[サイプラススペシャル]29 5つの「異分野」が強さを発揮する多角化企業 建築資材からフリーズドライ食品まで

長野県高山村

アスザック株式会社 

他ではやっていないものを提案し続ける
「異分野多角化」の強さを発揮する信州企業

 アスザックグループは、建築資材からフリーズドライ食品まで、実に5つもの「異分野」が集結した多角化企業だ。コンクリート・アルミ鋳造・セラミックス・センサー・食品と5つの分野は独立した事業体でありながら、相乗効果を活かし、それぞれが先端技術を追求している。
 たとえば、独自開発した真空鋳型成型技術=「Vプロセス」と名づけられた鋳造手法は、世界的な特許料ビジネスを確立するほどの画期的な技術となった。
 長野県高山村に本社をかまえるローカル企業でありながら、世界に誇る高い技術を培ってきたアスザックグループ。世界経済の大きなうねりの中で、異分野多角化の強さを発揮する信州企業の原動力は、「他ではやっていないものを提案し続ける」挑戦の姿勢だった。

「新しいものを創りだす」異分野多角化の推進力

どこにも負けない一貫生産

 眼下には須坂・長野のまちなみ、かなたには北信五岳、その向こうには北アルプスの勇壮な姿を望む信州・高山村。長野電鉄須坂駅から、紅葉の名所として知られる松川渓谷へ続く道を上ること車で15分。高山村・中山にひときわ目立つ八角形のメタル調の建物がアスザックの本社だ。

 善光寺平の東側に位置する斜面に広がるのどかな山間の村。コンクリート資材が置かれたアスザックの広い敷地内には、入り口で私たちを迎えた特徴的なビルをはじめ、カーテン状やレンガ造りなど近代的な美術館を思わせる建物群が並ぶ。これらは「デザインから製造まで一貫したサポートを実現」するアスザックを象徴する景観ともいえる。
 アルミ鋳物業界では、「鋳造なら鋳造だけ」というように分業化が一般的だという。しかし、アスザックは「デザインから型製作も自社内、さらに鋳造品の精密加工や塗装まで、素材から一貫して全部やっています」と、久保正直社長。「リードタイムも長く苦労も多いが、ここで作り上げた力はどこにも負けない」と、社長も自信を示す。

他ではやっていないものを提案し続ける

 「お客様より先に進んでいないと、お客様にも提案できない」。久保社長は現在55歳。33歳から20年以上にわたり、世界企業「アスザックグループ」を率いてきた。
 語り口は柔和だが、スクエアに縁取られたメガネの奥の眼光は鋭い。「他ではやっていないものを提案し続けることが我々の使命です」。

5つの分野が終結した企業体

 自ら「異分野多角化」を標榜するアスザックの事業は、大きく分けて5つの分野から構成される。

   コンクリート製建設資材などの「インフラエンジニアリング事業部」、アルミ建材や精密アルミ部品を手掛ける「アルミ事業部」、高機能セラミックスの「ファインセラミックス事業部」、気象センサーや農業・防災用ナビゲーターを専門とする「P&D事業部」のアスザック本体の4部門に、フリーズドライなどの乾燥野菜で全国トップクラスの実績を誇るアスザックフーズと、異分野である5つの事業は互いに独立している。
 核となる5事業に、ベトナムをはじめ海外に展開する6社と関連事業を加えた計10社・7事業部がアスザックグループの全容だ。国内だけでも600人以上、海外を含めると1500人以上の社員数を抱え、年間売り上げは120億円を超える。

