[サイプラススペシャル]14 このロボットは伊達じゃない 「世の中に役立つこと」はビジネスチャンス

長野県茅野市

野村ユニソン

ダンスロボットからボジョレー・ヌーボーまで
幅広い展開を支える「金型」「鍛造」「ダイカスト」

 野村ユニソンの事業分野を一言で説明するのは難しい。
 愛知万博で脚光を浴び、野村ユニソンの顔となったのは「ダンスロボット」だが、主力は半導体や液晶パネル関連装置の製造だ。その一方で、人工心肺装置や、携帯サンダル、水道凍結防止帯などオリジナル商品も展開。さらにワインの輸入販売も、全社の売上げの3分の1を占めるまでに成長させている。
 野村ユニソンの驚くべき活動領域の広さを支えているのは、意外にも、地道なものづくりの姿勢だった。

諏訪の町工場がロボットを開発

「夢」の実現=ダンスロボット

 「ダンスロボットでいくらもうかった?ってよく聞かれますが、ぜんぜんもうかっていません」ユーモアたっぷりに野村稔社長は語る。「ヒトを助けるロボットは『夢の実現』なんです」

 2005年に開催された愛知万博では、日本のトップメーカーが開発したロボットに交じって、信州生まれの「ダンスロボット」が登場した。長野県茅野市にある野村ユニソンが東北大学と共同開発したものだ。
 パートナーの人間と息もぴったり、滑らかにステップを踏むダンスロボットの姿は、信州の技術力の高さを観客に強く印象付けた。

伊達じゃない!ロボットのノウハウを生かす

 ロボット開発は、ゼロからのスタートではなかった。
 そこには、野村ユニソンの主力事業である液晶や半導体、太陽電池などパネル関連装置の技術が導入され、ロボットの制御システムなどに生かされた。逆に、ロボット開発で得たノウハウは、主力事業である産業用機械に還元され、大きな役割を果たしている。

 10月の諏訪工業メッセで公開された「アーム式カメラクレーン」はその一例だ。ユニークな「巻き取り式のアーム」や心臓部のカメラを操作する部分には、人の微妙な力も感じとれるダンスロボットのセンサー技術が生かされている。

「それ面白いね!」まずは、やってみる

 ダンスロボットは、東北大学との共同開発で生まれた。ロボットだけでなく、野村ユニソンが手掛ける新分野の製品の多くは「連携」がもたらしたものだ。
たとえば医療現場で使用される「携帯型の薬液注入器」は、野村ユニソンを軸とした地域共同事業体が開発した。心臓手術などで使う「人工心肺装置」は産学連携の大きな成果だ。

 「自社の強みがあるから、地域や大学、研究機関との連携ができるんです」と、野村社長。自社の強みとは、創業以来培ってきた「ものづくり」の技だ。
 「できない、とは絶対に言いません。まずは『それ面白いですね』ってやってみるんです」持ち込まれたアイデアを形にする意欲と力があるからこそ、共同開発の声がかかる。

「まずは、やってみる」野村稔社長

新開発のアーム式カメラクレーンは、諏訪工業メッセでも注目を集めた。

野村ユニソン「顔」=ダンスパートナーロボット

「世のため、人のため」がビジネスチャンス

サンダルも「節電太郎」も

 野村ユニソンは、「諏訪のものづくり」を体現してきた典型的な中小企業だ。
昭和29年、野村稔社長の父で先代の故野村千古氏が、諏訪市でバルブ関係の鋳造業を始めた。以来、半世紀以上にわたり、鍛造・金型・電子機器など部品製造分野で優れた技術力を培ってきた。

 「典型的中小企業」の枠にはまりきらないのが、その事業展開の広さだ。ロボット事業、医療分野の他に、携帯用サンダル「マイフリッパー」や水道凍結防止帯節電装置「節電太郎」といった一般消費者向けの商品まで手がける。
 こうした異分野への参入のきっかけは、ロボットや医療分野同様、「それ面白いね」と取り組んだ結果だという。

