[コラム]ものづくりの視点

vol.79何か儲かる商売はありませんかね・・・
山岸國耿

商機は成長分野の周辺にあり

 以前、仕事で企業を訪問した際、「何か儲かる商売はありませんかね」とよく質問されました。先日もある東信地区の電機会社の社長さんから、「新商品を出しても、すぐに他社と競合し商品のライフサイクルが終わってしまう。従業員を多数抱えて大変ですよ。いい仕事がありませんか」とのお話がありました。
 企業では、競争が激化し収益性が益々低下する成熟した事業分野(ドメイン)から撤退し、時代の変化に合わせた新しい成長分野に進出することが課題となっています。これらの動きを産業全体でとらえますと、「産業構造の転換」とか、「産業の新陳代謝」と言っています。よく「企業経営は、変化への対応」と言われていますが、個々の企業にとって、収益性のある新しい分野に不断に挑戦していくことは、大変重要なことといえましょう。

 振り返って、県内で成長した産業の状況をみますと、
 例えば、戦後大きく伸びた産業に自動車産業があります。しかし、県内には自動車そのものを生産する工場はありませんが、その部品を生産する企業が多数あり大きく規模を伸ばしました。ガソリンスタンドも最近では撤退も多くみられますが、一時期多数立地し、大きく伸びました。加えて、自動車の販売店、修理工場、車検などの検査工場、自動車の廃棄物処理業者などと、長野県では、自動車の製造そのものよりも、その周辺の業種が大きく伸び主力産業となりました。

 また住宅産業も大きく伸びた一つです。住宅を建築する大工さんや左官屋、住宅建築会社のみでなく、材木店、建材店、植木屋、家具屋、住宅解体業者、そして住宅産業が伸びればそれにつれて伸びるといわれる本屋や墓石店等、住宅産業の成長とともに周辺の業種も伸び、大きな裾野を持った一大産業を形成しました。

 このように、必ずしも自動車や住宅そのものを造るのではなくても、中核となる成長産業の周辺の分野、すなわち 成長分野の製品の販売やその製品の部品の製造、その製品の検査や試験、その製品の材料、その製品の修理、その製品の廃棄物の処理、その製品の製造機械の開発等、周辺に新しい成長分野があります。

 例えば、圧力計器のメーカが「測る」というコンセプトのもとに、自動車のエンジンのセンサや医療機器等の成長分野に進出したり、製造機器を造る企業が自動車部品製造用の専用機を開発したりと、従来から保持している固有技術を活用して、その時代時代の成長分野にタイムリーに進出し成功している事例が多数見られます。すなわち、「成長産業に乗る」と言いましょうか。

 これからの成長分野として、エネルギー・環境、医療、航空・宇宙、新素材、情報等がよくあげられています。さらに加えて、アジアなど成長する地域への進出もビジネスチャンスの一つとなってきています。

 しかし、新しい成長分野といっても当然簡単に見つかるものでもなく、慎重な検討が必要です。進出には大変大きなリスクを伴いますので、企業として重大な岐路に立つことでもあります。

 それぞれの企業では、自社の持つ技術と市場とを的確に把握しつつ、その発展方向を見定め、厳しい競争に勝ち抜く組織づくりを進めるなどして、商機を逸することのない決断と行動が必要といえましょう。

【掲載日:2011年3月22日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任。