vol.56 | 国際経営力の向上を | 山岸國耿 |
県内で機械部品を作っている会社の社長さんと、話をする機会がありました。この会社は、以前から中国に小規模ながら工場を持ち、着実な実績を上げています。社長曰く「わが社は、いわゆるハイテク技術ではなく、古いローテクだが、中国ではこの技術で小規模ながら我社規模では充分市場がある。中国人社員のやる気を引き出し、現地に向いた管理をしている。柔軟な発想で現地に合った経営をすれば、どこでも企業経営は同じことですよ、会社をやっていけますよ。」とのこと。海外に進出する企業が大企業やハイテク企業ばかりでなく、このような身近な小規模企業でも海外で成功していることに大変感銘を受けました。
今まで、県内企業からは、中国に工場を出しても、収益を上げて軌道に乗せている会社は少ないと言われ、撤退事例(フェードアウト)が多く、海外ビジネスは難しいとの声が多く聞かれました。
しかし、近年円高や仕事量の減少などによる厳しい経済環境の中で、大手企業のみならず中小企業においても、海外企業との取引や海外への工場進出も重要な課題となってきています。特に、中国を始めとする東アジア諸国の経済規模は急速に拡大しつつ有り、大きな商機が期待されています。
先日の報道によると、楽天やユニクロでは、社内の公用語を英語にするとのことですし、日本電産では、課長以上には1ヶ国語、部長以上には2ヶ国語の外国語の習得を昇進条件とする・・とのこと、又、国内の有力企業660社の資産状況をみると、海外資産の比率が3分の1を上回るなど、企業の国際化や対外進出が急速に進んできています。
海外展開には、海外企業と取引したり、現地に営業所を設けたり、生産工場を開設するなどいろいろな形態がありますが、企業においては、その事業実態に応じて、積極的に検討することが必要な状況になってきています。
海外との取引等では、法律も税制も商習慣も異なり国内とはまったく違った環境に直面します。その中で"人、もの、金"を動かし、企業経営を成長軌道に乗せていく為には、大変大きな努力を必要としています。国内と同様に海外においても勝ち続けて強い企業となる総合的な力のことを、"国際経営力"と言っていますが、初めての企業にとって、情報の収集や人材育成等を通じ一歩一歩アップしていくことが必要といえましょう。
先日の日本経済新聞に掲載された同志社大学の林教授によりますと、「実は、よく言われるように企業の対外進出は、国内産業の空洞化をもたらす・・・のでは無く、実態は対外進出と同時に国内も活性化し雇用が増大している。国内経済を活性化するためには、グローバル競争の導入に勝る方策はない・・・」とのことです。よく「スポーツ選手が、地区大会を目指していたのでは強くならない、やはりオリンピックを目指すからこそ強くなる・・・」と言われますが、このことは、一面企業活動にも通ずるのではないでしょうか。
企業は、このような経済環境に対応し、それぞれの実態に応じてグローバルな視点に立って国際経営力を向上させ、リスクを取って更なる成長に挑戦する積極的果敢な事業展開が期待されていると言えましょう。
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任