[サイプラススペシャル]185 食料生産に役立つ農業機械を造る 国内でも海外でも

長野県松本市

デリカ

強い夏の日差しをうけて、真っ赤な農業用機械が並ぶ。そのがっしりしたつくりは家庭菜園で見かける「農機具」とは全く異なる。緑波打つとうもろこし畑やスイカ畑が広がる松本市郊外にある株式会社デリカの工場は、食料生産を担う“稼ぐ機械”の製造現場である。

「農業が右肩上がりの時代も厳しい時代も」

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2013年に創立60周年を迎えるデリカは、部品の機械加工を行うデリカ機器製作所からスタート。昭和30年代、普及し始めた耕運機やトラクタのトレーラの製造を手がけ、農業用機械メーカーとしての歴史を刻んできた。現在の大きな柱は堆肥散布装置などの農業用作業機製造と、トラクタと農業用作業機をつなぐ連結装置「三点リンク」の生産である。4代目社長である戸田竹廣氏(64歳)は「農業が右肩上がりの時代も厳しい時代もありました。デリカはお客様の要求をしっかり受け止めて安全な食料生産に役立つ機械を作ってきました」とにこやかに語る。

国内シェア60%「自走マニアスプレッダ」

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"デリカ"ブランドの筆頭は「マニアスプレッダ」とよばれる作業機械だ。トラクタに牽引させるタイプと自走タイプがあるが、水田や畑、ビニールハウス内で、堆肥や鶏糞・土壌改良剤などの散布に使われる。デリカのマニアスプレッダは散布幅や散布の量、撒く速さも調節が出来、何よりも均一に散布できることが特徴だ。床板には樹脂ボードを使って腐食を防ぐ工夫もされている。オプションでクレーンや安全装置を取り付けたり、クーラーやヒーター・ラジオ付きのキャビンをつけることも可能、がっしりした筐体は「かっこいい働くくるま」の代表格だ。積載量は800キロ~3500キロと幅広く、狭い圃場でも果樹園でも操作しやすい作業用機械だ。自走タイプの国内シェアは60%、もちろん国内トップシェアだが、戸田社長は「6割といっても農業用機械はニッチな市場です」と謙虚だ。

国内シェア80%「三点リンク」

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この装置がないと「農作業機械は動きません」

もう一つの大きな柱はトラクタと作業機を連結する装置「三点リンク」の製造だ。こちらの国内シェアは80%を超える。「三点リンク」とは、マニアスプレッダ・バキュームカーなど様々な農業用作業機械とトラクタを連結するための部品で、これがないと農作業機械は動かない。実際に「この部分です」と示してもらって初めてわかる部品だが、トラクタの大きさや用途によって、「三点リンク」の大きさや種類もJIS規格で定められている大事な部品だ。


「どんな種類の三点リンクも製造できます」

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圧倒的な国内シェアは「日本のトラクタ製造の草創期から国内の主要トラクターメーカーと取引を始められた賜物」とのことだが、機能は同じでも、新型のトラクタの仕様とあわせて設計・開発をする装置、つまり、トラクタ製造メーカーの生産ラインに直結した製品のため、その種類は非常に多い。「15馬力から140馬力のトラクタまで、どんな種類の三点リンクも製造できます」。製造部門を統括する丸山悦雄取締役は当然のように説明する。


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更にデリカの最大の強みは大量生産によるコストダウン。2008年のタイでの会社設立、中国でも供給を開始するなど、海外での生産や部品調達にも積極的だ。部品については既に3割が海外からの調達だが、性能にはまだまだ差がある。製品の品質に直結する部品の性能を確保しつつ求められるコストダウン、いまやライバルは海外メーカーという。


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縮小する国内需要を見据えて、目指すマーケットは日本と同じ稲作文化を持ち、今後日本製のトラクタの普及が期待されるアジアの各国だ。食料増産が迫られるアジア各国では、農業の機械化がますます進むに違いない。デリカは海外での市場拡大・生産拡大にも大きく歩を進めている。

日本の農業に新しい作業機械を

農作業を省力化「マルチはぎ機」

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拡大が期待される海外市場だが、デリカは多様化する国内市場にも新しい農業用機械を提案する。その一つが「マルチはぎ機」だ。保湿・保温・雑草抑え・防虫など様々な目的で使用されているマルチフィルム=ビニールシートだが、作物の収穫後には速やかにはぎ取り回収し、圃場を整地しなければならない。
土や残さがついたマルチのはぎ取りは重労働で、農家の負担も大きい。作物や畝に合わせてマルチをはぎ取り回収できる「マルチはぎ機」は、大規模農家の増加や高齢化する農業者のニーズをとらえたもの、もちろん日本初の製品である。


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飼料米の栄養吸収率を高める「飼料米破砕機」

さらにここ数年、注目されているのは飼料用に栽培したコメを粉砕する「飼料米破砕機」だ。減反政策による休耕田や耕作放棄地で家畜の飼料として使用される米の栽培が奨励されているが、この飼料米は家畜が消化しやすい大きさに破砕しなければならない。生籾・玄米・大豆など転作作物の有効利用は日本の飼料自給率や食料自給率向上にもつながる。戸田社長は破砕した飼料米の栄養吸収率の実験データを依頼、科学的な裏付けを公表してこの飼料米破砕機の有用性を訴えていきたいと今後に期待をふくらませる。

最新の技術と設備で造る

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デリカの社屋は12000㎡あまり、本当に広い。事務スペースに続く工場のドアを開けると農業用機械の組み立てラインと、稼働中の長野県内最大級という粉体塗装設備(最大1トンの部品を粉体塗装が可能)が目に入る。更に仕切られた一画のそこここでは溶接の青い火花が休むことなく飛んでいる。「確実に溶接されていなければ作業者の安全にかかわる機械ばかり」「デリカ製品は壊れない頑丈というのが1番の特徴です」という戸田社長の言葉が実感される作業現場だ。見上げた天井にはクレーンや部品を下げたコンベアが動いている。
その奥は三点リンクの製造スペース、ここは自社開発した24時間稼働の自動搬送機付自動化ラインと、人の手による加工作業が並行して行われている。機械の間を忙しく立ち働いていた社員の緊張した表情が3時の休憩時間には笑顔に変わった。

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安全と安心の食料生産への貢献を

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合理化したいところはたくさんあっても、機械の開発が即ビジネスになるとは限らない農業分野、全く新しい製品を開発することは難しい。しかし、戸田社長は「自社で作った機械が畑で働いているのを見るのは嬉しいことです。昨年の東日本大震災でダメージを受けた東北の農業再生に協力できるような機器を提供したい」と夢を語る。
安全と安心の食料生産がますます求められる時代にあって、デリカの農業機械への需要は、東北はもちろん海外でも高まっていくに違いない。

【取材日:2012年08月02日】

企業データ

株式会社 デリカ
長野県松本市大字和田5511-11 TEL:0263-48-1184
http://www.delica-kk.co.jp/