[コラム]ものづくりの視点

vol.03“成長産業に乗れ”
財団法人長野県テクノ財団からの提案
財団法人長野県テクノ財団 専務理事 
山岸 國耿

長野県を担う次の産業は「航空機部品産業」

この8月1日、松本市で当財団主催による「航空宇宙関連産業先端技術セミナー」を開催いたしました。講師のお話も具体的かつ充実した内容で、70名余の多数のご参加をいただき、大変盛況なセミナーとなりました。

数年前、当財団の 萩本理事長(多摩川精機㈱ 会長)から「長野県のこれからを担う産業の一つに航空宇宙産業がある、これをターゲットにしよう」との提案がありました。以来これを踏まえ、航空機に関する研修会や、展示会への出展、専門家による相談・指導などを毎年実施してきました。

航空宇宙産業は、超微細加工や、炭素繊維などの複合材料、コンピュータなどの情報機器 など"先端技術の塊"のような産業で、かつ航空機は部品点数が100万から200万点といわれており、自動車の10万点、ロケットの30万点と比較し、大変規模の大きな裾野の広い産業です。又この市場の成長率は年率5%以上といわれ、かつ"ボーイング787"などは、機体の35%は日本製といわれています。一度受注すると数は少ないが、期間の長い受注が見込める産業でもあります。 加えて国では、「技術戦略マップ2008」において、重要技術分野として29分野を定めていますが、その「システム・新製造分野」の中で「航空機・宇宙」を重要分野として研究開発に対する各種の支援策を講じています。

皆様もご承知のとおり長野県は、諏訪地域の精密加工部品や東北信地域の自動車部品、そして全県的な電気部品というように 各地域で高い技術力を有する特色有る加工組み立て産業が盛んです。航空機部品は、一層高度な技術力と厳しい品質を要求されますが、本県の技術は、今まで蓄積してきた技術を生かしつつワンランク上の技術に挑戦し獲得していくには、ちょうど適した技術分野といえます。更にこの航空機部品関係の技術は、他分野にも広く応用のきく波及効果の高い技術なのです。

そこで本県では、世界的に成長するこの航空宇宙産業の潮流にいち早く乗り、航空機本体を製造するのでなく、その部品などの周辺分野に進出して、技術力を大幅にアップさせ、産業のドライビングフォース(駆動力)にしていく。このことは、今後の本県の、ひいては国全体の産業の高度化にとって大変大きな役割を果たすものと期待されます。

当財団では、今年度は、航空機部品に関する研修会の開催や展示会への出展に加え、会員制による「長野県航空機部品産業研究会(仮称)」の立ち上げを企画しております。 関係する機関の皆様のご意見やご協力を得ながら、今まで以上に力を入れていきたいと考えています。

航空宇宙関連産業先端技術セミナー


【掲載日:2008年8月 6日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団 専務理事 
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。
http://www.tech.or.jp/

vol.02長野県ものづくりのさらなる飛躍は「プラス思考」で
長野経済研究所 理事調査部長
平尾 勇

「プラス思考」の極意とは?

ドイツのある中小製造業を訪れたとき、案内してくれた機械卸商社の社長さんからこんな話を聞きました。

「一般的に、ドイツの中小製造業はプラス思考ですね。価格を積み上げて、その価格に見合う"製品の価値"を相手に提供する。たとえば、おつりを計算する場合、日本では100円-60円=40円と計算するのですが、ドイツでは60円+40円=100円というふうに、価格におつりを加えるという思考回路なんです」

その後ドイツの中小製造業を10数社回ってみると、おぼろげながらその意味するところが見えてくるような気がしました。

厳しい市場競争の中で、日本の中小製造業が利益を出すためにはおそらく、価格-コスト=利益という式が当てはまります。市場価格を前提として利益を出すためにはコストを引き下げるしかなく、コスト削減が至上命令となるわけです。一方、ドイツの場合はどうか?

コスト+利益=価格という式の中で、自分の意向に沿って価格を設定する傾向が強く、コストに利益を積み上げて事後的に価格を決める。相手もその「製品の価値」に満足して、その価格で購入する。つまり、プラス思考が結果的に高い利益率をもたらすことになるのです。

では、小さな市場で価格の設定者たりうる秘密はどこにあるのでしょうか?

