長野県諏訪市
アスリートFA
諏訪市四賀、国道20号線を走ると、赤い「Athlete」の文字が見えてくる。一般的に「アスリート」というとスポーツマン、それも疾走するイメージである。ものづくりと疾走、2つを結びつけるその答えが、知的な意志を感じさせる2階建ての社屋の中にあった。
社長の山崎晃氏は66歳、(株)ミスズ工業を経て1988年3月に創業、現在は、従業員数82名、平均年齢33歳の若い技術者集団を率いている。
社名の「アスリートFA」のFAとはファクトリーオートメーションの略、生産工程における自動化システムのことだ。といっても、「生産工程の自動化システム」の機械を見たことがある人は、多くはないだろう。
山崎社長に話を伺った。「もともと、大学の機械科出身で、自動化に関心を持っていました。」スタートはセイコーエプソンの協力会社内でロボットエンジニアリング受託を始めた。「諏訪エリアだけでも協力会社はたくさんあるんです、その中でも一番にならないとね。」一番になるには、どうするか、親会社へ提案できる技術を開発すること、作り方そのものを変える提案をすることだ。関心があった生産工程の自動化技術で一番になる、社長の技術者としての誇りがのぞく。
1970年代、半導体が脚光を浴びていた。迷わずこの分野への参入を決意した。しかし、半導体そのものの生産は、いくつもの大手メーカーが既に実績を持っている。また、最終工程の製品検査の部分も資本が必要、とても大きなメーカーにはかなわない。残ったのは、後工程と呼ばれる組立工程、関心のある自動化技術も生かせる、経営者の目線が光った。
パソコン・携帯電話・自動車など、私たちのまわりにある半導体を使った製品の数々。詳細はわからなくても、その便利さ使いやすさから、技術の進化のスピードが、目覚しいことは十分理解できる。より軽く、より薄く、より小さく、そして処理するデータの速さと量に、進化を実感する。進化し続ける製品を組み立てる機械、難易度は高いが、アスリートFAのシステムが登場する。
一口に組立工程のシステム化といっても、各メーカーのニーズは各社各様、同じものは一つもない。一社一社の特注でシステムを開発する仕事は、大量生産によるものづくりとの共通点はあまりない。
「ニーズの最大公約数を知って、汎用機をつくっておき提案するのです。結果としては、カストマイズ、セミオーダーのシステムです。」「それと1台でも採算ラインに乗る方法でつくれ、一品で採算の合うものをつくれといっています」。山崎社長は話す。
日進月歩の半導体の業界でメーカーのニーズをつかみ、提案するためには、半導体の進化の先を行かなければならない。走り続けることが勝ち残るための絶対条件だ。
社員の7~8割は開発設計、製造部門に配属される技術者だ。「関係者以外立ち入り禁止」の開発室にはいる。扉を開けると同時に、英語のやり取りが聞こえてきた。それまでスペースとの雰囲気の違いにはっとする。「今、現場の長に許可を得ましたから、大丈夫お入り下さい。でも、この部分の撮影はNGです。」
パソコンに向かう一人ひとりの表情が、いきいきしている。これが、山崎社長がいう「好きでなければ続かない」、お客様の先を走る開発の仕事だ。
FA=生産工程の自動組立システムは、受注⇒設計開発⇒部品の製造⇒組立検査⇒納品で終わりではないという。納めたシステムで、メーカーが製品の製造をはじめるまで、つまり、望んだ精度や規格、スピード、コストも含めての生産がスタートできるまでは、アスリートFAの責任である。機器の取り付け方はどうか、部品材料はどうか、使い方の間違いはないか、納入したシステムを含めた製造ラインのすべてが、無事稼動するまでは、アスリートFAの仕事である。
取引先の工場が、海外にあるときはそこまで行って、設置の確認や使い方の指導も行う。様々な条件をクリアしてお客様に満足いただく、そこまでやるのが、アスリートFAの開発技術者なのだ。直接海外企業との取引をするが、海外駐在員は置けないので海外出張は多いという。
2007年、アスリートFAは「微小球対応はんだボールマウンタの開発」により第4回「新機械振興賞」を受賞している。専門的ではあるが、「業界で初めてボール振込方式により、量産で直径70μmのボールを12インチウェハ上に一括搭載を可能にした」という技術だ。70μmボールといっても、目には白い粉としか認識できない。粉をウェハの上に一括しておく、言葉でしか理解できない世界だ。
半導体のチップと基盤を接続するには、金の線を載せてつなぐ方法と、ボールでつける方法があるが、コスト、情報伝達のスピードの点で、ボールボンディングが優れているという。ボールを置く技術=ボールマウンタの技術は、ボールボンディングの基本、新機械振興賞受賞の理由だ。この分野のライバルは世界でも2~3社しかなく、その先頭を走っているのがアスリートFAである。
アスリートFAの最新装置は300ミリウェハーに直径0.06ミリのボールを220万個、正確に置く能力を持っている。世界トップの技術である。
このマイクロボールマウンタ搭載の機械の大きさは、巾3メートル強、高さと奥行き約1.7メートル、外形は意外にコンパクトである。ボールの確認は、画像処理画面、画像処理ソフトウェアはもちろん社内で開発したものだ。大きさや間隔が高速でチェックされていく。まさしくスピードの世界だ。
社屋の1階には、広い廊下に面して組立ブースがいくつも並んでいる。システムの開発はお客様ごとに担当チームを編成している。各ブースで進行している業務の情報の管理は、チームごとに徹底しており、厳しいセキュリティ対策がとられている。出入り口は一つ、広い廊下からは中の様子は全く見えない。
大きなシステムの組立が行われる場合は、仕切りがはずされ、2倍3倍のスペースが確保できるようになっている。クリーンルームが併設され、大きな出荷用の出口も用意されている。
昨今の経済状況の中では試作発注も多いそうだが、製造工程における自動化は、もっと進んでいくと山崎社長は考えている。人件費の安さのみで支えられている海外生産がいつまで続くかはともかく、自動化によるコスト削減は当然の流れである。そのときこそ、走り続けてきた技術が前に出る。
「3年くらいは先を走っているつもりだ」という山崎社長が、最大のライバルと考えるのは国内と台湾、韓国、トップアスリートの緊張感が言葉の端々にでる。「特許はもっているが、これは、あくまで防衛のためで、実際に特許で儲けることはない。」1台だけ購入して、そのノウハウをとられてしまうこともないとはいえない。常に走るしかない世界だ。
エンジニアリングの財産は人。1人前になるのに、5年、10年かかる。2001年からは中国人も採用している。優秀なエンジニアの確保のために墨田区にある東京事務所でも設計が出来るようになっている。テレビ会議システムも構築した。働きやすい環境がエンジニアを育てるのだ。
技術者を集め、技術を育てる、技術者である山崎社長の思いは格別である。「やってきて良かったと思うのは、どんな時ですか」の問いには、「完成したときでしょうねぇ。それと、部品をつくって終わり、ではないことです。海外のお客様と話すと目が広がります。働いても働いても楽にならずじっと手を見るという句があるが、働いてわが手を見ると技術力が手に残っていますよ。」の答えが返ってきた。そう語る山崎社長の手は大きな手だった。
アスリートFA株式会社
長野県諏訪市四賀2970-1 TEL:0266-53-3369
http://www.athlete-fa.jp/