[コラム]ものづくりの視点

vol.49参入障壁と退出障壁
山岸 國耿

 先日、仲間達と懇親会をしました。その席で、O君と話が弾みました。O君は、30歳代で土木業を開業し、最盛期には仕事が充分あり、県知事さんと同じくらいの給与を取っていたとのこと、しかし、冬季オリンピック以降、公共事業等が減少し仕事がなくなってきた。その時銀行の支店長から「事業を止めるなら今ですよ」との忠告を受け、そこで廃業する決心をした。おかげで、借金が残ったもののキズは浅くてすんだ。しかし「仲間の企業の中には、借金が多くなって、止めるに止められず結局倒産に追い込まれ、周囲に迷惑をかけたものもいた。直接の原因は、多額な借金をしたことだ。安い金利の制度資金等を安易に借り、廃業する時期を逃してしまった。」とのこと、私の仕事上の経験からも、よくみられるケースです。

 私共がよく使っている言葉に、"参入障壁"があります。起業家が、新規に新しい業種や業態に参入する場合に直面する、各種の規制や資格制度、同業組合の制度上の妨害など新規参入を阻止しようとする、必要以上の壁のことを指しています。新規に参入しようとする時に、大変なエネルギーを使う場合を言います。大分改善されてきましたが、国等の行政機関に関係する業種や内需系の業種に多いと言われ、我々の周囲でも見うけられます。

 その裏表にあるのが、あまり話題となりませんが、"退出障壁"という言葉です。以前にも申し上げましたが、企業が、真空管から半導体へ、木からプラスチックへなどのように産業の新陳代謝にあわせ、古い役割の終わった産業から、新しい成長産業に移ることが、新たな雇用を生み出し、経済社会の発展にとって大変必要なことです。その際企業が、他からの過剰な資金の提供や各種の守られている規制制度、互いに助け合っている同業組合、古くからある商習慣・地域慣行などに縛られて、退出すべき時期なのにむしろ退出の時期を逃してしまい、倒産などに至り従業員や地域に大きな迷惑をかけてしまう。このような、容易に退出できない、させない制度や商習慣等のことを、退出障壁と言っています。

 植物に水や肥料を与えすぎれば、枯れてしまいます。企業に対しても同様な見方ができる場合が有り、過剰な保護は、成長する強い企業を創る上でむしろ阻害要因になります。国内はもとより海外の企業との厳しい競争状態におかれている企業にとって、良好過ぎる企業環境は、むしろ過保護となり弱体化を招くこともあります。
 関係者は、このことをより念頭に置くべきではないでしょうか。
 又当然企業経営者には、現状を的確に見据えて、今まで以上に果敢に新規事業に挑戦し、リスクをとっていくマインドが期待されています。

【掲載日:2010年5月 5日】

山岸 國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任