[サイプラススペシャル]41 インライン画像検査システムで信頼の品質管理を

長野県南箕輪村

アルゴル

インライン画像検査システムで
信頼の品質管理を

 画像検査システムを構築する株式会社アルゴルは、2009年の中小企業庁の「元気なモノづくり中小企業300社」の1社に選ばれた。「キラリと光るモノ作り小規模企業」の部門である。中央自動車道伊那ICから車で約3分、水田が広がりさわやかな風が吹きわたる南箕輪村にあるアルゴルの社屋には、グリーンの文字「ALGOL」が掲げられ、伊那谷の風景と美しくマッチしている。

 100年に一度の不況が、「ようやく底を打った」と言われる中でも、アルゴルが手がける検査システムはじめ、生産設備部門の回復は、まだまだ厳しい状態が続いている。しかし、創業17年、17名の若き技術者集団を率いる岡谷市出身の今井博充社長の話に暗さはない。

社名は「アルゴリズム」から

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 「アメリカからはいってきた「画像処理」の発展は、パソコンの歴史と重なります。」今井社長から、まず、業界の説明をきいた。
 パソコンを扱う大手のメーカーが、多角化の一環として「画像処理」の事業部を作り、自社開発した時代もあった。(当初全国でも400社以上が参入したが、今大手で残っているのは画像センサーの処理部門を中心とした数社のみという。)
 画像処理検査とは、例えば、プレス加工した部品を、カメラレンズで捉え、縦横寸法はもちろん、巾・厚み・凹凸・間隔・方向などを把握し、パソコン上のソフトで良否を判定する検査方法のこと。それが医療機器の部品であれば、小さな欠陥が医療機器全体の精度というよりも、直接人の命にかかわってくる。検査システムの役割は重い。100パーセントの完成品が求められている。
 伊那市の産業用ロボット製造の会社で、ロボットの目となる画像処理の開発に従事していた今井博充氏はこの分野に注目、かねてからの「独立」への思いを画像処理による検査装置の分野で実現させた。1992年、37歳のとき、たった一人で有限会社アルゴルを設立する。社名のアルゴルはコンピューター用語の「アルゴリズム」=問題を解決する方法という意味から取った。

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 販売は、代理店が行い、今井社長は生産に専念した。最初の検査装置ができるまでは1年かかったが、性能の良さとあわせて、当時出回っていた検査装置の3分の1程度の価格のアルゴル製は良く売れた。
 しかし、順調であったセールスも、95年、大手メーカーが同様の検査装置を大量生産し、窮地に追い込まれた。苦境の中で、今井社長は、お客様の声が聞こえない、代理店販売の限界を実感したという。

お客様の声を聞く

 今井社長は、当初、ものは作ることと、製品を売ることは別と考えていた。しかし、代理店を介していては、製品についての要求や要望が入ってこない、悪い情報は作り手まで届かなかったという。一口に検査装置といっても、そのまま売ればいい商品ではない。各社の製品ごとのいわばオーダーメード、お客様の声が聞こえないと次につながらない。自分で「お客様のニーズを聞いて作る」、自社販売に切り替えた。更に、量で対抗してくる大手メーカーと同じ土俵では生き残れないことも痛感した。品質そのものは、大手メーカーに、勝てる自信はあった。しかし、数では圧倒的に不利、量ではなく、大手メーカーでは難しい高精度・高速など、ニッチで、手がかかる製品検査のシステムへ方向転換をしたのだった。

 お客様の声を聞き、大手メーカーが手を出せない高いレベルの検査装置を提供するアルゴルの技術開発の姿勢が形となった。

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ものづくりの信頼を担う検査システム

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 製品検査には、1000個のうち15個を抜き取り、そこに欠陥品がなければすべてよしとする抜き取り検査や、生産したすべてを検査する全数検査、また、生産ラインとは別ラインで製品をチェックするオフライン検査、そして生産ライン上に検査装置を組み込んで行うインライン検査など、様々な方法がある。しかし、検査はものづくりの「黒子」、システムの内容や項目は、製品のノウハウと表裏一体であり、また、製品コストをも左右する一面も見逃せない。
 今井社長は、「日本の製造業として、生き残っていくためにはいずれ、全品検査が必須条件になる。海外に勝つためには、不良品を出さない戦略しかない。」と語る。まだまだ100%のインライン検査は一部の業界のみだが、これからは、医療機器ばかりではなく、自動車部品、情報機器であるパソコンやケータイ部品など、大量生産品にはインライン検査が不可欠と、今井社長の思いは熱い。いずれ迎える「全品検査による欠陥品ゼロ」、それこそがアルゴルの検査システムが大きく力を発揮する時なのだ。

