[コラム]ものづくりの視点

vol.110事業成果は1割にとどまる
山岸國耿

 先日新聞紙上に、2010年に政府が策定した国の「新成長戦略」について、2年経過した今年、政府の国家戦略会議がその政策を評価した結果、「全体の約9割で政策効果を確認できなかった。」との記事が掲載されました。
 民主党政権になって「事業仕分け」が行われ、数多くのムダな事業が指摘され、大きな反響を呼びました。
 更に、大蔵省出身の高橋洋一さんや経済産業省出身の古賀茂明さんなどが、「成功した産業政策等存在しない」や「役人の政策が浅はかになるのは、現場を知らないからだ。実状に即した政策を作るだけの経験も知識もない。」などと著書で辛辣に述べておられます。

 一方で以前にも述べましたが、私が出向していた長野県テクノ財団の設立の理念は、「テクノポリス構想」です。
 これは、昭和58年当時の通産省が、「魅力ある地方都市圏を作るために、産学官が連携して高度技術に立脚した工業開発を進めよう。」とした構想で、全国26地域の開発計画が承認されました。国の他の政策と大きく異なる点は、国からは補助金等の資金的支援がほとんどなく、理念の提案と地域の開発計画の承認などで、それぞれの地域の自主自立性に任せたことです。
 長野県でもこの構想に賛同し、県内多数の経営者の積極的な参加を得て、企業から約21億円という多額の出損を頂き、更に県や市町村の出損も加えた計約58億円を基金として財団を設立して、現在はその利子で運営しています。年間延べ数万人に上る県内企業の技術者等の参加を得て、企業のための技術開発や人材育成等を進め、全国的にも誇れる実績をあげています。 
 この事業は、国からの補助金等に頼ることなく民間主導で運営されており、通産省行政における戦後の大ヒットの一つではないかと思います。

 しかし国の政策をみた時、「国家戦略会議が下した"9割が成果無"」との判定には、強く共感するものがあります。
 特に国の場合、それぞれの政策に巨額の予算措置をしますが、それに見合った成果を上げていない。・・・と思われる事業がみられるのです。

 多額の借金に頼っている予算の現状を鑑みた時、官庁から独立し、多様な意見が反映される「政策評価のための新たな仕組み」が必要と言えましょう。

【掲載日:2012年6月13日】

山岸國耿


昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。
長野県工業試験場長を最後に定年退職。その後財団法人長野県テクノ財団に勤務、専務理事を平成22年3月末に退任、平成22年5月に公益財団法人 HIOKI奨学・緑化基金の監事に就任。
平成22年7月に国の地域活性化伝道師に就任。