[サイプラススペシャル]28 光の技術で、未来をひらく 新たな市場を創造するヒューマンパワー

長野県諏訪市

日東光学

カメラに携わってきた光学メーカーが
その技術力で新たな領域へチャレンジ!

 諏訪湖ICから自動車で約10分、日東光学の本社事務棟は大正ロマンの趣き漂う佇まい。ここのショールームには、懐かしい35mmフィルムカメラや交換レンズがずらりと陳列されており、光学機器の中でもカメラ分野を得意としてきたことがわかる。
 だが、この分野だけにとどまらず、いま、長年培ってきた多彩な技術が、セキュリティーシステムやLED照明看板、自動車関連など新たな分野へ大きな広がりを見せているという。光学メーカーとしての積極果敢な挑戦に、ぐぐっと迫ってその真髄をズームアップしてみよう。

「光の技術」が生きる分野、そこが新たなマーケットになる

セキュリティーシステムに光学技術が大きく貢献

 「フィッシュアイ」というレンズをご存知だろうか。まさに魚の眼のように、180°近くまで視野が大きく広がっているレンズだ。コンビニエンスストアなどの防犯用監視CCTVカメラには、より少ないカメラ数で、より広い範囲を撮影するために、このような超広角レンズが使われている。
 しかし、超広角レンズにはひとつ弱点がある。中心部はしっかりと写るのだが、周辺部になると歪みが出てしまうのだ。周辺部までしっかりと映し出す、歪みが少ない広角レンズの登場が待たれていた。特に、防犯対策の先進国アメリカでは、低歪曲で高性能な監視カメラが切望されていた。
 日東光学は、そんなニーズを捉えて米国企業との共同開発によって、驚くべき性能のレンズを生み出した。超広角でありながら歪みの少ないこのレンズは、いま、シーアレンズ(Theia Lens)という名で実用化されている。右のふたつの写真を見較べていただきたい。従来の広角レンズと較べた場合、すみずみまで歪みが少なく撮像できるシーアレンズの性能は、一目瞭然だ。


LED照明という新分野にもっと「光」を!

 日東光学は「光」を巧みに操る技術をLED照明という分野にも押し広げた。一般的にLED (エルイーディー:Light Emitting Diode) と呼ばれている半導体素子は、従来の白熱灯などに比べて長寿命かつ低消費電力で稼動するため、環境にやさしい光源として期待されている。ところが、豆電球よりも小さいLEDによって広告看板のような大きな面積を明るくするためには、たくさんのLEDを用いる必要があり、かえって電力消費量が多くなってしまう。
 日東光学は、LEDが放つ直線的な光を均一に拡散、かつ明るさが得られるような特殊なレンズの開発に挑戦した。そして昨秋の展示会で発表され話題を集めたのが、このSRCレンズ(Scattering Ray Control Lens:LED照明用拡散レンズ)だ。例えば、1200mm×600mmの看板を照らす場合、SRCレンズを10個用いれば、25Wの消費電力で2000lx(ルクス)の明るさが得られる。従来は、同じ大きさの看板で2000lxの明るさを得るためには、100個程度のLEDを用いる必要があり、消費電力も35~80Wだったという。LEDの光を今までにない高度なレンズ技術によって、経済的かつ実用的な看板照明にぐんと近づけたのだ。

+αの提案力で、どんな課題をもクリア

 TheiaレンズとSRCレンズは、日東光学の最新の技術成果であり、業界にセンセーショナルな話題を巻き起こした。どちらも、光学技術がメインにはなっているが、それだけでは、このような商品開発は不可能であった。顧客ニーズはどこにあるのか、マーケットはどこを向いているのか。営業ではなく、開発設計部門が直接、顧客と対話することからブレのない製品開発を始めて、金型製造、表面処理、量産から品質管理まで一貫した体制のもと、部門を越えて必要な技術を融合してきたからこそ成しえたオリジナル製品である。これまで「世界の下請け」として培ってきたノウハウや「光の技術」を携えて、さらに時代に先駆けた+αの提案力を持つことで、顧客製品の競争力を増すコストパフォーマンスの高い量産品から、ハイエンドなフルオーダーメイド品までを生み出している。

超広角なだけではなく、解像度も5メガピクセルと高い。

上:Theiaレンズ
下:広角レンズ

左:SRCレンズの明かり
右:透明レンズの明かり
SRCレンズにより均一で明るい
照明が可能になった。

個々の技術を極めながら深めることで、応用分野を拡大

派生した技術が自動車産業で開花

 これまで見てきたように日東光学は光学機器メーカーとして、大なり小なりレンズに関係している(もしくは、しそうな)分野へ積極的に進出している。ごく自然な流れとして、それは納得できる。だが、そのような結びつきとは一見無縁の仕事へもチャレンジしていることに驚かされる。例えば、自動車のダッシュボードに搭載されるAV機器やカーナビ周りのパネルへの塗装。クラス10000を誇るクリーンルーム内で、自動塗装ロボットを動かし、高品位なUVコーティング塗装を施しているのだという。
 日東光学と自動車産業、何の脈絡もないようではあるが、接点は自動車のヘッドライト。ヘッドライトには、ランプの光を効率よく集光、反射させるリフレクターと呼ばれる光学的な部品があり、このリフレクターはアルミが蒸着されているため酸化防止のためのコーティングが必要だった。このコーティング処理も日東光学がもつ1つの技術。自動車メーカーは、やがてカメラ製造で培ってきた高品位な塗装技術を知ることになり、塗装のみの仕事も発注するようになる。しかも、それは片手間にはできない、さらに高い品質と技術レベルが要求されるものだった。
 「もともとカメラづくりに要求される塗装や表面処理技術は、精度が高く、品質チェックの厳しいものでした。ですから、どんな塗装の依頼が来ても大丈夫だという自信があります。うちの部署に、不可能とか、出来ないという言葉はないんです」。光機製造本部表面処理部の八町課長は、熱く語ってくれた。