毎分3000個、これが「超高速」

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 アルゴルの誇る技術は、「インライン画像検査システム」である。案内された部屋にはデモンストレーション用の機器が並ぶ。「元気なモノづくり中小企業300社」選定で評価された「超高速プレス部品検査装置」も動いていた。装置の大きさは縦横約30センチ、巾も10センチほど。パソコンとあわせてもコンパクトなサイズだ。値段は、検査装置そのものが70万~75万円、システムとして納品して、画像処理のレンズ・照明、ソフトなどを据え付けて100から200万、1台から対応可能という。ハードの開発設計、ソフトの設計まで含め、アルゴルの技術が高く評価されている。

 デモ機の検査対象は、2センチほどのプレス部品、この部品が、直径15センチほどの円状のリールに水平に留められ、装置内のカメラの前を通過していく。ゆっくり動いている時には、部品にLEDストロボ照明があたり、CCDカメラで撮影される瞬間が目で認識できる。
 隣に並んでいるディスプレイの中央部には、カメラで撮影された部品の一つ一つが映し出されている。そしてその同じ画面で、検査結果が「OK」と赤字の「NG」の文字で表示される。撮影と同じスピードで検査の結果が表示されるのだ。「画像処理」は、パソコンの歴史、という社長の説明が納得できる。
 今井社長が装置のスピードを上げた。ディスプレイは、ずっと同じ部品が映し出されているかのような画面、目では追えない。ストロボ照明のフラッシュも、一定の明るさの光が当たっているようにしか見えないのだ。検査結果の文字表示だけが唯一「動いている」と認識できた。この装置が毎秒60フレームの倍速カメラを使って画像処理できる個数は、1分間に3000個、つまり1秒間に50個である。しかも、測定精度は10μmという。
 このような高速で高精度の装置が大量生産のラインに組み込まれると、「最後は人の目で」ではなく行われる「超高速」の検査、製品の完成度への信頼とともに、コストダウンの大きな力になるに違いない。

システムは自社開発、お客様へは「専属オーダーメード」

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 画像検査システムには「画像処理装置」「画像処理ソフトウェア」「照明」の3つの要素がある。アルゴルの大きな特徴は、このソフトからハード、照明までを一貫して開発していることだ。これは、「お客様のニーズを満たす」検査システムには、照明装置も必要、ハードも必要、組み込むソフトも必要と、アルゴルが、画像処理システムをトータルに捉え、技術を開発し続けた結果である。特に照明の分野ではリング型の1670万色フルカラーLED装置を開発、検査に最適な色と、検査対象を均一に照らす技術が新たな分野にも活用できると注目されている。今井社長が大切にする「お客様の声」が、アルゴルの技術開発を強力にあと押ししている。
 更にもう一つ、アルゴルには「専属オーダーメードシステム」がある。一人のお客様に対して1人の担当者が、仕様の決定から、開発、納入、アフターフォローまで行う仕組みだ。検査システムを知り尽くしたアルゴルの技術者であればこそ可能になるシステムの提供とサービスである。検査装置はお客様のニーズで作られるもの、納品後の調整も、仕様段階からの開発担当者だからこそ的確で迅速な対応が可能になる。お客様の製品についてはお客様がプロ、検査についてはアルゴルがプロ、部品のプロと検査のプロが一緒になってより精度の高い製品を提供する、より良いものを作りたいという今井社長の姿勢が、伝わる「専属オーダーメードシステム」である。

最新技術は「3次元検査装置」

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 アルゴルの最新作は「3次元表面形状を非接触で全自動検査可能な装置」である。これもインライン可能な検査装置だ。光を格子状にあて、凹凸形状を1台のカメラで捉え計測する。検査結果は、ディスプレイ上にグラフィック画面を含む4画面で表示される。照明と検査ソフトと装置と、まさにトータルな最先端の技術の集約だ。
 しかし、今井社長は満足していない。「この技術を『売れる』装置にするためには、速度や精度が必要。」「この技術を製造ラインに入れたいというお客様を待っています。」 1日も早い商品化が待たれる。

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 1日の半分は経営者で半分は現場という今井社長、お客様の声に耳を傾けた製品作りを大切に、お客様と関係も売って終わりではないと、フォローを忘れない。社員への視線も穏やかだ。
 「ようやく一昨年ぐらいから、新人を採用できるようになりました。この4月もインターンシップを経て2人が入社しました。」社内の雰囲気が、若々しい。
 「社員に対して、心がけているのは、あれしろ、これしろとは言わないこと。方向は決めるが、決まった方向に対しては、お客様のニーズを最優先で仕事をする。」
 「足りない技術は自分でやるしかない。先輩にきくとか、社内には、個々に高めていくという雰囲気があるんですよ。」ものづくりの苦労と楽しさを経験をしながら、社員も会社も伸びる。「不況の中で今までに、なかったニーズも出てきている。」今井社長には、既に次のステップが見えてきているという。まさに「アルゴリズム」である。
 社内を吹き抜ける風もさわやかである。

【取材日:2009年7月23日】

企業データ

株式会社アルゴル
長野県上伊那郡南箕輪村8211-12 TEL:0265-76-7845
http://www.algol.co.jp/