長野県下諏訪町
共立継器
生産現場のひとりひとりが責任をもてる職場づくり
積み重ねた信頼で脅威のシェア獲得
長野県の共立継器の主力製品は、回路をつないだり切ったりするリレー・継電器。いわば「大電流用のスイッチ」で、たとえば鉄道車両のドアの開閉などを制御する。驚くなかれ、国内、特にJRのほぼ100%の鉄道車両に、共立継器が製造したリレーが使われているのだ。
JRのほか、NTT、NHK、電力各社などに納められている共立継器のリレー。基本的な技術や設計は、創業から半世紀ほとんど変わらない。単純だが、どこにもまねできない製品の信頼を支えているのが「全員が正社員」の生産現場だ。
「ここで働く152人の従業員は、みんな正社員。派遣とか、パートの人はいないんです」と語る創業社長の宮川昭二氏は81歳。多くの企業で労働のアウトソーシングが進み、特に製造業では、非正規の従業員が現場を担うようになっている中で、宮川社長は「全員が正社員」を貫いてきた。
共立継器の製品は「多種少量生産」だ。「私たちが作っているのは『信頼』です。ひとつひとつの製品を高い品質で作らなければならない。個人個人が責任を持って作る。そういう責任を持たせるためにも、正社員なんです」と宮川社長は熱く語った。
「景気に左右されない足腰の強い会社にしたいと思ってやってます」
全員が正社員というのは理想だが、企業にとって人件費が固定化し、大きなリスクになりかねない。しかし、宮川社長は続ける。「リスクがあっても、企業に『耐久力』があればいいわけです。一時、経営が不振になっても、耐久力があれば人員削減をしなくてもいい」。宮川社長は「景気に左右されない会社づくり」を経営戦略として掲げ続けてきた。
共立継器の継電器は、JRやNTT、電力会社などライフライン産業で活用されている。「創業したのが高度成長期の終わる頃で、もともと好景気のうまみを味わえない後発メーカーだったんです。だからこそ、地道に『信頼』を得ていく必要があったんです」。
1960年に30代で創業してから半世紀、陣頭指揮を執り続ける宮川社長は、自社の技術について「基本的にローテク」と笑う。電磁石の力で、電気回路を切ったりつないだりするリレーの基本的構造は、確かに創業時から変わらない「アナログな仕組み」だ。
しかし、「誰でもまねできるわけではないんです。たとえば中国などで同じような製品を大量につくって持ってきても、誰も買ってくれない」そう言って宮川社長が取り出したのは、高さ10cmほどの四角い機械だった。
手のひらにのるこの小さな装置こそ、国内のほぼすべての列車で使われているドア開閉用のリレーだ。
1960年に独立し、半世紀にわたって共立継器をひっぱる宮川昭二社長。
現場の152人は「全員正社員」
共立継器の千曲工場は千曲市・武水別神社の山手、リンゴ畑に囲まれた斜面に建つ。眼下に千曲川が悠然と流れる丘陵地で、主力の鉄道車両用リレーが作られている。
「安全や耐久性が求められるところほど、当社の製品が使われています」案内してくれた遠山浩之取締役は自信を示す。接点にかける圧力や金属の材質など、単純であっても奥が深い。
「他社が同じカタチにつくっても、性能までは同じように出せないんです」と遠山取締役。
たとえば、接点に使われる金属部品は、金型作りも専門の正社員が行う。外注することが多い金型まで正社員による自社製というこだわりは、製品の最終チェックまで貫かれる。「同じ性能は出せない」という自信はここから生まれる。
「自分で作って、自分で売って歩く。開発も設計も営業も、私ひとりだった」という宮川社長は、信大工学部を卒業後、物理の教員、電気機械メーカーの技術者を経て独立した。
「特に国鉄のような企業は、信頼がなくっちゃ買ってくれなかったんです。はじめは、商品を持っていっても信頼されない。いくらデータを示しても信頼がないとだめなんです」創業当時、共立継器は発電所同士を結ぶ基地の緊急電源向け製品をつくっていた。「確実かつ安全に開閉できる装置が開発できないか」発展のきっかけは1965年、当時の国鉄の車両設計担当者からの依頼だった。
車両の電化が進んだ国鉄からの要望は、110V・10Aという大電流を完全に遮断するリレーだった。しかし、当時の小型リレーは電流が大きくなると火花が発生し、接点を離しても電気が流れてしまった。
火花を消すにはどうすればいいか、解決の糸口は身近なところにあった。
「これは使えるんじゃないか!」宮川社長が目を付けたのは、自分の子どもが遊んでいたおもちゃの磁石。当時、磁石といえば馬てい形のU字型が一般的で、「こんなに小さな磁石があるのを知らなかった」。
子どもたちの永久磁石を使って磁力で火花を吹き飛ばす実験を繰り返し、手のひらに納まる小型の新製品を開発した。「宮川は子どものおもちゃを取り上げて、リレーを作ったって言われるんですよ」と、宮川社長は笑いながら当時を振りかえる。
火花の問題は解決したが、さらに大きな課題があった。電車のドアに求められる高い安全性だ。
走行中にドアが開いてしまったら事故につながりかねない。通勤ラッシュの満員電車だったら大事故だ。「実績や信頼がないわけですから、求められる以上の安全性を確保して、きちんと示さなくてはなりませんでした」。
宮川社長は、振動を加えながら50個のリレーを百万回作動させるという試験を重ねた。「使われる場所を考えたら当然のことでした」。こうした独自の厳しい検査をクリアし、実用を積み重ねることで、信頼を高めていった。
現場での作業を見つめる、遠山浩之取締役。
列車のドア開閉用のリレー。赤と白の磁石が火花解消のカギとなった。
金型から設計・組み立て、検査までを正社員が行うことが「信頼」のものづくりにつながっている。
共立継器の製品は、鉄道車両の他に、重い荷物を運ぶフォークリフトや停電時にビルの電源を切り替える装置などに組み込まれている。これらはすべて、一度作られたら、交換することなく、何十年にもわたって使われ続ける。
「商品の性能が人命にかかわります」宮川社長が言うように、何万回の動作を何十年間続けても壊れない「信頼」があるからこそ、共立継器が市場でオンリーワンの地位を保ってこられたのだ。
鉄道車両で使われるリレーは国内のほぼ100%、停電や火災時にビルの電源を切り替えるスイッチは国内シェア60%、電動式フォークリフトで使われるコンタクター(電磁接触器)は、国内シェア100%を誇る。
半導体などデジタル部品には置き換えることができない「アナログな技術」。デジタル全盛の時代にあっても、需要は失われることなく、むしろ増え続けている。
単純な仕組みでありながら他ではまねできない製品に仕上げるため、現場のひとりひとが責任を持つ。ニッチ(すきま)市場での共立継器の驚異的なシェアは、「信頼」を維持し続けるための日々の取り組みの成果と言えるだろう。
接点の圧力など、ひとつひとつ検査され出荷される。
ビルや発電所などで使われる大型のリレーも、基本構造は半世紀かわらない「アナログ技術」だ。
共立継器株式会社
長野県諏訪郡下諏訪町4684番地1 TEL:0266-27-8910
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