[コラム]ものづくりの視点

vol.97おいしいリンゴ
山岸國耿

 昨秋イギリスを訪問する機会がありました。毎日バイキング方式の朝食に、リンゴが出されました。そのリンゴは、私などが小さい頃食べたあのリンゴに似たものでした。小さく固く酸っぱさがあって、懐かしく当時を思い出しました。現在私たちが食べている「ふじ」などのようなリンゴが見当たらないので、食品店や食堂など行く先々で、注意してリンゴを見ていましたが、ほとんどがあのようなリンゴでした。日本の現在のリンゴは、品種改良と栽培技術の向上によって私の小さい頃のリンゴとは全く違ってきています。数少ない海外旅行で見た経験ですから、確定的に言えることではありませんが、日本では日常的に見るようなリンゴが、私の見渡した中に無く大変驚きました。
 家内も同行しましたが、他の果物や野菜についてもいくつかで同じ思いを持ったようです。

 このような思いを持っていた矢先に、長野県の阿部知事さんがイタリアを訪問され現地の生産団体と協議されて、長野県が開発したリンゴの新品種「シナノゴールド」をイタリアで栽培することになったとのニュースを聞きました。イタリアでも日本の新技術によるリンゴが栽培されるようになるのか・・と感慨を深くしました。

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 先日、日経新聞の紙上で、東京大学の戸堂教授は「輸出や直接投資等の海外交易を進めている企業は、していない企業と比較すると生産性がより上昇するし、国際化を進めることによって今までには無かった知恵や技術を生みだして成長する。又日本の農産物の多くが海外のものよりも品質が高い。日本発の農産物を世界に広めていけるのではないか。」と述べておられました。

 又、先日の日経新聞紙上には、「我国は少子化等によって内需が縮小に向かう。加えて、中・高所得層は高々1億人余りであるのに対して、アジア等では、今後10年間で約19億人に増大し巨大なマーケットになることが予想されている。現在"日本通運が引越業務を、セコムが警備サービスを、ヤマハが音楽教室を・・・"などと、今まで海外と全く関係の無かったサービス産業においても、アジア等への進出が加速している。」と報道されました。

 今回のリンゴについては、全くの素人ですので、単なる評論的なことは言ってはいけませんが、農業分野やいろいろな分野でこのような海外展開の余地があるのではないでしょうか。
 今まで国内向けであって国際競争の無い業種の中にも、海外企業との競争に充分打勝つ分野が多数あるのではないかと思います。

 戸堂教授が述べておられましたとおり、海外交易を積極的果敢に推進することが今後の我国経済発展の有力な手段の一つになると思います。
 特に電気、自動車などの外需型の業種のみでなく、それ以外の金融、医療、公共、土木、サービスなどの内需型産業の国際化がその鍵となるのではないでしょうか。
 企業は、一面からみるとゴーイングコンサーン(継続企業体)として宿命的に成長し続けざるを得ない組織体です。成長し勝ち続けるためには、小さな市場から大きな市場に打って出ることも選択肢の一つと言えましょう。
 これら関係企業のリスクを恐れない奮闘に期待したいものです。

【掲載日:2011年10月28日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。
長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年5月に公益財団法人 HIOKI奨学・緑化基金の監事に就任。
平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任。