[サイプラススペシャル]32 お客様の声で進化する太陽のパイオニア 30年のロングセラー「サンジュニア」

長野県須坂市

サンジュニア

環境商品のさきがけ太陽熱温水器「サンジュニア」
新商品開発のカギは「アフターサービス」

 オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策や、13.9兆円という過去最大級の2009年度補正予算などに盛り込まれて、今、脚光を集めている太陽光システム業界。
 しかし今から30年近く前から、「太陽エネルギー」を売りにしたものづくりを続ける信州企業がある。須坂市に本社を構えるサンジュニアだ。
 太陽の熱でお湯を沸かすというシンプルな発想。空気がきれいで日照時間が長い信州でロングセラーとなっている太陽熱給湯システム「サンジュニア」は、いま「新たなエネルギー源」として大きく進化しようとしている。

時代を先駆けた太陽熱システム

背水の陣「28、29、サンジュニア!」

お風呂にはいった子どもたちが、数をかぞえる。「・・・28、29、サンジュニア!」30代以上の長野県民にとっては懐かしいテレビコマーシャルだ。1980年代にオンエアされたこのCMを作ったのが、当時「太陽熱温水器」の設置販売事業をはじめたばかりのサンジュニアだった。

「あのCMは、背水の陣だった」。

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そう語るのは、サンジュニア西原秀次(59)社長。創業は1982年、現在のように地球環境やエコロジーが声高に叫ばれる以前から、屋根に設置するパネルでお湯を沸かす仕組みを独自に設計・開発し、長野県内向けに販売を開始した。
 「商品を出したからには、後には引けない。決死の覚悟でのテレビコマーシャルでした」。「子役タレントを使う費用もない」ため、CMに出演した男の子と女の子は「ふたりともウチの子です。おもちゃを買ってやる、と無理やり出しました」。男の子は成長し、現在は技術開発部長としてサンジュニアの技術開発を支えている。

時代を捉えたテレビCM効果

 湯船に沈み数を数える子どもという、どこの家庭にもあった光景を切り取り、数字をからめた語呂合わせで人気を集めたこのコマーシャルは、昭和50年代の長野県のくらしを代表する広告だった。

「農協さんと協力できたことが大きい」と社長がコメントするように、販売においてJA全農と提携することで、農村部を中心に販売を伸ばした。「冷涼な長野県は、燃料費に対するコスト意識が高いし、農業など太陽に近い生活をしている方が多い。太陽のエネルギーを有効に活用するという商品コンセプトがヒットの要因」。

新しい生活にマッチした「サンジュニア」

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 時代を捉えたのはCMだけでなかった。商品自体も時代にマッチングした。
 この時代の長野県は、首都圏から少し遅れて「核家族化」が進み、兼業農家や「三ちゃん農業」(お父さんはサラリーマン、残されたおじいちゃん、おばあちゃん、おかあちゃんが農業を行う)家庭が増加する中、「我が家にもシャワーが欲しい」という市場ニーズが高まっていた。

 サンジュニアが提供する商品は、太陽の熱を利用した家庭用給湯システム「サンジュニア」。シャワーの他にも、洗面所・キッチンなどでお湯の使用が可能となる。燃料費を節約した「お湯のある快適な暮らし」を提案できる画期的な商品だった。

 テレビでの影響もあり、創業からわずか1年後の1983年には、国の実施するソーラーシステム普及促進年間キャンペーンで全国1位を獲得。「以来、販売施工高は日本一を継続中」という太陽エネルギー活用ビジネスとしては老舗中の老舗と言える。

 「ヒトとのつながりを大事にすること、時代にマッチしたサービスを提供すること」この2つは、今でも西原社長の経営方針の核となっている。

30年来のベストセラーは進化を続ける

太陽光発電でも時代を先駆る

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 今、サンジュニアには追い風が吹いている。「太陽光発電」だ。 「工事が追いつかないほど」と西原社長から笑みがこぼれるように、家庭を対象とした国や市町村の補助制度拡充にともない、太陽光発電装置の販売が急速に伸びている。

 サンジュニアが太陽光発電システムの営業をはじめたのは、1997年。時代を先駆けた太陽エナジー活用のパイオニアは、太陽光発電にもいち早く取り組んでいた。「いちばんは、お客様からの声です。屋根にパネルをのせる発想は既存商品と同じ。他の企業さんより早かったのはお客様からの声があったからです」。太陽光発電に関しては「売上が昨年の5倍以上のペース」という。

「熱」利用の性能は「発電」をしのぐ!

