[コラム]ものづくりの視点

vol.9デジタルとアナログ
信州大学工学部教授、信州大学地域共同研究(CRC)センター長(工学博士)
三浦 義正

デジタルの時代だからこそ、アナログ技術の研究を。

 初めて登場させていただきます。筆者は現在、信州大学工学部に奉職しておりますが、2003年までの30年間、企業の研究開発に従事しておりましたので、一般の技術者の方々と殆ど変わらない経歴です。現在は、教師の末端も汚しておりますが、地域共同研究センターという部署で、大学と地域の連携や企業との共同研究推進等を盛んにして、信州地域の活性化に少しでもお役に立てるよう、スタッフ共々県内を走り回る毎日です。

 デジタルという言葉を一般の方も耳にされるようになったこの頃ですが、既に我々は、パソコンは勿論のこと、デジカメ、CD、アイポッド等の携帯音楽機器、等多くのデジタル機器に囲まれています。昨今、テレビではアナログ放送が無くなります、と宣伝に懸命ですね。何故デジタルなのでしょうか。

 デジタルに対比する言葉としてはアナログがあります。アナログは連続的に変化する量のことですが、エレクトロニクスでは音声など連続的に変化する電波や電流、音波などのことを指します。従来のLPレコード等は、音の振動を忠実にレコードの溝に傷をつけて、その振動から音楽などを再生する仕組みでした。ところが、50年ほど前に、シャノンという学者が、少なくとも信号の最大周波数の2倍の周波数で部分的に信号をサンプリングするだけで、品質を落とすことなく忠実に元の信号を復元できることを示しました。これがデジタル技術の始まりです。

 そのため、音声や映像までもが1と0というコンピュータでおなじみのデジタル信号で作ることができるようになりました。携帯電話やテレビは、限られた電波帯域の中で、アナログ情報に比べて何倍も多くの情報(チャンネル)送ることができるようになります。これが大きな電波帯域を要するテレビのデジタル化の主な目的です。

 

ところで、デジタル技術は、こんなことを言うと専門の方に叱られそうですが、それ程難しい学問・技術ではありません。デジタル技術は何回コピーしても情報が劣化しませんので、コピープロテクション等の問題も発生します。また、装置もまねされ易い技術でもあります。

世の中はデジタル化一辺倒で、大学教育もそのような方向で、アナログ技術を教えることができる教師も減っています。しかしながら、様々な情報の元もとの信号はアナログ的であることが普通です。先端技術分野では、微弱なアナログ信号からデジタル信号に変換するところが要の技術になっています。この部分はノーハウが多く、すぐには真似ができない技術です。

どのような産業技術でも同様ですが、時代の要請だからと、先端技術だけを追い求めると、気がついたら根幹の技術者が居なかった、という事態も招きかねません。デジタル技術は素晴らしく、益々発展させなければなりませんが、アナログ技術の研究や教育もまた大事にしなければなりません。

 

 

【掲載日:2008年10月20日】

三浦 義正

信州大学工学部教授、信州大学地域共同研究(CRC)センター長(工学博士)
昭和19年生まれ。富士通(株)において研究室長、研究部長、ストレージ事業本部技師長等を経て、平成15年より信州大学工学部教授。平成17年よりCRCー長として地域連携、産学官連携推進に従事。専門分野は磁気記録技術、HDD等情報記憶装置技術。