓、諏訪郡原村にある本社工場で「我が社の特徴は、完全内製一貫生産です。小ロット・多品種・低コストを実現するためにすべて社内で作っています」と語る。


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まず、案内された工場は、材料となる鋼板を切断する、曲げる、削る、穴を開けるといった加工部門。手の平に入るほどの小さな板状の部品もあれば、円筒形や、L字に折り曲げられた金属片もある。さまざまな厚さや形状、性質の異なる素材を組み合わせて、製品の部品が作られていく。火花を散らす溶接作業も行われている。
「これは、ワイシャツプレス機のボディの部分、この隙間に蒸気を送り込んで圧力をかけます。今一番の売れ筋商品の部品です」。完成品の精度に直結する緊張感ある部品造りの工程が続いている。

塗装設備も最新式

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床に長く走るローラーを横に進むと、次は塗装部門。3年前に導入した粉体塗装の最新式設備だ。粉状の塗料をムラなく、均一に噴きつけ、熱処理を施すという方法は、難しい技術だが、液体の塗装処理よりも膜厚が3倍になり、錆びにくく製品の耐久性が高くなるという。

処理能力を追求して

ワイシャツ全身を全自動で仕上げるプレス機の組み立てが進んでいた。プレスの技術は、言い換えれば熱と圧力を制御する技術。完成された専用プレス機は500回のプレス作業で機能を確認後、出荷される。
クリーニングコストを抑えるために使われるワイシャツプレス機だが、しばらく前の機種では1時間に20枚~30枚しか処理できなかった。それが、このプレス機ならば、経験がなくても一定の品質で1時間に60枚、つまり1枚を1分で仕上げることが出来る。専用プレス機にセットするだけで濡れたワイシャツの襟や袖、ボディの部分が同時に仕上がる。しかも1台で2枚3枚と同時に出来る。午前中に預かったワイシャツを夕方店頭で並べることができるのもイツミが、世界で最初に開発した専用機の技術があればこそだ。

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「研究開発から製品化までを社内で行うには、あらゆる設備を自社で備えなければいけないのですが、これらがあるから1台からの注文も受けられます。さまざまな製品を、コストを抑えつつ、設計から試作・納品まで1ヶ月でやって欲しいというお客様のニーズにも、対応できます」。

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マルチエキスパートの集団

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「しかし、」と五味社長は言葉をつなぐ。
「完全内製一貫生産に、設備以上に必要なのは社員の能力です。みなそれぞれに誰にも負けない技術をもっています。オンリーワンの技術を持つマルチエキスパートになれといっています。実際、マルチエキスパートの集団なんですよ」。社長の視線は社員の後姿を嬉しそうに追っている。

ファッション業界でも

業務用のアイロン製造からスタートしたイツミのものづくりだが、アイロンが使われるのはクリーニング業界ばかりではない。プレス機は服を作るアパレルメーカーでもなくてはならない機器だ。大量生産の現場ではもちろんのこと、新たな布素材が開発されれば、その生地にあったプレス機が必要になる。ファッション性や機能性が加わった形状の製品を商品として出荷するための仕上げ機も要求される。イツミの技術はファッション業界を支える技術でもある。

新たな産業分野でも

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絶えず需要があるクリーニングやアパレル業界からのニーズだけではなく、福祉医療分野でもイツミの技術は活かされている。介護施設や病院で使われる布団・マットレスや車椅子などの洗浄機や乾燥機、消毒や殺菌乾燥機の生産も注目するところだ。
「熱と圧力を制御する」技術は、産業用の素材加工プレスや写真パネル等の印刷にも応用されるようになった。「今後は温度制御を伴う専用機の開発・設計・製造にも力を入れたい」「導入した"予測設計の技術-パソコンの中で試作段階まで開発を進め、エラーをできるだけ少なくするシステム-"により、開発期間の短縮を図り、製品の精度も更に高めたい」五味社長の若いエネルギーが製品にも注がれる。

ものづくりの喜びを

大手メーカーで設計に携わっていたという五味社長は、今は、最初から最後まで全工程に関ることができるものづくりの喜びを実感していると話す。その充実感を分かち合える仲間と一緒に働くことが出来ることは更に大きな喜びと強調した。
「質から個性へ」と転換する時代になっても「ファッションの未来を追求し、衣料仕上げ機械の製造で世界の発展に貢献する」という創業以来の経営理念は揺るがない。

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【取材日:2012年06月29日】

企業データ

株式会社イツミ
長野県諏訪郡原村11865 TEL:0266-79-2331
http://www.itsumi.jp/