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 「太陽光発電の普及が進むのは嬉しいことですが、私たちが主力と考えているのはやはり『電気』でなく『熱』です」。
 「明らかに、性能が優れているから」。太陽光発電より、太陽熱給湯システムに力を入れる理由は明確だ。「設置コストは3分の1以下、エネルギー変換効率は3~4倍」という社長の言葉からも、自社製品に対する自信が伺える。

 パネルの値段は下がったとはいえ太陽光発電を家庭で取り入れる場合、200万円以上の費用負担となることが多い。一方、太陽熱給湯システムは60万円程度から設置可能だ。また、現在の技術では光を電気に変えるには大きなロスが発生する。エネルギーの変換効率の面からみれば、熱をそのまま活用する給湯システムに圧倒的に分がある。

長野県は最適地

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 光を受け輝く千曲川の川面。コトコトと走る1両編成の屋代線。
長野電鉄須坂駅に程近いサンジュニア本社の屋根に上ると、善光寺平には燦燦と太陽の光が降り注いでいた。長野県は「日照時間全国トップクラスです。太陽エネルギー活用には最適地」なのだ。

 「もともと電子部品メーカーの倉庫」だった建物を改築した本社工場の屋上には青く輝くソーラーパネルが並び、広い工場内では集熱パネルの組み立てが行われていた。
 ものづくりの現場は、地響きのような音を立てる大型の機械や、油にまみれて旋盤と格闘する姿などは見られない。しかし、手作業で組み立てを行う従業員によって、「お客様からの要望」をもとに日々「改良を加えている」という。

改良を重ねる「ものづくり」現場

30年前から格段に進歩

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 「30年前から格段に進歩しています」
現場で説明するのは、西原弘樹技術開発部長。あのテレビCMに出演した男の子だ。「重さも2割以上軽くなり、集熱効率は110%にアップ、コストはむしろ下がっています」。
 青く輝く集熱板のコーティングはドイツで行い、特殊な不凍液が循環するパイプも海外で生産するなど、1畳ほどの大きさのパネルには世界中の技術や特許が詰め込まれている。

 屋根に取り付けられるシステムは、銅管と帯状パネルで構成される。パネルで熱を集め、銅管に熱を伝える、特殊な不凍液を循環させる仕組みだ。「昔の製品はもっと黒かった。今は、濃いブルー。見た目では発電パネルと分からない」と技術部長が言うように、コーティングひとつとっても進化している。

「お客様の為」に改良を続ける

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 「ここは撮影禁止です」技術部長が厳しい表情になった。特殊な溶接加工が行われる現場だ。「特殊コーティングで集熱効果はアップしました。でも、銅管がうまく付かなってしまった」。パネルの進化が、溶接という新たな技術的課題となったという。
 「試行錯誤の結果、レーザー溶接で問題を解決しました」と、技術開発部長。「開発に2年かかった」という溶接技術は、完全な企業秘密だった。

 しかし、なぜ進化する必要があるのか?
 「同じものを売っていたら、使ってくださる方々に申し訳ありません」長年愛用するユーザーも多く、定期的なメンテナンスを行いながら「20年以上前に入れた商品でも、部品交換ができる」と言う。
 こうした改善の積み重ねこそ、30年のロングセラーの要因のひとつである。


「企業の寿命は30年」のジンクスを覆す経営力

 「ものづくり」から見たサンジュニアの凄さのひとつは、創業からおよそ30年「太陽熱」のほぼ単一商品で成長してきた点だ。

 世間一般、とくに経営学では「企業の寿命は30年」と言われる。
 これは誕生から成長し成熟し衰退するまで、ひとつの商品の寿命が平均30年であることに起因する。平面ブラウン管やCD、MDなどを例に挙げるまでもなく、生活家電の電子化が進んだ近年ではサイクルはより短くなる傾向にある。

 太陽光発電を最新のデジタルにたとえるなら、サンジュニアの太陽熱温水器は昔ながらのアナログ製品。めまぐるしい栄枯盛衰の時代において、サンジュニアは「太陽の熱を利用してお湯をつくる」というシンプルなシステムを30年間販売し続ける。


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アフターサービスで商機をつかむ

「偉業」のウラにあるのは...?

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 単一商品を30年という「偉業」を達成したサンジュニア。
 西原社長が「ウチは、製造だけではありません」と言うように、会社概要によるとサンジュニアの事業内容は「太陽熱給湯器および太陽熱暖房機器などの製造・卸・販売、ならびに設計・施工」とある。つまり、開発から製造、販売、アフターサービスまで一貫したサービスを提供している。

 この「一貫体制」こそ、偉業達成のカギといえる。
 サンジュニアは太陽熱温水器を作るだけの会社でも、設置するだけの会社でもなく、アフターサービスを通じて、定期的に顧客であるご家庭を訪問するというスタイルで業績を伸ばした企業だ。実際、「開発同様に、もっとも力を入れているのはアフターサービスです」と社長はいう。

お客様の声を生かした改善

 たとえるなら、「ディーラーまで兼ねそろえた自動車メーカー」。
 クルマの販売のみを行うディーラーは失敗する。車検や定期検査、タイヤ交換、エンジンメンテナンスから洗車まで、一度クルマを買えばディーラーと顧客は「末長いお付き合い」が一般的である。

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 さらに、「ハンドルが重い」「荷物があるとドアが開けにくい」などユーザーからの指摘をすぐに改善できる開発・設計部隊が併設されている...それが「ものづくり企業」サンジュニアなのだ。アフターサービスからの声を、ものづくりの現場に反映する姿勢は、前述の通りである。

アフターサービスが新規事業に繋がる!?

