[コラム]ものづくりの視点

vol.82光陰如矢(こういんやのごとし)
財団法人長野県テクノ財団 事務局長
林 宏行

 2月10日、フランス・ブザンソンにおける最後のプレゼンテーションが始まった。初日とは異なり、会場となった医療部品メーカー「Crystal Device社」の一室は、和らいだ雰囲気に包まれていた。
 スクリーンに映し出されていたのは、フランスに農場を持ち、ヨーロッパ各地のワインも輸入販売する野村ユニソン㈱の「もうひとつのモノづくり」だった。
 生産革新課長の野村高城(のむらたかき)さんは、精密素材からロボット、医療関連まで幅広く手掛ける同社の事業を紹介した後で、フランスの自然の恵みに敬意をはらうように柔らかな物腰で語りかけていた。
 親善友好を兼ねた国際交流事業とはいえ、技術や製品を一途(いちず)に紹介したのでは、迎える側も容易には受け入れてくれない。互いの風(風土・風習・風味)を感じ、尊び合うことが何よりも大切なことを、若い野村さんから教えられたような気がする。

 出席者の多くが医療関連でもあったことから、プレゼン画面を指すポインターは、放射線治療機器の製造販売を一貫して行っているエンジニアリング・システム㈱代表取締役の柳沢真澄(やなぎさわますみ)さん、そして、多機能デスクトップ型プラットフォームの開発で「ものづくり日本大賞優秀賞」を受賞した高嶋産業㈱開発部の佐藤尊史(さとうたかし)さんと栗林かおるさんへと手渡されていった。通訳をはさまず、ジェスチャーを交えながら自分の言葉で伝えようとするプレゼンに、出席者の関心もおのずから高まり、スクリーンが変わるたびに質問も飛び出した。

 別れ際、最後の街「アヌシー」(Annecy/オート=サヴォワ県の県都)へ向かうバスを待たせつつ、平出正彦会長から、見送りに集まってくれたブザンソンの方々に記念品が渡された。それは、和風のデザインで、様々なモノを優しく包み込み、結ぶことができる「風呂敷」と、出会いを大切にするメンバーの気持ちを表す言葉を、書家でもある諏訪テクノレイクサイド地域センター事務局長の今井敏夫さんが認(したた)めた「色紙」であった。

 「これは『光陰如矢』(こういんやのごとし)
と読みます...。この出会いを大切にしたい、そして今このひと時が、私たちの製品を得ることができる最大のチャンスという意味でもあります。
透かさずビジネスに結び付ける平出正彦会長の直訳に笑いの輪が広がった。

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 そしてミッション最後の晩、御柱祭りにも参加したことがあると話してくれた「テザム」(Thesame/アヌシー県の産業支援機構)の専務理事モントー氏(Andre Monteud)の案内で、夕食会が開かれた。
 モンブランの麓のレストランに向かう道すがら、白く短い顎鬚に笑顔が印象的なモントーさんから、モンブランをデザインした大きなポスターと五輪招致のパンフレットをいただいた。
 ローヌ・アルプ州には、三つの冬季五輪開催都市※2があるが、白馬村の友好都市でもあるアヌシー(Annecy)が、2018年の開催候補地として手を挙げていた。

 実はこの「2月10日」は、NAGANO冬季五輪から正式種目となったスノーボード女子大回転で、カリーヌ・ルビ(Karine Ruby当時20歳)がフランス最初の金メダルに輝き、号外を飾った記念日でもあった。しかしそのルビは一昨年、青空5月のモンブランでクレバスに転落し、31歳の若さで命を落としてしまう。もしも開催地がアヌシーに決まれば、彼女が駈け抜けていただろうゲレンデで冬季五輪が開催されることにもなるのだという。

 私は、あのNAGANOでボランティアとして選手村と表彰式会場を往復していたことを思い出しつつ、モンブランをこよなく愛するモントーさんに「2018年には、あのNAGANOで生れた子供たちもちょうど20歳。彼らがフランスの皆さんとともに、モンブランを望む表彰台に立つのを楽しみにしています。」と伝えた。

(DTF研究会欧州販路開拓ミッションより おわり)

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(蕾が膨らみ始めていたブザンソンの桜)
※シャモニー(1924年)、グルノーブル(1968年)、アルベールビル(1992年)と、フランスでの冬季オリンピックは、すべてローヌ・アルプ州で行われている。


【掲載日:2011年4月13日】

林 宏行

財団法人長野県テクノ財団 事務局長

1963年下伊那郡喬木村生まれ。長野県商工部振興課、総務部地方課、市町村TL(課長)、下伊那地方事務所地域政策課長などを経て、2010年4月から現職。

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