[コラム]ものづくりの視点

vol.67「不良が出るから利益が出る」というパラドックス
長野県テクノ財団ナノテク・材料活用支援センター長
若林信一

 今年の信州の1等米の比率は95.7%、全国トップだった。農林水産省が発表した2010年産の新米の検査結果(9月末時点)によるものだが、最も品質の高い「1等米」の比率は、前年同期比で2.9ポイント低下したものの全国平均64.4%を31.3ポイントも上回った。標高が高い気象条件などが幸いし、猛暑の影響は比較的少なかったとみられている。

 製造業においても品質や不良が気にならない会社はない。どこも必死で不良率を下げる努力をしている。しかし、不良率を下げるためには、工程や材料、管理方法などにおいて明確な「改善」が必要となる。完成されたと信じている工程でいくら努力しても、その工程の能力が抱える一定割合の不良を作り続けることになる。
 反面、DRAM(コンピュータなどに使用される半導体メモリの一種)などボリュームゾーンの製品には、高い歩留まりで製造できる完成された装置がある。こうした製造装置の多くは、日本が相当のノウハウを注入して作り上げたものだが、これを導入しているのが韓国や台湾だ。完成装置を購入することで一瞬に、「高い歩留まり」と「品質」を安いコストで両立させてしまう。そしてこれが、ボリュームゾーンにおける日本の世界シェア低下の背景ともいわれている。
 では、日本の製造業は何で食べていけばよいのだろうか。
 今、仮に、不良率が7%にも上る製品(総売り上げ100億円)があるとしよう。経営者の感覚からすれば、これを0%にすれば、黙って7億円が利益として跳ね返ってくると思うだろうが、現実的には、不良を全くなくすという画期的な「改善」は難しい。むしろ、不良がでるようなものだからこそ、逆に利益が出せると考えるべきではないだろうか。
 ボリュームゾーンを失いつつある今の日本に注文がくるのは、材料、工程、装置が完成されていない、モノ作りの難しい商品が多い。当然ながら、不良も出やすい。しかし、うまくいけば創業者的な高利益と市場制覇も狙うことが出来るかもしれない。
 そしてここに、「不良が出るから利益が出るというパラドックス」があらわれるのだ。
 これをどう捉え、どう行動するかは今後の日本の競争力を考える上で、大きな意味があるが、知的財産と技術力の維持、展開が生命線であることは言うまでもないだろう。

 さて、処は、関西国際空港KIXエアサイドアベニュー。「今、一番売れているものは『炊飯器』なんです。」免税店が建ち並ぶこの一角で、予想外にも人気があるのは炊飯器なのだそうだ。中国人観光客が、奪い合うように買っていく、1日に65個売れることもあったという。今、日本のブランド米が中国で人気を呼んでいるが、地域に根差した、まねのできない、感性と技術が集約されている日本米には、それを熟知した炊飯器が合うのかもしれない。世界一美味い米は、世界一作るのが難しいから売れるのだ。

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【掲載日:2010年11月19日】

若林信一

長野県テクノ財団ナノテク・材料活用支援センター長
1949年長野県生れ 新光電気工業㈱にて取締役開発統括部長、韓国新光マイクロエレクトロニクス社長などを歴任。2009年5月から現職。
http://www.tech.or.jp/