 アスザックの異分野多角化展開の推進力は「新しいものを創りだすコト」。創業から続くポリシーだ。

長野県・上高井郡高山村にあるアスザック本社。外観も中も、まるで近代美術館

久保正直社長。語り口は静かだが、熱い情熱を感じさせる。

5つの異分野がアスザック発展の強さとなっている。

「他にはない」独自の技術で成長

「人と違うものを創り出したい」創業の想い

 「人と違うものを創り出したい、という創業者の想いが始まりでした」と、久保社長。
 旭高圧スレート須坂工場の工場長だった現社長の父・久保好政会長が独立し、側溝などの土木・建設用コンクリート製品の製造販売を開始したのが1956年。1970年には、営業が困難となった鋳造会社と野菜加工工場の経営を相次いで引き受け、多岐にわたる事業へ展開していく。
 鋳造は現在のアルミ製エクステリア、野菜加工はドライフーズへと発展した。

 異分野への挑戦の中で、アスザックは「他にはない」独自の技術で成長した。その代表が、鋳造技術の「Vプロセス」と、コンクリートの「バイコン」だ。

失敗から生まれた画期的技術「Vプロセス」

 積極果敢な挑戦の賜物である真空鋳型成形技術=「Vプロセス」。  久保社長が「鋳造の難しさを知らなかったから失敗し、失敗があったからこそ生まれた」と語る新工法は、まさに画期的な発明だった。
 1970年、アルミ分野に進出したアスザックは、新技術を取り入れようと設備投資を行なった。しかし「大失敗してしまいました。そこで困り果てて、工業試験場の開発者と苦労に苦労を重ねてできたのがVプロセス」と、久保社長。1971年、長野県工業試験場と共同で真空を用いた鋳造方法を開発した。

   鋳造の現場において、独特のにおいとむせるような煙は、いわば宿命だ。高温で溶かした金属を型に流し込む鋳造。従来は砂に樹脂を混ぜて型をつくるため、樹脂が溶けだしてしまう。
 しかし、アスザックのアルミ鋳造の工場では、においも煙もほとんど感じられない。においと煙の原因となる樹脂を使わないのだ。型を作るために、砂にフィルムをかぶせ、真空状態にして固める。においや煙が出ないだけでなく、真空を解除すれば砂は再利用できるため、余計な廃材が生まれないという利点もあった。

 環境面のみならず出来上がりの美しさも画期的だった。フィルムでかたどる手法は、従来の型に比べ、表面が美しく、模様の再現性に優れ、さらに、より大きな製品加工が可能になった。
 今までは金属を叩いてつくっていたエクステリアに、革命を起した新技術。「一気に日本中に広がり、世界でも使われるようになっていきました」。

世界を舞台に特許料ビジネスに発展

 「開発は成功しましたが、私たち1社では世界に打って出る力はありません。だから、いろんな企業に使ってもらおうと考えました」。
 画期的だったのは、製法だけではない。Vプロセスで取得した特許を自社内で独占せず、世界各国へ技術供与したのだ。特許許諾管理業務、つまり世界中のメーカーに技法を公開する代わりに「特許料」を貰うというビジネスモデルを確立する。
 「当時の日本は、まだまだ世界に技術料を払う立場。だから、当時は日本の技術的トピックスになりました」。現在、特許料ビジネス自体は終了しているが、金型から加工、塗装やデザインまで一貫生産できる技術の蓄積を活かし、世界を舞台にエクステリア製品を展開している。

フィルムと真空で型をつくる真空鋳型成形技術=「Vプロセス」

極力水分量を減らした「バイコン」。さらさらの原料が振動と圧縮でコンクリの塊となる。

アスザックの製品は私たちの暮らしを支えている。


「価値ある企業、価値ある人生」を目指す

耐久性は従来の2.5倍以上のバイコン

 アルミ以外の、コンクリート、セラミックス、センサー、ドライフーズの分野においても他との差別化を図っている。その一例が、コンクリート製造におけるバイコン=バイブレーション・コンプレッション製品だ。

 バイブレーション・コンプレッションを直訳すれば、振動・圧縮。
 水を混ぜセメントを固めるコンクリートは、日本国内では見た目がよく、作りやすいという理由から、水分を多めに混ぜる工法が多い。しかし「余分な水分は、コンクリートの強度を弱めてしまいます。私たちはコンクリートに必要なギリギリの水分しか与えません」。