限りなき前進、絶えざる前進

 新分野へチャレンジする日東光学の原動力とはいったい何だろう。
 その原点を知るには、戦前まで遡る必要がある。明治時代の製糸業が大元のルーツではあるが、光学メーカーとしての始まりは昭和18年。製糸業から未知の分野である光学機器へ一大転換を図った。当初は、レンズ研磨が中心だったが、やがてレンズ製造に関するあらゆるノウハウに磨きをかけていった。プラスチック・レンズ製造にもいち早く着手し、金型設計から量産までのプロセスを構築。独自ブランドのレンズやカメラ本体の製造まで幅広く手がけるようになる。レンズというひとつの部品から始まり、カメラという完成品まで一貫して自社内で製造してきた。製造業として、単に部品をパーツとして扱うのではなく、製品の全体像を見極めながら、光学部品製造に立ち向かっていく。このような日東光学らしいものづくりの姿勢は、いつも時代の新しい光を求め続けることを原動力に、時代の変化に対応する努力を怠らず、絶えず変化を身体で感じてきたことで育まれたのだろう。

全てを任せられる、その総合力が強み

 現在、世界的に有名なカメラメーカーの製品に使われているカメラレンズおよびレンズ群で構成される部品(レンズユニット)を日東光学は数多く手がけている。最新のデジタルカメラはもとより、一眼レフの交換用広角レンズから望遠レンズまで、その守備範囲はひじょうに広い。日東光学のブランド名は出さずに技術と製品を提供している。いわゆるOEM(Original Equipment Manufacturingの略)メーカーであり、その長年の実績と信頼関係から、発注メーカーとの絆は固く結ばれている。
 メーカー側が日東光学に期待しているのは、長年培ってきた光学機器の高度なノウハウや技術力だけではない。数多くの光学設計者を擁している日東光学だからこそ、設計段階から依頼しても、その要求に対して各部門が時代に先駆けた提案をもって、しっかりと応えてくれる。しかも、カメラ本体まで製造していた日東光学ゆえに、レンズまわりの製造技術に関してもずば抜けたクオリティを持っている。つまり、メーカー側から見れば、レンズ周辺に関することなら、設計から金型製造、塗装、量産まで高度な品質管理のもとに、すべてお任せできるということ。日東光学のその総合力こそが魅力なのだ。

困難と言われていた「陶器」へも独自技術で塗装を可能にした。

レンズの解像度を測定。200インチもあるスクリーンに投射する。


グッドヒューマンカンパニーの実現をめざして

オンリー・ワンではなく、ナンバー・ワンをめざす

 「うちの技術は、現在、世界的に見てもトップレベルです。設備にしても、これだけのレベルを持っている工場はきわめて少ない」と金子睦臣社長は胸を張る。
 「近年は、このレンズ業界でも台湾や中国が力をつけてきており、3年先、5年先には脅威になるかも知れません。でも、結局、技術のレベルアップの鍵を握るのは『人』だと思います。オンリー・ワンという表現が一般的によく使われますが、私が社員に対して言うのは『ナンバー・ワンをめざせ!』と」。若いスタッフがいかに頑張れるか。技術的にも人間的にも成長できるか。経営者として、そういう環境をきちんとつくれるかどうか。その辺が重要なポイントだと語る。

経営意識を高め、風通しを良くするプロジェクト

 実は、日東光学の社内には通常業務による縦割りの組織構成とは別に、経営の諸問題について討議するための社内横断的なプロジェクトチームが存在する。若手中堅の社員も参加して、役員会への提案事項をまとめる。さらに、このプロジェクトチームのメンバーが中心になり、各部門からも意見を聞いて、問題意識を共有する。
 「次を担う40代はもちろん、20代30代の社員にも、経営をしていく意識や考えを持ってほしい」。金子社長のそういう考え方は、企業理念にも現れている。

先進的な技術に挑みながら、人間力に磨きをかける

 日東光学は、企業理念として『グッドヒューマンカンパニー』を掲げている。これは、現状に甘んじることなく、つねに先進的な技術に挑戦しながら、自らの人格を高めていくことによって実現されるという。
 今回の取材を通して数多くの方に接したが、どなたからも情熱的で前向きな発言を聞くことができた。凄い技術を持っているのに、あくまでも謙虚。まさに人間中心主義。日東光学は、この技術力と人間力を武器にして、これからもさまざまな分野へ果敢なチャレンジを挑み続けるに違いない。

1人1人の眼差しに「ナンバーワン」を目指す姿勢が現れている


【取材日:2009年2月20日】

企業データ

日東光学株式会社
長野県諏訪市湖南4529 TEL:0266-57-4801
http://www.nittohkogaku.co.jp/