[サイプラススペシャル]211 話題のカーボン材料を顕微鏡で解析! 国立長野高専のものづくり

長野県長野市

国立長野高専 電子情報工学科教授 押田京一

画像解析で素材の真実に迫る
理系女子=リケジョの大活躍!

 「顕微鏡で解析!新しい素材を開発します!」国立長野高専のスゴイものづくり。今回は、電子情報工学科・押田京一先生のナノテクノロジー研究です。
 取材におとずれた研究室でまず驚いたのは、女子の多さでした。今年卒業の5年生4人のうち、2人が女性。「男子ばかりの高専…」という印象とは全く異なります。勉強に学校生活に、全力で打ち込む理系女子=リケジョの姿と、素材の真実につ迫る「画像解析」についてご紹介します。

理系女子、最先端研究に打ち込む

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話題「カーボンナノチューブ」を解析

 「私はカーボンナノチューブの研究をしています。この研究はより高性能な燃料電池の開発につながります。」
 電子情報工学科5年西入真央さん。カーボンナノチューブは、今、話題の新素材です。鋼鉄の数十倍の強さを持ち、いくら曲げても折れないほどしなやかで、薬品や高熱にも耐え、銀よりも電気を、ダイヤモンドよりも熱をよく伝える。コンピューターを今より数百倍高性能にし、エネルギー問題を解決する可能性まで秘めている...「世界を変える」とまで言われる、夢の素材です。

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 「カーボンナノチューブにプラチナの粒を付着させることで、燃料電池の性能アップにつながるんです」と説明する西入さん。パソコン画面には、半透明の棒状の物質の上に、丸い粒がいくつもついているモノクロ画像が映し出されていました。「白黒を反転させたりいろいろ画像を変えることで、きちんとプラチナの粒が付いてるかを調べることができるようになるんです。」


「効率的に、正しく」結晶組織を評価

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 押田先生の研究テーマのひとつがカーボンです。
 カーボンとは炭素のこと。世の中で一番固いダイヤモンドも炭素ですし、ボロボロ崩れる鉛筆の芯も炭素です。ダイヤモンドは電気を通さないけれど、飛行機の機体やテニスのラケットなどにも使われている炭素繊維(カーボンファイバー)は軽くて強く、電気を通します。実はこの炭素という材料は、組織の構造によってまったく違った性質になるのです。
 無限の可能性を持つ材料、炭素。カーボンファイバーは、結晶の並び方が変われば性能が大き変わります。ナノレベルで構造をしっかり見極めることができれば、新素材の開発につながる!というわけです。
 「私の研究は、顕微鏡を利用した炭素材料の組織構造の解析。顕微鏡写真を画像処理することで『効率的に、正しく』結晶組織を評価することに挑戦しています。」押田先生は、実際の顕微鏡とコンピューター処理を組みあわせた画像処理の技術を追求することで、材料の真実に迫ろうとしているのです。

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材料の真実を「解析」で解き明かす

 信州大学工学部の出身の押田京一先生は、大学院卒業後の1983年から東京芝浦電気(東芝)でハードウェアの設計や開発に携わっていました。1990年から国立長野高専で研究者の道を歩みはじめ、現在の職場である電子情報工学科で画像処理の応用や、炭素材料の電子機能性、組織・構造解析などを研究しています。
 エンジニアから研究者に転身した理由は、「材料の持つ可能性や原子レベルの研究に魅せられたから」とのこと。「科学技術を飛躍的に発展させるブレークスルー(技術革新)は、材料が握っていると思うんです。」押田先生の研究をひとことで表すと、「材料の真実を『解析』で解き明かすこと」です。

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就職も、進学も、長野高専の魅力!

求人倍率19.2倍!!

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 国立長野高専は、長野県唯一の高等専門学校。中学卒業後に入学する学校ですが、大学や短大などと同じ「高等専門機関」です。中学を卒業してすぐにこんなに難しい研究ができるの?と不安になるかもしれませんが、ご安心ください。高校の授業内容を含みながら、5年間通して勉強できる環境を活かし大学にも負けない専門知識を身につけることができるといいます。
 専門分野にじっくり取り組むことができる環境で高い技術や知識を身につけ、しかも「やる気」を兼ねそろえた高専卒業生は、企業では即戦力としての活躍が期待され、引く手あまたの人材となっています。就職難が叫ばれる不況下において、就職内定率(各年度末)はほぼ100%、求人倍率(2012年10月現在)はなんと19.2倍!!!就職希望の卒業生1人に対し、およそ20社から求人がきている計算です。
 「企業さんから依頼を受けて解析のお手伝いをしています。自分が作ったプログラムによって、いい結果が出たよという報告を聞けることが、自分にとって一番うれしいです」と電子情報工学科5年の小林大介さんが言うように、企業との共同研究も多く進めています。民間企業からの高い評価であると同時に、学生たちにとってもスキルアップのチャンスとなっているようです。


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有名大学への編入!!

 もうひとり、卒業を間近に控えたリケジョをご紹介しましょう。
 「私は画像処理の研究をしているのですが、来年度からは大学に編入して、さらに研究を続けたい。」電子情報工学科5年渋谷みさきさんは、この春、お茶の水大学3年への編入が決まっています。
 長野高専では、受験勉強に追われることなく自分の将来をじっくりと見据えた学習や研究に取り組むことができます。また、長野高専から大学3年への編入を希望する場合、センター試験受験時とは違い、自分の希望する大学をいくつでも併願することが可能なので合格のチャンスも高まります。
 渋谷さんが調べているのは企業から持ち込まれた試料です。「組織の立体構造を3D化します。素材を薄くスライスして何枚もの顕微鏡画像をあつめ、それを組み合わせています。」今は松本からの遠距離通学ですが、3月には引っ越し東京でのキャンパスライフがはじまります。

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新しい素材を開発!!

 「材料を研究して新しい素材を開発し、世の中の役に立つことが私の夢です」と、押田先生。量産化される新素材を、画像処理によってより正しく、より効率的に評価することを目指しています。「いま開発している評価手法が材料の生産現場で活躍するようになるとうれしいですね。」技術革新の基礎となる、材料の構造解析。押田先生の研究は続きます。

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【取材日:2013年02月06日】

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