[サイプラススペシャル]190 新たな挑戦「こびとづかん消しゴム」 より精密に より創造的に

長野県小諸市

アステック長野

大人気「こびとづかん」
なぜ?部品メーカーが「消しゴム人形」?

 「こびとづかん」という絵本をご存じだろうか?
 不思議な世界観と独特なデザインの「こびと」たちが活躍する絵本で、ぬいぐるみや玩具などのグッズも多数登場、女性やこどもたち中心にブームになっている。

 人気キャラクター「こびと」たちの消しゴム人形をつくっているのが、アステック長野。実はこの会社の本業は超精密な部品づくり…というのだが、なぜこどもむけのおもちゃをつくりはじめたのだろうか?

絵本「こびとづかん」の世界観を忠実に再現

カラフルな消しゴム人形

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 「こどもたちに大人気!」「これ!作っています」 アステック長野の上田俊治さんと清水孝典さんが手にするのは、カラフルな「こびと」の消しゴム人形。
 高さ5㎝ほど、赤ん坊のようにもオジサンのようにも見える不思議な顔をした全身タイツのキャラクターで、20年ほど前に大ブームになった「キン肉マン消しゴム」(キン消し)の現代版だ。


売行き好調!新シリーズも登場予定

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 「いちばん人気はピンクの『カクレモモジリ』。キャラクターは7種類、色も7種類、全部で49パターンあってどれが出るかわからないから、集める楽しさがある。」こども心をうまくつかんだ伊藤拓社長のアイデアだ。1箱2個入り315円、全国の雑貨店などに並んでいる。
 今春の発売以来すでに数万個売れていて「もちろん、新シリーズも登場予定ですよ」と伊藤社長。


本業は精密部品づくり

 上信越道佐久インターから車で15分ほど、長野県小諸市のアステック長野。従業員22名のこの会社、こども向けおもちゃが本業...というわけではない。
 「くれぐれも『こびとづかん消しゴム』だけって誤解されないよう、ちゃんと取材してくださいよ」と、伊藤社長が持ってきたのは、1㎜程度の極小部品だ。「私たちが作っているのはおもに、マイクロモーターの部品。ケータイの振動モーターの精密な部品です。」

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「消しゴム人形」に隠れたスゴイ技術

35年以上磨き上げた技

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 アステック長野の本業は、電子機器などに使われる精密部品づくり。しかも「超」がつく小型の部品だ。ふっと息を吹きかければ飛んでしまう大きさで、取材の最中も、床に落とし見失ってしまったほどだ。

 手にとったわずか1mmに満たない部品も、金属やプラスチックの5つの部品を組み立てて作られている。
 「専門的に言えば、金型の設計製作、精密プレス加工、精密プラスチック成型。これが本業です。」大量に金属加工を行うプレスや、プラスチック部品づくり、さらにその河口に必要な"金型"をつくる技術が得意分野のアステック長野は、ミリサイズ以下の精密な部品を作り上げる技術を創業以来35年以上、磨き上げてきた。


消しゴム人形も「プラスチック成型」

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 「もともとキャラクターやデザインに興味があった」という伊藤社長に、なぜおもちゃづくりをはじめたのか?と、今回の一番の疑問をぶつけた。
 「日本が世界に誇るアニメやマンガなどキャラクター文化に、うちが持つ精密加工の技術、その2つをつなぎ合わせることができないか?というトライアル(挑戦)です。」

 消しゴムといっても、原料は本物のゴムではない。「プラスチック字消し」の正式名の通り、原料はポリ塩化ビニルなどのプラスチックだ。消しゴム人形づくりも、言い換えればプラスチック成型に他ならない。


CADは「アニメキャラクター」が苦手!?

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 金属板を打ち抜くプレスの音が響く工場、その離れの一室で「こびと」たちがつくられていた。パソコンの画面には、人気キャラクター「カクレモモジリ」の3D画像が映しだされている。

 ゴム人形などキャラクター玩具作る場合、もとのデザインから粘土などで原型をつくり、そこから金型を作るのが一般的だ。金型づくりはCAD(キャド)と呼ばれるコンピューターの設計システムを使う。
 「イメージとちょっと違うなぁ、ということがあるでしょう。工業製品用につくられたCADは直線や曲線の組み合わせは得意ですが、3Dアニメのような高精度の立体表現が苦手なんです」

「精密」を極め、「創造性」を磨く

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3DCGを「金型づくり」に活用

 「こびとづかん消しゴム人形」のすごいところ。それは、アニメやゲームなどの世界では一般的な3DCGを、直接「金型づくり」に活用している点だ。
 3DCGデータをもとに工作機械をうごかすシステムを開発し、有機的なカタチまで表現できるようになった。
 笑っているような、それでいてムスッとしているようにもみえる「こびとづかん」のキャラクターたちの細かな表情も、忠実に再現できる。


3DCGでひろがる「ものづくりの可能性」

「3DCGをベースに、すぐれた精密加工の技術をトッピングできれば、可能性が広がる」と、伊藤社長。「例えば歯型や人工関節などの医療や、きらびやかな宝飾・ジュエリーの世界。こういうところにもものづくりの技がいかせる。」

 「『ものづくり』も『キャラクター』も日本が世界にほこる文化。この二つが一緒になればぜったいに世界に負けるはずがない」と、伊藤社長。
 「精密」なものづくりと、3Dデザインを結び付ける「創造性」。アステック長野は新たな分野に挑戦を続ける。

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【取材日:2012年09月03日】

企業データ

株式会社アステック
長野工場 長野県小諸市和田西裏631 TEL:0267‐23‐4646
http://www.astec-japan.com/