[コラム]ものづくりの視点

vol.34ITが進める完全市場化
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

身をもって知る、ネットの威力

 「大きな口が開いていますよ」と、先日、掛かり付けの耳鼻科の先生に診ていただいたところ言われ、一安心しました。
 私は、術後膿胞という膿の溜まる袋が鼻にできる蓄膿症で、数年置きに、この袋が膿み強烈な痛みを伴って顔面を腫らします。若いころこの袋に口を開ける手術を2回しました。昨年12月にまたこの病状が出たため、今年3月にこの先生の紹介により篠ノ井総合病院で手術を受けました。今回の診察は、術後の状況を診ていただくためで、紹介元の先生に診ていただき手術が成功したことを再確認しました。
 以前の手術は、鼻の骨を削るため、大変な痛みを伴う手術でした。そのため、今回、するかしないか大変迷いました。周囲の者は、皆やったほうが良いとの意見、しかし、若いころの大変痛い手術が思い出され、迷いに迷いました。

 その時、ネットで、検索しました。すると鼻の手術を日帰りで専門にする医院、手術数を公表している病院、病状の進行状況を細かく説明しているサイト、また、患者からも、恐怖のガーゼ抜き、失敗した事例、対応の良かった病院・・・等お医者さん側、患者側の状況が詳細に把握でき、その膨大な情報量に圧倒されました。日ごろ各種の情報はネットで見ていますが、切実感もなかったのであまり感じませんでした。今回は、私自身、強烈な痛みを伴う手術なので、必死になって情報を探しました。その結果、決心がつき、安心して手術を受けることができました。

 「情報の非対称性」とよく言われます。専門家と一市民、例えば、お医者さんと一市民、弁護士さんと一市民・・等それぞれ、知識と経験による情報量には圧倒的な格差があります。何か問題が起きれば、専門家がより多くの責任を問われます。このような状況を「情報の非対称性」といっています。今回、この非対称性を、ネットの検索によりかなり埋めることができたと思いました。

 一方、売り手と買い手、供給側と需要側それぞれが完全に情報を把握できていて、対等の立場に立てるような市場のことを「完全市場」といいますが、ネットが、それに近い状況を作り出し、情報の非対称性を埋め、より「完全市場」に近づけているといえましょう。

 今回、お医者さんの高度な技術により、懸念した痛みが驚くほど無く終わりました。医学の進歩とIT化を身をもって体験し、技術の進歩を痛感しました。

【掲載日:2009年7月13日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/