[コラム]ものづくりの視点

vol.39製造業を支える”限界企業”
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

絆を大切に

 私は若い頃、県の中小企業総合指導所という企業診断をする機関に在籍していたことがあります。県内の企業現場を毎日のように訪問し、経営・生産・資金などについて相談に乗っていました。

 ある冬の寒い日、小川村の会社にお邪魔し朝から社長さんと決算書類など見ながらいろいろな相談を受けました。この会社は、長野市の企業の曾孫請けで、いわば末端の3次下請けです。内職を数件持ち、自宅の納屋には小さな設備を設置し、奥さんとご両親そして近所の主婦数人と一緒に仕事をしている・・・小さな会社です。
 この日はあいにく午後になるとぼた雪がさんさんと降り出し、夕方には、道か畑かわからなくなるほど積りました。社長さんから泊っていくようにとすすめられましたが、次の日出張がありぜひ帰らなければならず、暗くなった夕方車で必死の思いで帰りました。そのことも今では良い思い出となっています。

 

 近年、"限界集落"という言葉が広く使われています。山村の集落などで、高齢者が多くなり、地域の自治会活動などの機能が果たせなくなってきた過疎地の集落のことを指しています。

 一方、小川村のこの会社のような下請けの末端に位置する企業のことを、"限界企業"と呼ぶことがあります。(存立が難しくなった企業のことを指すこともあります。) この社長さんは、大変な勉強家で親企業に技術提案するなど積極的な経営をしていました。以来数十年たちましたが、親企業の成長につれて規模も大きくなり、現在では長野市内に工場を建て堅実に経営をされています。
 このような、社長さんの努力によって、いわゆる旋盤等1台から出発し大きくなった企業が県内には多数見られます。

 長野県テクノ財団は、企業の研究開発を支援する事業を重点的に行っています。主な対象は研究開発型の企業等であって、このような限界企業向けの事業は、地域センターで「技能研修会」などを一部実施しているのが実情です。

 日頃、私はこれら限界企業の中にも有望な企業があること、製造業を支える大きな力となっていること・・・等を実感しています。
 また、今でもこれら企業とのお付き合いが続いていて、技術の動向や現場の課題など生(なま)の情報をいち早く知ることができ、大変勉強になっています。
 これからも、今まで以上にこの絆を大切にしていきたいと考えています。

【掲載日:2009年11月 2日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/

vol.38長野県のものづくりの特色は
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

新しい成長分野へ、総力をあげて支援

 長野県の製造業を語る時、「機械系4業種」に特化しているとよく言われます。製造業の業種を分類しますと、食料、繊維、木材、土石、・・等と24業種に大別されます。その際、一般機械、電気・情報・電子機械、輸送機械、精密機械の4業種は「機械系4業種(加工組立型産業)」と呼ばれ、長野県の主力である自動車・電気・半導体・精密部品等が入っています。

 平成19年の工業統計で、長野県の製造業の生産額などを表す製造品出荷額等は、7兆円余ですがその内 72%をこの機械系4業種で占めており、この割合は全国第1位となっています。ちなみに、全国平均は48%です。
 長野県の製造業の特色にはいろいろありますが、この比率は本県の実態を極めて明確に示しており、県内製造業を語る時、よく使われています。

 この機械系4業種は、技術はハイテクと呼ばれるものが多く、成長性や輸出比率が高く、海外進出も活発な分野です。戦後県内では自動車や電機部品関係の業種が大きく伸びました。私達の周囲でも大きくなった企業といえば、多くがこの4業種に属する企業でした。
 課題は、食料、木材等の内需型の業種と違い、世界的な景気変動にさらされて好不況の振幅が激しいことで、技術的にも諸外国の企業と激しい競争を繰り広げています。近年は、伸びる企業がある半面、中国やインド等の追い上げもあり、経営的に厳しい企業もでてきています。昨年からの大きな景気調整の局面で、長野県の落ち込みが他県に比較し大きいと言われていますが、その一因はこの業種的特色によるものと思われます。

 実は、この機械系4業種の構成比率は長野県が全国で一番だ、ということに私が気づいたのは、昭和58年ごろ読んでいたある調査機関の報告書からでした。 当時いろいろな角度から県内製造業の実態を分析していましたので、「このような比率もあったのか」と大変驚きました。最近もこれに関する文書を読み、懐かしく思い出しました。

 これら4業種の技術革新や市場変動は、大変激しく目を離せない状況にあります。自動車は、ハイブリット車や電気自動車などへ、電気・精密関係も超精密加工技術等を武器に医療・環境・航空機分野などへと、新しい成長分野への模索が始まっています。
 長野県テクノ財団の事業おいては、このような成長分野をテーマとした共同研究開発や先端技術研究会などのかなりの部分が、これら4業種の企業を対象としています。
 今後、これら企業の一層の経営力、技術力等の向上を図る為、時宜に適した事業を総力を挙げ実施していきたいと思います。

【掲載日:2009年10月26日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/

vol.37連関型産業構造と単一型産業構造
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

基盤技術を広く、深く深耕する

 長野県の製造業は、多数の企業が精密部品、電気部品、自動車部品などの多様な部品を生産しています。これらの部品は、鋳物、切削、プレス、金型、めっきなどの技術で加工していますが、これらの技術のことを基盤技術と呼んでいます。

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 県によっては、めっき企業が立地していない、金型企業が無いなど、これらの基盤技術に偏りがあるケースがあり、一つの地域で部品加工が完成しない場合があります。
 又、例えば、夕張の炭鉱、釜石の鉄、石川の織物のように、産地と呼ばれ特定の業種に特化した地域がありますが、長野県は、特定の業種に特化しておらず、これら基盤技術を持つ企業が満遍なく立地しているのが大きな特色です。

 このように、基盤技術が満遍なく立地し連携して部品等を生産できる地域の産業構造のことを"連関型産業構造(リンケージインダストリー)"といい、特定の産業に特化している地域のことを"単一型産業構造(モノインダストリー)"と呼んでいます。
 本県は、このように多様な基盤技術が多数集積しているため、特定の業種の衰退に地域経済が連動することなく、時計から半導体へ、計測器からセンサー部品へなどと次代の成長産業につぎつぎと移行することができ、大きな利点となっています。

 但し、本県は基盤技術の大集積地である東京の大田区や、東大坂等に比べて技術の幅と深さにおいて劣位な分野もあり、一層の集積と高度化が求められています。

 長野県テクノ財団では、県内企業の技術開発を進めるため、国から各種の助成資金を積極的に導入するよう努力していますが、今年は、これら基盤技術の向上を図るための国の助成事業「戦略的基盤技術高度化支援事業」を5件と、近年に無く多数採択され導入いたしました。
 例えば、航空機用エンジンに用いる極めて薄くしかも大きな直径を有する円筒形の部品は、従来技能者が、手作りの職人芸で作っていましたが、今回この資金を活用し、完全に自動化できる設備を開発します。完成しますと数十億円規模の市場が期待されています。

 このように当財団では、これら連関型産業構造に狙いを定め、更に深化させるための事業を積極的に実施していきたいと考えています。

【掲載日:2009年9月28日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/