 「アフターサービス重視」の姿勢がもたらしたのは、商品開発だけでない。新たなビジネスを生んでいる。

 太陽光給湯システムを導入するためには、屋根への設置、ボイラーなどの設備、さらにシャワーやキッチンなど「水まわり」を手がける必要がある。サンジュニアは、お風呂のお湯を沸かすシステムだけでなく、リフォームを業務とした。
 定期的にご家庭を訪問するアフターサービスによって、既存顧客に対して機器のメンテナンスはもちろん、たっぷりのお湯から生まれる快適な暮らしの提案を行うことで新たな事業の柱が生まれた。

 さらに「お客様の声」から、新たな商品も開発されている。
 1989年に発売し大ヒットした水道凍結防止ヒーター用節電器「節電サーモ」は、「日中まで電源が入りっぱなしでもったいない」という家庭の声から生まれた。1996年に開発した融雪装置「消雪システム」も人気を集めているという。

 アフターサービスを充実させることで、新たな事業形態を確立したからこそ「企業の寿命は30年」説を超えて、成長を続けているのだ。

ユーザーからの高い満足度

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 このビジネスモデルで最も重要なのは、「顧客との信頼」だ。

 「長野県の普及率はまだ6%程度」だが、「これ以上、長野県内で設置件数を増やすためのPRなどは考えていない」と、西原社長は言う。
 想像するに、サンジュニアがもっとも大事にしているのは「お得意さま」。既存顧客への手厚いサービスを経営の核に据えているのだろう。
 裏返せば、一度サンジュニアの商品を導入した家庭から、非常に高い満足感を得られている証左でもある。

 サンジュニアがサービスを行うのは、長野県内の他は、山梨・群馬・栃木と新潟県の一部に限られている。「基本的に、その日のうちにサービスができない地域には販売・施工していません」と社長の言葉からも、優良顧客に優良サービスを行う姿勢がうかがえる。

「無尽蔵のガス田」サンジュニアの野望

「長野発の技術」が東京で採用

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 顧客のニーズから生まれた新商品が、サンジュニアの新たな歴史を作ろうとしている。

 「この事業が成功すれば、東京に『無尽蔵のガス田』ができる」と西原社長が強調するのが、東京都との共同事業だ。
 ここ数年、売上高が約15億円前後で推移するサンジュニアが「当面の目標は年間10億円」と言うから大きなプロジェクトだ。

 「きっかけは、東京都」と社長。「オリンピック誘致など、都市全体としてのCO2削減が必要な東京と一緒になって、新しい都市向け商品を開発」したという。

顧客ニーズから生まれた「小型パネル」「熱量計」

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 日本の未来を変えるかもしれない巨大プロジェクトも、顧客ニーズから生まれた新商品が原点にある。それは、小さな屋根にも置ける「小型ソーラーパネルシステム」と、CO2削減量がひと目で分かる「熱量計」だ。

 「屋根の形が複雑で大型パネルが設置できない」「蓄熱層を置くスペースがない」という現代家屋のニーズから生まれた新商品だ。従来品は、屋根のパネルのほか、地上の蓄熱タンクが必要だった。新商品は「パネルとタンクを一体化」し、さらに「大きさも約半分」にしたという。

 「もともと、どのくらいパネルに熱が貯まったか見るための温度計からの発想」という熱量計は、太陽熱の利用度合いを「熱量」と灯油と比較した「CO2削減量」で測定することができる。
 環境省の補助を受け開発した熱量計だが、「須坂だからこそ完成した」と技術開発部長は言う。「センサー部分や、金属部品の加工など、地元企業の力を活用させていただいています」。信州発のものづくりが、日本のエネルギー事情に一石を投じるかもしれない。

広がる夢「東京にガス田」

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 夢物語にも聞こえる「無尽蔵のガス田」だが、根拠がある。

 約600万世帯の人々が暮らす東京都は、100%都市ガスが普及し、多くは給湯と暖房などの熱として使われる。だから、「ガスと併用したソーラーシステムが導入できれば、すごいことになる」のだ。

 東京都の補助制度はCO2削減の実績を買い取る名目で、一般家庭向け太陽熱システムで約20万円の補助金が設置時に支給される。サンジュニアの都市向け新商品は工事費込みで約70万円。都は、太陽光発電と併せて2年間で4万台の新設を目指している。
「太陽光発電より、太陽熱は低コスト。家庭も東京都も、負担が少ないからチャンス」と西原社長。さらに「東京で実績ができれば、全国展開も」。

太陽システムのパイオニアが、長野県で30年間紡いできたものづくりの夢が、今大きく広がろうとしている。

【取材日:2009年5月20日】

企業データ

株式会社サンジュニア
長野県須坂市須坂1595-1  TEL:026-215-2600
http://www.sunjunior.co.jp/