[サイプラススペシャル]228 半世紀にわたり製本一筋に歩む 「開いたまま閉じない本」を開発

長野県長野市

渋谷文泉閣

渋谷文泉閣は、大正時代に活版印刷会社として東京で創業。昭和34年に長野市で製本会社として現在の社名で再興し、今日に至っている。開いても閉じない本「クータ・バインディング」という画期的な製本技術を開発したことでも知られている。「上製本」と呼ばれるハードカバー製本を得意としていて、ひとつひとつ手作りのものから機械による量産のものまで、一貫して自社工場でおこなう体制を整えている。

取材後記

「本づくり」へのこだわりを持つ企業

bunsenkaku03.jpg

「丈夫で見易く美しい本を作ることが、当社のモットーです。」と語るのは、社長の渋谷鎮氏。半世紀以上に渡って製本一筋に歩み、印刷から製本・発送に至るまで全ての工程を自社で一貫して手掛けるシステムを備えている。この渋谷文泉閣が一躍注目されるようになったきっかけが、開いても閉じない本「クータ・バインディング」の開発だ。

体の不自由な知人のために開発

クータ・バインディングを開発したのは、渋谷社長の父で現在最高技術顧問の渋谷一男氏。平成19年には「現代の名工」にも選ばれ、信州ものづくりマイスターにも認定されている本づくりのスペシャリストだ。開発を思い立った理由は、体にハンデのある知人を見て「手で押さえなくても閉じない本があれば」と感じたからだという。日本・韓国・台湾の3ヶ国で特許も取得していて、製本のユニバーサルデザインとして注目されている。

bunsenkaku04.jpg

閉じない秘密は「本の背に貼る筒状の紙」

開発の過程で最も苦労したことが、「開きやすい」ことと「丈夫である」という相反する要素を両立させること。これを実現させるために、まず、接着剤探しからスタートした。既存の製本用の接着剤ではうまくいかず、辿り着いたのが、自動車などの内装用の接着剤。これを製本用に流用し、「クータ」と呼ばれる筒状の紙を貼る事によって、立体的に開く「クータ・バインディング」の開発に成功した。発想から約5年の歳月をかけて開発したこの技術は、現在3台の専用機によって大量生産を実現している。

bunsenkaku05.jpg

全ての製本工程を自社工場で

渋谷文泉閣は本社のある三輪と柳原の2ヶ所に工場を持ち、ハードカバーと呼ばれる上製本とソフトカバーと呼ばれる並製本のどちらのカテゴリーも製造している。最新鋭の設備を導入していて、ハードカバーは1日3万冊、ソフトカバーは1日20万冊の生産が可能だ。自社一貫生産によって高品質の製品を短期間で納められるため、専門書や参考書などジャンルを問わず全国から注文が来るという。

bunsenkaku06.jpg

電子書籍にはない風合いを大切に

近年はパソコンやタブレットで読む電子書籍の普及によって、紙による製本は減少傾向にある。しかし渋谷社長は、「デジタル時代だからこそ、紙の本の良さが際立つはず。それを追究していきたい。」と今後への抱負を語る。機械による製本が大半を占める現在でも、手作りの製本を手掛けられる職人を雇用し技術の継承もおこなっているという渋谷文泉閣。新たな製本の可能性を切り拓く一方で、質の高い本づくりへのこだわりを持ち続けている。

bunsenkaku07.jpg

【取材日:2013年6月10日】

企業データ

株式会社渋谷文泉閣
長野県長野市三輪荒屋1196-7 TEL:026-244-7185
http://www.bunsenkaku.co.jp/