[コラム]ものづくりの視点

vol.60引張り政策と押上げ政策
山岸國耿

 最近、新聞などに国が策定した「新成長戦略」に関連した記事がよく掲載されています。今朝も経済団体の幹部が、「この施策を前倒しで早く実施してほしい。」と政府に対して要望したなどの記事が載っていました。国が、環境・エネルギーや医療・介護などの7つの戦略分野を集中して支援し、世界有数の産業に育てようとする政策です。
 長野県でも、長野県における科学技術の創出と今後の振興施策について「長野県科学技術産業振興指針」として策定し、いろいろな事業を実施しています。
 このような、行政機関が将来の産業の振興方向を示し、国家的見地から産業を先導・引張っていく政策のことを、"引張り政策(プルポリシー)"と言っています。

 一方、経済環境が極度に悪化した時など、資金繰りに苦しむ中小企業等の借入金について、国がその返済を保証する特別保証制度や、大型店等の出店によって経営の悪化が予想される商店街を支援するため、大型店の出店を規制する大店法・・・などによって、中小企業等を救済、支援しています。
 このような、行政機関が弱い立場の企業を支え、押上げる政策のことを"押上げ政策(プッシュポリシー)"と称しています。

 このような各種政策は、経済対策として大変重要ですが、一面次のような問題点も指摘されています。
 引張り政策の場合は、その狙いが理想的に描かれていますが、具体的施策になると多方面への配慮や要望等からか、総花的、ばら撒きになるきらいがあります。時期を逸せずに、逐次投入でない一点集中的な施策が求められているといえましょう。
 押上げ政策の場合は、産業の新陳代謝を図る上ですでに役割を終えた産業等に多額に助成したり、各種支援が過保護となってかえって企業自身のキズを深くしてしまうこともあります。

 行政当局は、産業政策を検討される時、上記のような負の側面にも留意され、現在のように経済の低迷が長期に続く時、時宜に適した成果の上がる政策を活発に実施されればと思います。

【掲載日:2010年10月 7日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任