 地響きのような振動音の響く、コンクリートの加工現場。
 軽く水分を含んだ灰色の砂を、型に盛り込んでいく。砂のように見えるのは、極限まで水分を減らしたセメント。さらさらとした印象だ。しかし専用の機械で上部から圧力をかけながら激しい振動を与えることおよそ3分。砂のように見えたセメントは、しっかりとコンクリートの塊となった。手際よく作業が進められるが、水分量から振動の与え方まで熟練技術を要する。アスザックは日本で最も古くからバイコン製品を製造している。

 振動とプレスで固められたコンクリートは「耐久性は従来の2.5倍以上」という。ヨーロッパを中心に世界で用いられる技術だが、ざらざらとしたコンクリート肌が日本国内での普及を阻んでいる。「日本は、理屈よりも感情。コンクリートをつるつるぴかぴかだと思っているヒトには『こんなのコンクリートじゃない』と言われました」と、久保社長は笑った。
 バイコン製品に関して40年以上の技術を蓄積してきたアスザック。現在では、下水道管やマンホール、歩道ブロック、側溝などで使われるようになっているが「まだシェアは低い」。 しかし、「同じコンクリート製品なら、バイコンの方が間違いなくいい。より良いものを提供したい」。 「どこよりも強い思いで地域社会のインフラ整備に貢献するのがミッション」という久保社長の言葉に、穏やかだが熱意がこもる。

言われたことしかやっていないと、自分のことも決められなくなってしまう

 「お客様より先に進んでいないと、お客様にも提案できないんです」。
 アルミ鋳造のVプロセス、コンクリートのバイコンだけではない。
 たとえば、他に先駆けて高純度大型化を実現したセラミックスや、「無添加スープ」「牛乳で戻すデザート」など次々と新商品を世に送り出すドライフーズなど、アスザックの各事業は「今まで世の中になかったものを提供し続けています」と、久保社長も自信を示す。

 「言われたこと、求められたことしかやらないと、自分のことも自分で決められなくなってしまう」。経済がグローバル化し、うねりが大きくなればなるほど、「人任せでは生き延びられない」と、久保社長は考える。
 世界同時恐慌の中で、セラミックスなど「かつてない危機的状況」というが、「不景気はこれまでも経験している。でも、食品がダメなとき、コンクリートが良かったりと多角化のメリットを活かせます」。
 どん底の景気だが、アルミ部門は、今、明るい兆しが見えてきたという。

大事なのは「やり続けること」

 異分野多角化のメリットは、リスク分散だけではない。「要素技術では共通する部分が、結構ある」。表面的には繋がらない異分野だが、そのひとつひとつを構成する個別の技術には共通する要素が多く、グループ全体で相乗効果が得られるというのだ。
 たとえば、フリーズドライ設備はP&D事業部の設計で、制御部も自社製だ。また、セラミックスの成形には鋳造の技術が転用される。「グループが協力し合い、いろいろな角度でモノを見ていくことで、より良いものが生まれます」。

 それぞれの事業で、新たな商品アイデアが生まれる環境。「人材が育っていくのが喜び」と、久保社長は言う。
 なかでも注目は、水稲の「いもち病」を予測する観測装置だ。気温・湿度、さらにセンサー部門が開発した「葉濡れセンサー」を統合させたシステムで、「低コストで低農薬な稲作が可能になる」と期待を寄せる。

 「失敗も山ほどあります。でも、やり続けることが大事」。自分で考え、自分の足で立たなければ「やりがいにもならない」と久保社長。「価値ある企業、価値ある人生」を目指し挑戦を続ける、社長の静かな闘志が感じられた。


【取材日:2009年3月5日】

企業データ

アスザック株式会社
長野県上高井郡高山村大字中山981 TEL:026-245-1000
http://www.asuzac.co.jp/