[コラム]ものづくりの視点

vol.53『ものづくり長野』をアジア市場へ
財団法人長野県テクノ財団 事務局長
林 宏行

 8月4日水曜日放送のSBC「ラジオ県民室」で、長野県の「ものづくり産業」をアジア圏に展開していく県の支援策について、(財)長野県テクノ財団 事務局長 林宏行氏にお話を伺いました。アジアを「ホームグラウンド」にして共に成長していくという内容でした。
Sai+の読者にもぜひご覧いただきたく、採録致しました。

AN: 県内製造業のアジアへの進出を支援するということですが、これまで、海外での展開が少なかったということなのでしょうか?
林氏 ―
長野県からは、既に1千社に及ぶ事業所が海外へ進出していますが、その76%がアジアで事業展開しています。また、輸出割合を見ましても、近年までは全国平均を上回る水準で推移してきましたし、世界的な経済不況の煽りをうけた現在でも、出荷額のおよそ4分の1もが輸出向けとなっています。

AN: これまでも海外への展開はしていますが、さらに力を入れるということですね?既に、私たちが日常使う物のほとんどが中国製だったり、アジアの国々で作られているというイメージがあって、競争も厳しいようにも思うのですが?
林氏 ―
技術水準の向上や、経済活動のマインドの高まりによってアジアは今、「世界の工場」という位置づけから「世界の市場」へと変貌しつつあるんです。確かに競争は激しくなっていますが、本県製造業の得意なスーパーデバイス(超精密小型部品)やスマートデバイス(超高機能部品)といわれる部品を組み合わせたユニット、或いは環境改善に役立つ機械類、工場の生産ラインで使われるマザーマシーンなどは、付加価値も高く、市場での競争力を十分に持つものだと受け止めています。

AN: 成長いちじるしいアジアの「市場」に対して、具体的には、どのようなアプローチをされるのですか?
林氏 ―
長野県は、世界をリードする「信頼性」ある技術力の確立を目指して「スグレモノプロジェクト」を展開していますが、その戦略の中の一つが、今回の「アジア圏市場開拓支援」です。具体的には、今年の秋にマレーシア、タイで開催される大規模な展示会に長野県コーナーを設けます。出展の募集は締め切りましたが、展示会に必要な展示費用などはテクノ財団が負担するため、その分、企業の方には大いにPRをしていただけると思っています。

AN: いわゆる商談会というものですね、企業の皆さんは、これまでもいろいろな商談会をやってきているんでしょうから、それほど抵抗はないかもしれませんが、もし初めて出展するという企業があれば、うまくいくかな?と心配にもなりますね。
林氏 ―
アジアは、大きな可能性を秘めた、魅力的なマーケット(市場)であると同時に、世界中の企業がしのぎを削る激戦区でもあります。今回は、初めての企業さんでも安心して出展できるよう、当財団内に、海外展開支援プロデューサー、マネージャーなどの専門職員を配置しました。さらには県の海外駐在員の方やジェトロの皆さんとも連携してサポートさせていただく予定です。

AN: 中国・アジアは「工場」から「市場」に変わりつつあるということですから、他の分野の産業が進出する余地もたくさんあるのではないでしょうか?
林氏 ―
成長するアジア市場の裾野は広大ですから、他の分野においても十分可能性があると思います。食品、住宅、小売、サービス業など、これまでアジア市場への展開が難しかった分野にも需要が期待されています。
今回の出展は、その足掛かりではありますが、それぞれの企業の進出をサポートすることによって、世界市場で活躍する"信州のスグレモノ"が増えていってほしいと思っています。

AN: アジア市場をターゲットした戦略に大切なことはありますか?
林氏 ―
そうですね、日本は、同じ東洋の国として価値観や文化を共有している部分もあります。負けない「競争戦略」も大切ですが、アジアを「ホームグラウンド」として共に成長する「共生経営」という意識が、ひいては国内産業の発展にもつながるのではないかと感じています。

AN:最後に、テクノ財団について、お話下さい。
林氏 ―
はい、県内の2000を超える企業、自治体の皆様の出資でスタートしたテクノ財団も25年を迎えました。企業経営に役立つ各種セミナーや産学官連携による研究開発なども実施しておりますので、是非ご活用いただきたいと思っております。

【掲載日:2010年8月 9日】

林 宏行

財団法人長野県テクノ財団 事務局長
1963年下伊那郡喬木村生まれ。長野県商工部振興課、総務部地方課、市町村TL(課長)、下伊那地方事務所地域政策課長などを経て、2010年4月から現職。http://www.tech.or.jp/