[コラム]ものづくりの視点

vol.58たまたまうまくいく
長野県テクノ財団ナノテク・材料活用支援センター長
若林信一

 もの作りの中で「たまたまうまくいっている」ということはあまりない。しかし全くないわけではない。たまにはある。そしてあるとき偶然"うまく"の中身を知り、その危うさにぞっとしたりもする。

 かつて製造現場にいた時、「はんだの濡れが悪い」というクレームをもらったことがあった。当時、我々の表面清浄度の分析仕様は国際的に受け入れられていたし、超純水洗浄による清浄度には絶対の自信を持っていた。そこで、他社品の"濡れ性"を分析したら、塩化物イオンが大量に検出された。つまり、不純物で表面が汚れた製品であったものの、残留していた塩化物イオンがフラックス(松脂など、はんだの濡れを助ける溶剤)の役目もしたため、はんだ付け性については「結果オーライ」になっていたということだった。こうした汚れは、製品の欠陥につながるので当然ながらない方が良い。そして、事実関係を顧客に説明したところ、以後同様のクレームは全くこなくなった。

 他にも、真空管の排気が不十分だったにもかかわらず、「結果オーライ」として生産を続けていたという例がある。新任の技術者がその技術的欠陥を指摘したところ、現場の技術者から強烈な反感を買ってしまった、という話があった。
 実際の仕様に問題点や欠陥があるにもかかわらず「結果オーライ」であることをいいことに技術者のメンツが、それに目をつむってしまうことがあるのだ。製造の現場では、こうしたことが起こることも念頭におき、科学的な解析や研究を惜しまず、「ものづくり」の精度を上げていってほしいものである。

 もの作りの現場では、「たまたまうまくいっている」こともあるのだ。

※用語解説「はんだ付け性」
電子部品や素子を結合させる際にキーポイントとなるものに「はんだ付け性」がある。はんだ付けのしやすさを意味する技術用語だが、はんだの材料への濡れやすさ(濡れ性)や接合強度、固化したはんだ表面の肌のきれいさなど、物理的には多様な特性をひとまとめにしている。

【掲載日:2010年9月27日】

若林信一

長野県テクノ財団ナノテク・材料活用支援センター長
1949年長野県生れ 新光電気工業(株)にて取締役開発統括部長、韓国新光マイクロエレクトロニクス社長などを歴任。2009年5月から現職。
http://www.tech.or.jp/