ボジョレー・ヌーボーも「本業」

 忘れてはならないのが「ワイン」だ。
 約25年前に進出した酒類の販売は、製造業とはまるで異質だ。「もちろん本業は精密機械製造です。でも、ワインの販売や一般消費者向けの商品づくりも本業なんです」と野村稔社長は笑う。

 野村ユニソンの年商約150億円のうち、洋酒の輸入販売は約50億円を占める。並行輸入事業者としては「扱い高日本一」だ。2008年にはフランスにワイナリーを取得し、オリジナルワインの販売もめざすと言う。

高ければ高い壁の方が…

 「海外のお土産は、なんでいつも酒なんだ?」
 洋酒の販売は、内外価格差に対する先代社長のこの疑問がきっかけだった。1980年代の円高不況の中、円高ビジネスを模索し「うちがやれば、もっと安くできる」とワインビジネスへの参入を決断した。

 酒類販売は規制が厳しく、参入が難しい業界である。誰もが「無理だ」と反対する中、野村ユニソンは専門スタッフを配置し、試行錯誤の末、正攻法で壁を乗り越えた。まったく新しいワイン市場で、大成功を収めた背景にあるのは「初めから、できないとは言わず、やってみる」姿勢だ。
 参入障壁が高い市場は入り込んでしまえば「攻めやすい舞台」だった。一見難しそうに見える〝規制区域〟の向こう側には大きなビジネスチャンスが広がっている。
「お客様に満足していただくという点では製造業もサービス業も同じなんです。人が喜ぶこと、世の中にためになることを追求していけば、ビジネスは後からついてきます」と野村社長。

熱い金属を型にはめ込み、一気に整形する「鍛造」

マイフリッパー(上)と節電太郎(下)

本社敷地内にあるワイナリー


素顔は頑固「モノづくり」企業

ロボット開発を支える「原点」とは

 「最先端もやっているけど、金型・鍛造・ダイカストは絶対にやめません」野村社長は力を込めて語った。
 ものづくりの中小企業の中には、経営資源を主力商品に絞り込む過程で、固有の技術を手放してしまうところも多い。厳しい競争の中で「集中と選択」がなければ生き残れないからだ。 しかし、野村ユニソンは創業以来の金型・鍛造部門を維持し続ける。
 「これがすべての原点だから」と野村社長。「地道に金型をやっていたから機械ができ、機械ができたからロボットもできる。液晶や太陽パネル、ITなど時代の流れをつかむことができたんです」

すべては「現場」から生まれる

 飾り言葉ではない「現場主義」「顧客主義」。
 野村社長が入社の時に配属されたのは鋳造部門だった。「現場では溶けた金属が飛び散って、腕にやけどもしました。納期に間に合わせるために24時間連続勤務もありました」この経験が野村ユニソンを支えている。

 そんな野村社長の経営方針を象徴する取り組みが「やすりがけ研修」だ。 対象は新入社員から49歳を超えた中堅社員・管理職たちと幅広い。課長も部長も1週間デスクを離れ、やすりがけを行う。
 「製造部門だけでなく、経理も総務も研修を受けています」野村社長のアイデアで始まったこの研修、きつい作業にもかかわらず、社員たちの評判は悪くない。「忘れていた技術力の大切さに気付かされる」「集中力が付く」といった感想に加え、「世の中のために何ができるか考えられる」「新しいアイデアが生まれる」といった声も聞かれた。

根っこは「ものづくり」

 ワインに産業機械、ロボット、医療機器、サンダルなどなど多岐にわたる事業展開は、「世の中に役立つこと」を追求し続けた結果であり、それを支えているのが野村ユニソンの「ものづくりの原点」=「金型」だ。
 華やかな表舞台のかげで基本を地道に守る姿勢こそ野村ユニソンの強さの根源なのかも知れない。

現在の主力=産業用機械の組立風景

すぐに手がぼろぼろになってしまう「やすりがけ研修」

最先端商品を生産する今も、旧来のものづくりを続けている。


【取材日:2008年9月25日】

企業データ

野村ユニソン株式会社
長野県茅野市ちの上原650 TEL.0266-72-6151
http://www.nomura-g.co.jp/