[コラム]ものづくりの視点

vol.36見える技術、見えない技術
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

技術の見える化

 私達の日常生活に一時も欠かせないものに、携帯電話があります。いつでもどこでも誰とでも会話ができるし、文章も送れる。ただ、この電話機の原理は、見た眼には見えず全く分かりません。
 その他 身の回りにあるテレビ、カメラなども大変便利なもので、毎日の生活に欠かせないものとなっていますが、その原理や構造は、見た眼には全くわかりません。

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 一方、私の小さい頃は、たとえば自転車は、ペダルを踏むとチエンが回り、後ろの車輪が回る、そして前に進む。また、米の脱穀機は、稲を前にさし出し足踏みを踏むとドラムが回り、そこに無数のとがった突起物が稲からもみを飛ばす・・・。それぞれが見た眼によく分かり興味もわきました。

 このようなことを「見える技術、見えない技術」と呼びますが、近年、私達の身の回りのものは、原理が見えない「見えない技術」ばかりとなってきています。又その原理を深く考えようともせず、値段と利便性だけで使用するようになってきています。これらは、大変な労力と時間をかけて開発されたものですが、私達はそのことを考えることなく使っているのが現状です。

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 近年子供たちの「理科離れ、数学離れ」が進むとともに、社会一般に"ものづくり"への関心が薄れ「将来が危うい」とも言われています。その一因には「見えない技術、見えなくなった技術」があるのでないでしょうか。技術をもっと興味のある身近なものとし、技術が社会経済発展の大きな原動力となっていることをもう一度再確認するためにも、可能なところから「技術を見えるようにする」努力が必要ではないでしょうか。
 企業現場の改善活動などで「見える化する」・・・とよく言われていますが、技術者等のものづくりに関係する人たちは、あらゆる機会を捉えて展示したりCD等で分かり易く説明したりして、一般社会人に対しても「技術の見える化」を進めていく必要があると思います。
 このことは、このサイト(長野県の製造業応援サイト「Sai+サイプラス」)のねらいとしている「長野県のものづくりを応援する」の一助ともなりましょう。

 長野県テクノ財団では、小中学生を対象に技術を分かり易く学ぶ子供工作教室やロボットコンテストなどを、各地域センターにおいて多数開催しています。今後もあらゆる機会をとらえて、「技術の見える化」に取組んでいきたいと考えています。

【掲載日:2009年9月 2日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/

vol.35経営専門家の育成
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

最適な“解(かい)”を一つに絞る

 先日、長野県テクノ財団が主催し「戦略的経営リーダー養成塾」を開催しました。タカノ(株)の元社長の堀井さんをコーディネータに、企業の後継者や次代の若手リーダーの養成を狙いとしています。初回は、タカノ(株) 様の見学と講演を頂き、次回以降参加企業を巡回して、それぞれの経営や技術課題について、コーディネータのアドバイスを頂きながら、会員相互で討論しより良い解決策に結び付けるなど、経営リーダーとしての能力向上を図ろうとする養成塾です。

 当財団では、この塾のように、経営者層を会員にした「経営幹部養成塾」、営業担当取締役などを会員とした「営業担当幹部交流フォーラム」、総務・経理担当取締役などを会員とした「経済金融情勢研究フォーラム」あるいは、技術開発幹部を会員とした「幹部技術者交流フォーラム」、「コラボネット」など、主に企業の経営専門家(テクノクラート)を育成するため、経営、技術、営業などの職層に対応した、多種にわたる塾・フォーラム等を多数開催しています。

 このような経営専門家の育成には、まず講師を囲み、共通する先進事例や各種最新・最適な経営手法(ベストプラクティス)などを研修します。
 又、"次の技術の種をどう選ぶか"、"新事業を立ち上げたいが資金調達方法は"・・・など会員が直面する課題を持ち寄り、それぞれの体験を紹介し相互に討論するなどして、課題の解決を会員全員で考えていきます。
 それらの解決策や答えは、一つではありません。多数ある"解"の中から、その企業をめぐる経営環境や技術動向を的確に把握しつつ、最適な"解"を一つに絞り込んでいく、その過程を会員が体験し洞察力や判断力を磨きます。
 又時には、懇親会等も開催し、会社内では言えない悩みなども話し合える、いわゆる腹を割った付き合いのできる"人的ネットワーク"を築いていきます。

 当財団は、人材育成といっても、第一線の若手技術者を対象とした先端技術研修会のみでなく、企業のトップ層の経営専門家の育成も、"強い企業・強い産業"を創る上で、極めて重要ですので、地域センターを中心に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

【掲載日:2009年8月 3日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/

vol.34ITが進める完全市場化
財団法人長野県テクノ財団 専務理事
山岸 國耿

身をもって知る、ネットの威力

 「大きな口が開いていますよ」と、先日、掛かり付けの耳鼻科の先生に診ていただいたところ言われ、一安心しました。
 私は、術後膿胞という膿の溜まる袋が鼻にできる蓄膿症で、数年置きに、この袋が膿み強烈な痛みを伴って顔面を腫らします。若いころこの袋に口を開ける手術を2回しました。昨年12月にまたこの病状が出たため、今年3月にこの先生の紹介により篠ノ井総合病院で手術を受けました。今回の診察は、術後の状況を診ていただくためで、紹介元の先生に診ていただき手術が成功したことを再確認しました。
 以前の手術は、鼻の骨を削るため、大変な痛みを伴う手術でした。そのため、今回、するかしないか大変迷いました。周囲の者は、皆やったほうが良いとの意見、しかし、若いころの大変痛い手術が思い出され、迷いに迷いました。

 その時、ネットで、検索しました。すると鼻の手術を日帰りで専門にする医院、手術数を公表している病院、病状の進行状況を細かく説明しているサイト、また、患者からも、恐怖のガーゼ抜き、失敗した事例、対応の良かった病院・・・等お医者さん側、患者側の状況が詳細に把握でき、その膨大な情報量に圧倒されました。日ごろ各種の情報はネットで見ていますが、切実感もなかったのであまり感じませんでした。今回は、私自身、強烈な痛みを伴う手術なので、必死になって情報を探しました。その結果、決心がつき、安心して手術を受けることができました。

 「情報の非対称性」とよく言われます。専門家と一市民、例えば、お医者さんと一市民、弁護士さんと一市民・・等それぞれ、知識と経験による情報量には圧倒的な格差があります。何か問題が起きれば、専門家がより多くの責任を問われます。このような状況を「情報の非対称性」といっています。今回、この非対称性を、ネットの検索によりかなり埋めることができたと思いました。

 一方、売り手と買い手、供給側と需要側それぞれが完全に情報を把握できていて、対等の立場に立てるような市場のことを「完全市場」といいますが、ネットが、それに近い状況を作り出し、情報の非対称性を埋め、より「完全市場」に近づけているといえましょう。

 今回、お医者さんの高度な技術により、懸念した痛みが驚くほど無く終わりました。医学の進歩とIT化を身をもって体験し、技術の進歩を痛感しました。

【掲載日:2009年7月13日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/