[サイプラススペシャル]01 小さな孔から世界が見える 「ものづくりDNA」が拓く未来

長野県諏訪市

小松精機工作所

超微細な斜め孔を時計作りのプレス技術で実現 世界の車の30%を占める燃料噴射ノズルメーカー

 世界の自動車の燃費向上に、実は諏訪の技術が生かされているのをご存じだろうか? それが小松精機工作所の「エンジン用噴射ノズル部品」。腕時計作りに端を発した技が、今や自動車に欠かせない技術となっているのだ。
 わずかな燃料を最大限に生かす直径1cmの部品ながら、世界シェアは30%。日産やトヨタをはじめGM、ベンツ、ポルシェなど世界を走る3台に1台、国内なら2台に1台は搭載されているというスゴイ部品なのだ。

世界を相手に何ができるのか

 1953年、諏訪精工舎(現セイコーエプソン)の協力工場として、腕時計の組み立てからスタートした小松精機工作所。その後、諏訪精工舎の技術指導によりプレス加工や部品の金型製造など、1から10までひと通り自社でこなせるようになる。OEM(Original Equipment  Manufacture=相手先ブランドによる生産)供給である。
 しかし1981年、時代の流れとともにセイコーエプソンから自立を指導され、独自の方向性を探り始めることになる。その後、電子・IT部品の製造を手掛けて成果は上げるものの、技術が一般化するとコストの安い海外シフトに転換するという、再びの岐路に立たされた。
 しかし、小松精機工作所の目は常に世界を見据えていた。腕時計の製造時から構築してきた「プレス技術」は世界に通じるものであると確信していたからだ。

初めての自動車部品に「さて、どうしよう」

 自動車の電子制御化が進んだ1980年代、世界に目を向けていた小松精機工作所は自社が持つ技術が時代に必要とされていることを知る。最初に量産打診があったのは日産系。独自路線を模索してから6年後の1987年だった。しかし「実は手放しで喜べる状態ではなかった」と小松誠専務。
 噴射ノズルの部品は、厚さ0.08mmから0.3mmのステンレス板に開ける孔径0.12mmから0.3mmの微細な孔。人間の髪の毛の平均が0.08mmだから、その微細さは分かるだろう。
 しかも、出された条件は「斜め孔」。小さな孔から一滴のガソリンを霧状に噴射し、効率的に燃焼させるために斜め孔が必要不可欠なのだという。これまで時計の製造過程で垂直孔の経験はあったものの「斜め孔」は初めてだった。

ものづくりDNAが生んだ「斜め孔」

 ここで小松精機工作所の「ものづくりDNA」が発揮される。プレス加工という単工程だけでなく、顧客の発注に応じて、部品の設計図から完成品を具現化するという一貫加工技術。安定した品質で量産化するまでに1年を要したものの、試行錯誤の末、超微細な孔を斜めに開けるという技術を確立した。
 孔径0.001mmの違いで1分間に1ccの燃料差が出るというから、微妙な差は燃費の向上だけでなく、燃料の完全燃焼による二酸化炭素の排出削減にもつながる。より微細な孔は地球環境的にも見逃せない問題なのである。
 化石燃料の限度を見据え、10年後、あるいは30年後を視野に入れて研究開発が進む今、どんどん緻密な技術は必要とされている。ますます高度化する顧客仕様に応じて改良を重ね、現在稼働している金型は第6〜7世代目。確実に進化を遂げている証拠だ。

創業以来綿々と受け継がれて来た精緻なプレス技術の結晶である腕時計部品

顧客からの高機能化の要求に応えて具現化したガソリンエンジン燃料噴射ノズル。中央に10数個の微細な孔が見える

斜め孔の角度を視覚化した模型。このように適切な角度、量の霧状のガソリンが噴射されて初めて高精度の燃焼が実現する

世界が認めたものづくりの技術

 1991年、小松専務らはドイツに渡った。海外では初めてのプレゼンテーション先となったのがボッシュ社だった。その場で契約が決まったものの、ボッシュ社の意向は、あくまでヨーロッパで部品を調達するとのことで、5年近くも納品には至らなかった。
 しかし、自動車部品に対する要求が高まるにつれヨーロッパでの製造が困難となり、切羽詰まった状態で最後に頼ってきたのが小松精機工作所だった。確かな技術力はもちろん、Q(quality=品質向上)、D(delivery=納期の厳守)、C(cost=コスト削減)も大きな要因となった。それは今も変わらない姿勢である。

舞台は世界から地球へ

 地球温暖化が深刻な問題となっている現在、自動車業界でもCO2の削減は重要である。さらなる燃費向上はもちろん、ディーゼルエンジンの増加など環境規制対応でよりエコロジーな噴射ノズルの需要は高まり、いっそう精密な技術も要求される。
 自動車業界はもちろんだが、小松精機工作所の強みは、時代の要求に合わせた柔軟な姿勢や新しい視点を絶えず持っていること。しかも世界においての自社のアビリティ(技量、能力)を知っているから、活躍の場は世界から地球規模へと無限に広がっているのだ。

つとめて分りやすい口調で取材に応じてくださった小松誠専務。「ものづくりの姿勢にはビジョンが必要なんです」と熱心に語られた


【取材日:2008年7月14日】

企業データ

株式会社小松精機工作所
長野県諏訪市四賀桑原942-2 TEL.0266-52-6100
http://www.komatsuseiki.co.jp/
 腕時計はもとより、自動車、情報機器関連などの超精密分野、最先端のエレクトロニクス分野などを中心に、提案型のパーツサプライヤーとして注目されている。