訪れたドイツの中小製造業の説明を聞いていると「カスタマイズ(顧客仕様)」という言葉と「パートナーシップ(対等な関係)」という2つの言葉をよく耳にしました。相手の個別具体的なニーズに対応するということ、すなわち「顧客仕様」への対応によって新たな市場を作り出すことが可能になり、顧客と提供者は1対1の関係になります。

ここで問われるのは価格というよりも「製品の価値」そのものです。小さなマーケットで双方が必要性を認めて一つの製品を共有するとき、そこに「対等な関係」が形成されます。つまりこの2つの言葉は表裏の関係にあって、顧客仕様を追求することで対等な関係を作り出して、それによって価格設定者たりうる立場を確保できるのです。

「プラス思考」の極意とは何か?

価格をもって差別化するのでなく、たえず手間隙かけて品質を磨き上げた「製品の価値」をもって差別化することではないでしょうか。つまり、顧客仕様に柔軟に対応すること、そこに利益の源泉が隠されているという認識をもつことだと思うのです。すぐれた技術力を単にそれだけで勝負するのでなく、「カスタマイズ」することによって新しい市場を作り出し、そこでプラス思考による価格設定が可能になる...。

長野県のものづくり中小製造業の技術力はすでに折り紙つきです。そうであるならば、この技術力にさらに磨きをかけ、プラス思考の展開を図ることで、より力強く、よりグローバルに飛躍する中小製造業の姿が実現するに違いありません。製糸業の時代から息づくものづくりDNAは現在も脈々と引き継がれ、長野県におけるものづくりの潜在力は測り知れないほど大きいと思うからです。

【掲載日:2008年7月31日】

平尾 勇

長野経済研究所 理事調査部長
(株)富士総合研究所を経て、1991年八十二銀行入行。同年(財)長野経済研究所へ出向。 02年調査部長 05年から理事・調査部部長。専門は地域政策論。長野県経済を中心に産業構造分析、産業振興策、地域づくりに関する調査などを担当。
http://www.neri.or.jp/

vol.01「財団法人長野県テクノ財団」とは?
財団法人長野県テクノ財団専務理事
山岸 國耿

「財団法人長野県テクノ財団」は、県内企業の技術革新を支援しています。

「テクノ財団」と言っても製造業以外の方々にはなじみが薄いので、今回は当財団の狙いや事業内容を紹介します。

まず、当財団の前身は「(財)長野県テクノハイランド開発機構」と「(財)浅間テクノポリス開発機構」の二つの財団です。それぞれの事業や基金をそのまま移行した形で平成13年に設立されました。当財団の事業はこの基金の収益により運営されていますが、この基金は、県内企業等から多額の出損金をいただき造成されたものです。
当財団の狙いは、主に製造業が新しい技術を導入したり開発したりすることを支援することにより、技術革新を起こし、もって県内産業の高度化と新産業の創出を図ろうとするものです。

具体的にはまず、企業と大学等が共同研究する産学連携や、企業間の連携などによる新技術の開発等を支援しています。

また、5箇所の地域センタ-にコーディネータを配置して、各企業における研究開発や新規事業の"種"を探すとともに、その"種"に基づく研究開発から商品化までを実現するために、大学等と企業、企業と企業の情報交換や交流を活発化させる人的ネットワークの構築を行っています。

次に人材の育成です。「技術は人なり」と申しますが、高度な技術者の育成を目指して様々な技術習得のための研修会等を多数開催しています。
具体的には、数多くの先端技術の基礎や応用に関する研究会や研修会、フォーラム等を開催し、年間延べ2万4千名余の方々にご参加頂き、参加企業数では約800社に及びます。

この結果、産学官連携プロジェクト「機械・レーザ・イオンビーム複合加工による超微細デバイス開発」では技術開発が成功し数億円の売り上げにつながるなど、具体的なビジネスの成功事例も多数出てきています。

また、その他の産学官連携プロジェクトの例としては、この地域を国際競争力のあるナノテク集積地にすることを目指す「知的クラスタ-創成事業」があります。信州大学等が持つナノカーボンなどの世界的研究成果を"種"として、県内企業等60社及び大学等研究機関15、計75団体余の参加を得て研究開発が進み、国際的にも有数の成果が出てきております。

このように、当財団は、精密加工などの既存産業の競争力強化や航空宇宙などの"明日の長野県の力"を生み出す新しい産業への展開を、技術開発の面から支援しています。

レーザー・集束イオンビーム複合プラットフォーム

超精密機械加工・レーザー複合プラットフォーム


【掲載日:2008年7月31日】

山岸 國耿

財団法人長野県テクノ財団専務理事
昭和19年上田市生まれ。38年間長野県職員として長野県商工部関係機関に勤務。長野県工業試験場長を最後に定年退職。当財団浅間テクノポリス地域センター事務局長を経て、現職に就任。 http://www.tech.or.jp/